嫁に来ないか!
ここは球川中学校の3階にある家庭科室。
俺と土方の在籍する3年B組は、家庭科の授業の真っ最中だ。
二人とも同じ班の俺と土方…俺達は数人の仲間と調理実習をしている。今日のメニューはオムライスとサラダとスープ…どれも典型的な調理実習のメニューだ。
男女別れての実習だから俺達の班の仲間は全員男子。どいつもこいつも慣れない調理に悪戦苦闘している…
慣れない包丁使いにみんなが右往左往する中、俺はサッとエプロンを着けると慣れた手つきで手早く野菜を刻んでいく。
そんな俺に気が付いた仲間の一人が俺に近付いて驚きの声をあげる。
「風見〜!なんだよお前…スゲーな!プロみてーじゃん!!…おい!みんな見てみろよ!」
「おお〜!!本当だ!風見すげー!」
「マジか?!……なんかすげー手際いいんだけど…」
仲間の言葉に班のみんなが俺の周りにどんどん集まり…手際よく調理を進めていく俺に次々と感嘆の声をあげる。
「風見…お前って料理出来るんだなぁ〜…知らなかったぜ!家でも作ってんのか?」
仲間のそんな問い掛けに答えたのは……俺じゃない。
「まぁな!風見の両親は共働きだろ?母親の帰りが遅い時が結構あってな!そんな時は風見が妹達の夕飯用意したりしてるんだぜ〜…だから料理が出来るんだよ!…風見ってすげーだろぉ〜!」
何故か俺の代わりに答える土方……
俺の事だっていうのに土方はまるで自分の事の様に得意顔…やたら自慢気に話している。
「…って土方!…なんでお前が答えんだよ!」
そんな土方に俺は苦笑いしながら思わず突っ込む。
「いや〜だって…お前の事は俺の事だろ?」
「…はぁっ?…バカっ!!何言ってんだよ!意味わかんねー事言うなっての!」
「だって本当の事だろ?」
「……もうっ!」
「ははっ!始まったな〜いつものお前らの夫婦漫才!」
周りのヤツラはいつもの調子の俺と土方を冷やかす。
まぁ〜…すごく仲のいい俺と土方のこんな掛け合いは確かにいつもの事だけど…
俺より何倍も身体がデカい土方は、その身体に見合った広い心の持ち主で…優しくて実直で嘘が付けないなんとも真面目なヤツ。
…ちょっと鈍感で融通が効かないところもあるけど…でも男らしくてすっごくイイヤツだ。
でも…こいつのデリカシーのなさは酷いもんで…
こんな風にみんなの前で俺を特別扱いする様な事をはっきり言ったり俺の全てを知ってるみたいな言い方をしたり。
…確かに俺は土方に何でも話すし隠し事もないし…土方をすっごく頼りにしてるけど!でも…あまりにも土方が俺を理解して大切にしてくれるから…なんか俺にとっても土方が特別な存在に思えちゃって……
…少し恥ずかしいけど、真面目に素直に俺を大事にしてくれる土方がやっぱり嬉しかったりもする…
土方はいつも俺の事を考えて心配してくれる…優しくて強くて頼りになって…俺はそんな土方が大好きで…
…正直に言っちゃうとその俺の「好き」ってのは…友達としてというよりも男として…っていうか…友情とか親友とかの「好き」じゃなくて…それ以上の気持ちがあるのかも…
ううっ…そう思うとなんかすごく照れる……
俺にそんな気持ちがあるなんてすっごく恥ずかしいし、そんな事言ったら土方はますます調子に乗るだろうから絶対言わねーけどな!
「…しっかし…土方は本当に風見の事何でもよく知ってんな〜!」
「まぁな!俺は風見の事で知らない事はないからな!風見の事は全部知ってる自信がある!」
「ははっ!…まったく…お前らはまるで恋人同士だな!」
「こっ…恋人ぉ?!…」
仲間のこの一言に俺は一気に動揺…
いつも仲のいい俺と土方を冷やかす軽い冗談だとわかっていても…心の中でこっそりと土方を特別に思っている俺はそこをズバッと指摘されたみたいな気になって…ひどく動揺してしまう。
「…なっ…なんで俺と土方が!!んな訳ねーだろっ!!
「…いや〜…お前らがあんまりにも仲いいからさ!…」
「そっ…そーゆー事言うのやめろって!!」
仲間の軽い冗談をやたら真面目に受け止めてしまって…俺の顔は真っ赤!
