『はぁっ…はあっ…あ~間に合った~~』
息を切らして駆け込んだ俺の前には一台の大きなバス。
今日俺は弾平に会いに来ていた。
弾平は少し前からドッジ修行の旅に出ていて行方知れずだったのだが、珍念のヤツから今はとある県の山の中にいると聞いて遥々会いに来たのだった。
まぁ~~本当にすげぇ山ん中だったけどな!
よくあんな所で暮らせるもんだ…さすがは野生児弾平。山道というか獣道をあちこち迷子になりながら登って、なんとか弾平に巡り会えた。
弾平のヤツ、すっかり逞しくなりやがって……久々に会った弾平は身長も伸びてすっかり大きくなっていた。筋肉も付いて身体もかなり大きくなっていて…まぁ俺ほどじゃねぇけどな!
昔は俺の肩に乗るほど小さかった弾平の目を見張るほどの成長ぶりに俺はすっかり驚いた。
会うのが久々とはいえそこは俺と弾平の仲、あっという間に昔みたいに戻って積もる話をしたりドッジしたり…楽しくてついつい遅くなっちまった。
神奈川に帰るために夜間の高速バスを予約していたんだがマジでギリギリ!
…あっぶね~乗り遅れる所だったぜ…
間に合わないかと思ったけどダッシュで走ってなんとかなった。さっすが元荒ア小球川部主将の俺!
取り敢えずバスに乗ってしまえばあとは夜明けには神奈川に着くはずだ。
時間は発車ギリギリ、俺は早速空いていた乗り口からバスへと乗り込んだ。
高速バスの席は前売り方式の完全指定席だ。
俺の席はどこかと辺りを見渡し自分の席を探していると……俺は一人の男と目が合った。
『…あっ!』
ちょうど真ん中辺りの席に座っていた大柄な男…それはあの聖アローズ学院の五十嵐だった。
こいつ五十嵐…だよな?なんでこんな所に…
下を向いていた五十嵐もじっと見詰める俺の視線にに気付いたのかはっとした顔で俺を見た。
『…お前…もしかしてアローズの五十嵐か?』
『お前は確か荒アの……』
『そうだ、俺は陸王、荒アの陸王冬馬だ。』
『やっぱり……』
五十嵐は二階堂大河率いる聖アローズ学院闘球部の副主将だ。
俺達荒アとはあんまり接点はなかったが、それでもこいつの存在は知っている…聖アローズの要である六魔天のリーダー、五十嵐剛。
聖アローズは新設校ながら様々な大会で実績を残ししかなり注目されている学校で、闘球部初代主将は学校創設者の息子の二階堂大河。素性はよくわからんがものすごい金持ちらしい。
そしてその大河を取り巻く五十嵐率いる六魔天達…俺が見る限りどいつもこいつも主将の大河を猛烈に慕っていたが、特に副主将を務めるこの五十嵐剛の大河への忠誠心はずば抜けているように思えた。
まぁこいつは主将である二階堂大河の忠実な僕…ってとこか。
なんでそんなに大河を慕うのか…五十嵐はどういうヤツなのか……なんっか俺はこいつに興味あんだよなぁ~~
初めて大河率いる聖アローズの試合を見てから、俺はこのチームに…というかこの五十嵐剛という男にとてつもなく興味を持っていた。
見ると五十嵐の隣の席が空いてるじゃねーか。
ふ~んそれなら……ドサッ!!
俺は何気ない顔をしてすかさずそこに滑り込む。
『…なっっ、陸王なに俺の隣に座ってんだ??お前の席ここなのか?!』
『知らねー、でもまぁ空いてんだろ。』
『…空いてるって…自分の席に座れよ!』
『ははっ、まぁ~細けぇ事気にすんなって!せっかく一緒になったんだからよ!』
『はあっ?!何言ってるんだ!なんでここに座るんだ?!…俺は急ぎでやらなければならない事があるんだ。邪魔だ、狭苦しい!』
五十嵐も俺もかなりの大柄だ。確かに狭い夜行バスの席に2人並んで座るとかなり狭苦しい…でもこんな機会は滅多にない!