土方と恋人…俺はちょっとだけ想像しちゃって………なんだか猛烈に恥ずかしい……
「ははっ!…おい土方〜風見のヤツすげー照れてんぞ〜!」
「…てっ…照れてなんかねーよっ!!」
俺と仲間のやり取りを聞いていた土方がニヤッと笑いながら嬉しそうに口を挟んでくる。
「そうだぞ…風見!俺とお前の仲なのに…今さら照れんなって!」
「…バカっ!!土方…お前がそーゆー事言うな!!」
俺は真っ赤な顔で土方に詰め寄る。
「…ははっ!お前らって本当に仲いいなぁ〜!
まるで本当の夫婦漫才みたいな俺と土方のやり取り…俺達の周りの仲間に笑いが起こる。
仲間の「俺と土方が恋人同士」というなんとも恥ずかしい言葉は…どうやら本当に冗談だったみたいだ…
…あ〜…良かった…冗談ですんだみたいだ…
土方へのちょっとした愛情を感じている俺は軽い冗談で終えた周りの雰囲気にホッと胸を撫で下ろす。
そんなこんなで俺達が賑やかに騒いでいると…そこへ響く先生の大きな声。
「こら!お前達…遊んでないで真剣にやりなさい!時間に間に合わないぞ!」
…ヤバイっ!!……確かに遊んでばっかでなにも進んでない…
怒られた俺達は慌てて持ち場に戻る。
和やかな雰囲気の中調理が続き…次は切った具材を炒める番だ。
料理が得意だという事が仲間に知れ渡った俺は調理の大半を任されてしまう…でも俺は料理が嫌いじゃない。
仕方ねーなぁ〜…と思いつつ…俺はこれまた慣れた手つきでフライパンをふるう。
すると土方がそんな俺にそーっと近づき、その大きな身体に似合わない小さな声で耳打ちする…
「…なぁ風見…お前…いつでも嫁に来れるな…」
「…ば…バカ…俺は男だぞ……なんで嫁に行かなきゃならんのだ…」
土方の小さな囁きに、何故か俺も小声になってしまう。
「…だって……風見は俺の嫁になるんだろ?」
「…はぁっ?…なっ………なに言ってんだよ!」
予想外の土方の一言…その言葉に一瞬心臓がドキッと鳴ったのが自分でもわかった。
俺の顔は耳まで一気に真っ赤になり…身体がカーッと熱くなってきて胸が一気にドキドキと高鳴ってくる…
そんな俺とはと対照的にやたら冷静な土方…
「…風見は俺の事…嫌いか?」
「きっ…嫌いじゃねーけど…」
「……じゃあ…俺の事好きか?」
「ばっ…バカっ!!好きとか…そんな……その…」
「…えー…嫌いなのかよ…」
土方の表情が一気に曇る…その悲しそうな顔に俺はすごく慌ててしまって…
「…きっ…嫌いじゃねーよ!好きだよっ!………あっ………」
さっきの胸の高鳴りに加えて土方のやたら悲しそうな顔に俺は完全に動揺…
冷静な土方の誘導尋問にまんまと引っ掛かってしまった俺の口からはつい本音が……
俺の正直な言葉に土方は嬉しそうにニコッと笑った。
土方のその優しくて穏やかな笑顔…俺はこの笑顔に猛烈に弱いんだよな………
「…じゃあ…決まりな!」
「まぁ…いいけど……って〜おい!…なんでそうなるんだよ…」
大好きな土方の優しい顔についつい流されそうになる俺……ハッとして慌てて我に返る。
マイペースな土方の言葉に振り回されつつ…俺の頭の中はモヤモヤとしてきて…
…土方のヤツ大食漢でかなり食うから作りがいあるかもな……確か好物はカレーだったよな!…具が大きくてゴロゴロ入っててしかも甘口!あんなデカイ図体して…お前は子供かよ!…………って…俺は一体何を考えてるんだ?!…
…そもそもなんで嫁なんだよ!俺は男だぞ!嫁とかありえねー!俺は女じゃねーし!…でも土方とはずっと一緒にいたい…嫁になればずっとそばにいられるのか?…それなら嫁もいいのかも……なんて俺は女じゃねーって今思ったばっかじゃねーか!何言ってんだよ!俺は!
……一人で悶々と考え込む俺…
周りの仲間の大きな声にはっと我に返った。
「おっ…おいっ!!風見!焦げてるって!!」
「えっ?…あっ!…わーーーー!!」
俺の炒めていたフライパンから白い煙がモクモクと上がる…
俺のフライパンの中身は黒焦げ……
…もう!!土方が変な事言うから!…
慌ててフライパンを火から下ろし俺はハァーっと大きな溜め息……ふと気付くと…さっきまで俺のそばでヒソヒソと耳打ちしていたはずの土方が俺から少し離れた所でのんきにレタスをちぎっているではないか!