勝手な俺の行動に憤る五十嵐の言葉をスルーして俺は臆する事なくしっかり座り込む。
周りを見渡すともうすぐ発車するってのに他に乗客は誰もいない。
…ん?そういえば、席を予約する時もほとんど空席だったような…俺はタッチパネルで見た席の空き状況を思い出していた。どうやら客は俺達だけらしい…さすがにうるさくしたら他の乗客に悪いしな、それぐらいのマナーは俺にだってある。
いろいろ話すにはちょうどいい、こりゃあまた好都合!
『おいっ!陸王!!聞いてるのか?!自分の席に座れと言ってるんだ!!』
『……』
俺は眉間に皺を寄せて詰め寄る五十嵐を完全無視。
五十嵐のヤツおっかねぇ顔してすげぇ怒ってんなぁ…まぁ動き出せば諦めるだろ……
五十嵐がどんなに憤慨しようが俺は全くもって動く気なし!!
急に割り込んできた俺に怒る五十嵐とそれを無視して飄々としている俺を乗せて高速バスは定刻通りに一路、神奈川へと動き出した。
『……陸王!!』
『……』
『聞いてるのか?!陸王っっ!!』
『…そんなにでけぇ声出すなっての、一応車内だからな。』
『……何言ってんだ!!お前が…その…』
車内に響き渡る自分の怒号に気付いた五十嵐の声は急に尻すぼみ…
周りを見渡すと諦めたように一言。
『…まったくなんてヤツだ…』
これ以上言っても無駄だと諦めたのか五十嵐は、はぁーっと大きなため息をついて姿勢を正してパソコンへと向かう。
……ははっ!俺の勝ちだぜ!!
思い通りになって俺はしたり顔。
しっかしな、金持ちの聖アローズの五十嵐がなんで高速バスになんて乗ってんだ?飛行機とか二階堂家専用ジェット機とかねーのか??そう、『エアフォースワン』みてぇのとか…と俺は前に見た映画を思い出したりして。
『なんだよ五十嵐、なんでお前高速バスになんて乗ってんだ?天下の聖アローズさんがこんな夜の高速バスで移動なんてすんのか?』
『……』
『なんだよ無視すんなって!』
『……うるさいヤツだ。俺は飛行機を予約していたんだがちょっとした手違いで乗れなかったんだ。明日までに大河さまに届けたい資料があるからどうしても今日中に神奈川に帰りたいんだ。』
『ふ~ん、それはご苦労なこった~』
やはりそうだ。
わざわざ時間のかかる不自由な高速バスを使う理由はやっぱり愛しい大河のためらしい。
なんだって五十嵐はこんなに大河を慕ってんだ?
俺だって荒ア主将として部員には慕われているが、こいつらの大河への忠誠心は元主将と部員という関係を引いたって尋常じゃない。
ごちゃごちゃ考えるのは苦手なんだよな…俺は前からの疑問をぶつけてみる事にした。
『なぁ~お前らってなんでそんなに大河を慕ってんだ?』
『…うるさい。そんな事お前に話す必要もないだろう。』
五十嵐はパソコンから目をそ逸らす事なく面倒くさそうに扱うがそんなもんに負ける俺じゃねぇ。
『大河が金持ちだからか?』
『…バカかお前。そんな下世話な理由ではない。』
『じゃあなんでだよ!せっかく一緒になったんだから話せよ!いいじゃねぇか!』
『……なんてしつこいヤツなんだ…』
俺の執拗さに諦めたのか五十嵐は、はぁ…と深いため息をついてパソコンを閉じた。
『仕方ないな。人のプライバシーにズケズケ入り込むような下世話なお前にそう捉えられると迷惑だからな。』
『ははっ、そうこなくっちゃ!』
思い通りになって満面の笑みの俺!