「ははっ!…風見ぃ、焦がすなよ〜」
大慌ての俺を見ながら意地悪げに笑っている土方……その顔はまるで他人事だ。
…土方のヤツ!このバカっ!!…お前のせいだろうが!!
俺はかなり動揺してしまってうっすら涙目…
「なんだよ泣いてんのか?…あっはっは!本当に風見は可愛いヤツだな!」
そんな俺を見て土方は豪快に笑うと、何事もなかった様に再びのんきにレタスをちぎり始めた。
その日の放課後…
「なぁ〜風見!」
「…なんだよ…」
「お前は俺の大好物って知ってるか?」
「…え?……確か…カレーだろ…?しかも具がゴロゴロ入ってる甘口な!お前は辛いのが苦手だもんな〜」
「…おっ!正解!細かいとこまで知ってんな〜…さっすが俺の嫁になる男だな!」
「……まっ…またお前はそんな事言って…」
「風見はいつもそーゆーけどさ!お前は俺の嫁になんのは嫌なのか?」
「……別に……嫌とかじゃねーけど…俺は男だぜ?!どう考えても嫁には行けねーだろ!」
「…そうか?お前は小さいからな〜…俺にとっては女みたいなもんだけどな…」
「…ばっ…バカっ!!なんだよそれっ!」
「だって…風見は小さくて可愛くて素直で優しくて…嫁にするには最高だからな!」
「………お前よくそんな恥ずかしい事言えるな…」
「別に恥ずかしくねーよ!…だって俺はお前とずっとずっと一緒にいたいんだよな!……ずっと一緒にいる…つまり嫁だろ?」
…別に嫁にならなくても一緒にいられるだろ!
ニコッと俺に笑いかける土方に、俺はそう思ったけど…俺の大好きな土方の穏やかな屈託のない笑顔には敵わない。
自分勝手でマイペースな土方に振り回されてばっかの俺…
…やれやれ…まったく土方は……
でも…自分でも呆れるけど…俺はそんな土方も好きだったりして…
「…じゃあ、土方がもっといい男になったら考えてやるよ!」
「任せとけ!!お前が惚れて惚れて離れらんねーぐらいのいい男になってやるよ!」
「…だから…そーゆー恥ずかしい事言うなっての!」
「ははっ!…すまんすまん!」
土方はそう言うと俺の髪を優しくクシャッと撫でた。
「あ!もうこんな時間だぜ…土方!早く部活行かねーと遅れるぞ!」
「……なぁ〜風見!」
「…ん?今度はなんだ?」
「今日の帰りにお前ん家寄ってもいいか?……確か今日はお前が晩メシ作る日だろ?」
…確かにそうだけど…なんでお前が知ってんだよ!
土方の物欲しそうな目……
「……そんなに食べたいのか?」
「あぁ!すっげー食いたい!!お前の料理って本当に美味いからな!」
土方は俺を見つめてニコッと優しく笑う。
…土方のヤツ…また俺が弱いこの笑顔……ダメって言えないじゃねーか…
「…もう…仕方ねーなぁ!じゃあ〜おばさんに俺ん家で食べるってちゃんと連絡しとけよ!」
「やったぁ!サンキュー!風見大好きっ!!」
「…デカイ声で大好きとかゆーのはやめろっ!!」
「なんだよ…恥ずかしいのか?」
「…当たり前だろっ!!」
「ん〜…俺は別に恥ずかしくねーけどなぁ〜…だって本当の事だし…」
「…あ〜!!もう!やめろって!!」
「…照れちまって…風見可愛いなぁ〜やっぱり俺の嫁にぴったりだ!」
…また始まった土方の俺を嫁に迎える話…
俺はすごく恥ずかしくなって慌てて話題を変える…
「ほっ…ほら!遅れるから早く部活行こうぜ!」
「おう!…あ〜楽しみだなぁ〜…なぁ、今日はなに作るんだ?」
「……う〜ん…実はまだ悩んでんだけど……」
「カレーにしろよ!俺カレー食いたい!」
「ん〜…カレーかぁ〜…最近作ってなかったし…いいかもな!」
「…じゃ〜決まりだなっ!甘口でゴロゴロ入ってて………風見の俺への愛情が一杯入ってるヤツな!!」
「…ばっ…バカっ!!…またそんな事言って!…もう!先行くからなっ!」
「…ははっ!照れんなって〜」
恥ずかしくて仕方なくて足早に歩き出した俺を、土方は優しい笑顔で追いかけてきた。
*この二人の溢れる幸せ感…大きな土方さんと小さな風見さん…マイナーCPですが可愛くて好きです♪素直でマイペースな土方さんに翻弄される風見さん的なカップルぶり…可愛い…このCPはとにかく幸せな小ネタが浮かびます!
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