窓の外に見える流れる明かりを眺めながら五十嵐は話し出した。
『俺の五十嵐家は代々二階堂家に仕えてきたんだ。俺の父は大河さまの父親の勇一さまに、俺は息子の大河さまに。』
『…大河の親父の代から?』
『そうだ、六魔天の他のヤツらもみな同じだ。みんな二代に渡って二階堂家に仕えているんだ。陸王、お前は大河さまの家柄を知っているか?』
『…ん~金持ちって事ぐらいしかわかんねーな!』
『……単に一般的な裕福な家庭という訳ではない。大河さまの二階堂家は世界でも屈指の大財閥だ。そしてその繋がりで多くの会社を経営し傘下の企業もたくさんある。日本の名前のある企業はほとんど二階堂財閥の傘下だろうな。5年ほど前に旦那様の勇一様から正式に当主を引継ぎ、今はその二階堂財閥をまとめるのは大河さまだ。』
『……はぁ~~…』
世界的大財閥?企業?傘下??…規模のデカイ五十嵐の話にさすがの俺も驚いた。
金持ちだとは思っていたがこれほどまでとは…
…大河ってそんなにすげぇヤツなんだなぁ……
『大河さまは立場柄たくさんのものをか抱えてらっしゃっている。二階堂家の事、会社の事、そして働く従業員の事まで考えていらっしゃる。それはあまりにも大きくてとても一人で背負えるものではない。だから俺達が傍にいて大河さまを支えているんだ。』
…まぁ確かに大河の抱えるもんはでけぇんだろうな……
そういった世界に詳しくない俺でもそれぐらいは安易に想像できる。
それほどの大きなものを背負い、二階堂家当主として奮闘する大河を支えたいと思ってるんだ、こいつらは…
真剣に話した五十嵐の言葉は嘘ではないだろう。
でもな、俺が前に少し見た大河と五十嵐達の関係はまさに『服従関係』って感じだった。大河が一方的にこいつらに命令してるような……
俺にはどうも大河が五十嵐達に対して傲慢に見えて仕方なかったんだが…そうじゃねぇのか?
『…なんか前に見た時に大河のヤツがお前達にずいぶん偉そうにしてるように見えたんだが…』
『…偉そう?大河さまが?!』
困惑の色を浮かべて俺の顔を見る五十嵐。
思いがけない俺の言葉に心底驚いているようだ。
『偉そうにしているなんてとんでもない!大河さまは優しくて器の大きい素晴らしい方だ!俺達の事をとにかく気遣って優しくして下さる。立場柄、そのように振る舞う事もあるから他の者にはそう見えてるのかもしれないが…決してそのような事はない。大河さまは二階堂家当主にふさわしい、仕えるに値する尊敬するお方だ。』
……ふ~ん…そうなのか……
俺から見ると傲慢な大河にひたすら仕える下僕達…という感じだったが、どうやらそうじゃないらしい。
『傲慢』ではなく互いの立場を理解しているからこその態度なのか……
五十嵐達が大河を支え、また大河もみんなを支えている…そうか、五十嵐達と大河はある意味『対等』なんだ。
五十嵐からの話しを聞いてこれで六魔天のヤツらがあれほど大河を慕っている理由がわかった。
でも、俺が知りたいのはもう一つ……これは俺の下世話な好奇心ってヤツだけどな!
俺は五十嵐にそっと耳打ちする……
『…なぁ五十嵐お前さぁ~大河に言わなくていいのか?』
『……言うって…なにをだ?』
『何を…じゃねーだろ…大河に好きだって言わなくていいのかって事に決まってんじゃねーか…』
『…そっそっそんな事っっ言えるわけがなかろう!!』
……そんな事言えるわけ…?
五十嵐の本心が滲み出た言葉を俺は聞き逃さなかった。
『ふ~んやっぱり五十嵐は大河の事好きなんだな~』
『…なんでっ?!』
『だって、好きじゃねぇ…って否定しないじゃねぇか…』
『うっ……』
みるみる赤くなる五十嵐の顔……なんて分かりやすいヤツ!!
やっぱり俺の思った通り、五十嵐の大河への忠誠心はほのかな恋心…なんだよ五十嵐~可愛いとこあるじゃねーか!
そんな大河に恋する可愛い五十嵐に俺はちょっとした意地悪をしたくなっちまった。
『なぁ~俺にしねぇ?』
『…はぁっ?!』
『だから、大河なんてやめて俺にしねぇかっての!』
『…きさま何を言ってるんだ…』
『だってどうせ叶わねぇ想いなんだろ?それなら俺にしろって!俺ならお前のいろ~んな欲を満たしてやれるぜ!』
『こんの…バカッ!!冗談言うなっ!!不愉快だ!!』
『つれねぇなぁ五十嵐…』
『うるさい!!まったくお前には付き合ってられん!!これからまた作業するからな、絶対邪魔するな!』
大激怒の五十嵐は俺を冷ややかに一瞥するとまたパソコンに向かった。
あ~あ~怒らせちまった…半分冗談じゃなかったんだけどな…
夜通し走る高速バスは暗い高速道路を走り続け、休憩のためにあるサービスエリアに立ち寄った。
ん~少し降りてコーヒーでも飲むか…
あれから五十嵐は俺とは一言も喋ってくれない。すっかり怒りを買っちまったもんだ……
でも、少しでも話せたのは収穫だったな!
五十嵐と話すなんて滅多にない事だ、きっとあいつは夜通し資料をまとめるんだろうな…愛する大河のために!もしかしたらまた話すチャンスがあるかもしれねぇし。なんてったってせっかくの五十嵐との二人っきりの時間、眠くなったりしたらもったいねぇ。
…ガチャン
俺は自動販売機で缶コーヒーを買うとぐっと一息で飲み込む。
傍にあったゴミ箱に空き缶を捨ててふと思った。
…五十嵐にも買ってってやるか…
すっかり五十嵐の機嫌を損ねちまった。
ここでひとつ和解のために…
俺は再び自動販売機に戻るともう一つ同じコーヒーを購入した。
バスに乗り込んで席に座り、隣の五十嵐にコーヒーを渡そうとして気が付いた。
……五十嵐が寝ている。
多分この資料とやらをまとめるためろくに寝てなかったのだろう……
あ~あ~そんなに『大河さま』が愛おしいかねぇ~
……五十嵐の一途な忠誠心…つまりそれは『恋心』に繋がっている…
好きな男の人生を支えたい…想いが遂げられないとしても……
……可愛いとこあるじゃねぇか…
すぅすぅと優しい寝息を立てる五十嵐の穏やかな顔……いつもの眉間に皺がよってる苦い顔とはまったく違う素顔…
なんだ可愛い顔して寝やがって……
ふ~ん……そんなに大河が好きなのかよ…
ちょっとした俺のジェラシーか……
五十嵐の顔に近づき…その唇を見つめる……
……目ぇ覚ますなよ…俺は祈りながら唇を重ねた。
しばらく穏やかに走っていた高速バスだが、道路の段差にガタッと揺れた。
『…しまった、寝てしまったのか……』
『ははっ、おはよう五十嵐くん!』
その振動で起きた五十嵐に俺は爽やかに声をかける。五十嵐は少しぼんやりとしていたが、はっとして不穏な顔で口を擦る…
『ん?なんだ?コーヒーの味が……』
やべっ…もしかして俺が飲んだコーヒーの味が残ってた??
五十嵐はコーヒーの缶を持つ俺を一瞥。
勘のいいこいつの事だ、間違いなく気付くであろう、俺が寝込みにキスをした事を……
『……陸王お前…聞きたくはないが、俺に何をした?……』
『あんまりにも無防備に寝てやがるからキスした。』
『…なっっ…!!陸王おまえっっ!!』
ははっ、バレちまったか~~
予想通りの俺にキスをされた事実を知った五十嵐の顔が一気に赤くなる。
『なにすんだきさま!!ふざけてるのか?!』
『ふざけてなんかねぇよ。気持ちよさそうに寝てるお前見てキスしてぇと思ったからした。』
『……きっさま~!!』
『なんだよキスぐれぇでそんな騒ぎやがって…あれ??まさか…ファーストキスだった?』
『ばかいえっ、キスぐらい…』
『へぇ~相手は誰だよ、大河か?』
『そっそんな…大河さまと…何を言って……まさかそんな事……』
五十嵐は顔が一気に赤くなりしどろもどろ。
あ~あ~そんなに動揺しちまって…こいつの弱点は完全に二階堂大河だな。
『…とっ…とにかくこれは事故だったと思うことにしてやる。バスが揺れて不測の事態だった。だからお前も忘れろ。』
『ヤダね、したいと思ってしたキスなんて忘れられる訳ねぇだろ。』
『……こんの…バカ者!!ダメだ、忘れろ!!』
『お前の唇案外柔らけぇんだな~いいキスだったぜ!俺…結構そそられちまったなぁ~』
『……りっ陸王っっ!!』
『ははっ!ごちそうさん!』』
和解どころかまた機嫌を損ねちまったけどなぁ~まぁいい、五十嵐とキスできるなんて思いがけない大収穫に俺は大満足だ!
『なんだよ、大河のために朝までに資料まとめるんだろ?怒ってねぇで頑張れって!ほらっ!』
『……くそっ…ああもう!!』
憤る五十嵐としたり顔の俺を乗せて、高速バスはまだまだ走るのだった……
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