嫁に来ないか!〜story2〜
ここは球川中学校、3年B組…俺と風見の在籍するクラスだ。

長かった午前の授業も終って今は楽しい昼休み。
クラスのヤツらは外でサッカーをしたり…教室で本を読んだり…みんなそれぞれにこの昼休みを過ごしている。

俺はというと…窓際の自分の席に座って一人のんびりと闘球の雑誌を読んで過ごしていた。いつも俺の側にいる風見は今日は日直で、次の授業の準備のために担任に呼ばれて一人で教務室に行ってしまった。
風見だけだと心配だから俺も付いてく!…って言ったんだが…「子供扱いすんな!一人で行ける!!」なんて完全拒否されちまった。
風見にそう言われては仕方ない…
風見が心配だから〜…なんて言って本当は俺が風見がいないと寂しいからなんだけど…う〜ん…風見には俺の思いは伝わってないらしい…

風見は本当に可愛いヤツだ。
料理が上手くて優しくて面倒見が良くて何事にも一生懸命で…ちょっと素直じゃなくて意地っ張りなところもあるけれど…そこも風見の可愛いとこ!…そして何より俺が可愛いくて好きだと思ってるのは…風見がすごく小柄で小さい…っていう事!

俺はかなりガタイがいい方なんだが、風見はそんな俺より何倍も何倍も小さくて……風見がチョコチョコと歩いてる姿なんてまるで小さいウサギがピョンピョン跳ねてるみたいですげー可愛いんだよな!
俺はそんな風見があんまりにも可愛くて仕方なくて…風見に「嫁に来い!」ってさりげな〜くプロポーズしてるんだけど…冗談っぽく言っちまうせいか…はぐらかされてばっかり。
だって俺は大好きな風見とこれからもずっとずっと一緒にいたい…それなら俺の嫁になればいいじゃねーか!風見は男だけどそんなの俺には関係ない。俺は風見が大好きだ!だから風見のそばにいたい!ただそれだけだ!
…なんて俺の気持ちは固く決まっているけど…実際風見は俺の事どう思っているんだろうなぁ〜…
俺もさすがに風見にこの気持ちを真剣に伝える勇気がなくてつい冗談っぽく言っちまってるし……風見のヤツ…多分本気にしてねーだろうなぁ〜…


あ〜…風見がいない休み時間は本当に面白くない!…つまらん!…
授業の合間の休み時間は短い。だから長い昼休みには色んな事話そうと思ってたのに…
風見はいつも俺のくだらない話もつまんない話も面倒がらずにちゃんと聞いてくれる。俺達はいつも一緒の時を過ごして…色んな話をして一緒に笑ったり怒ったり…風見はいつも俺にしっかりと向き合ってくれる。
風見と過ごす時間は俺にとって楽しくて幸せで…俺は風見がいるから嬉しくて…幸せで…何をしてても楽しくて…
風見は俺のいいところも悪いところも、ありのままの俺全部を優しく受け止めてくれる……俺の一番の理解者。
デカイ身体して情けないが…俺は風見がいないと本当にダメなんだ。

…風見…早く戻ってこねーかな…
そんな風見がいなくて寂しさいっぱいの俺…手元の雑誌をぼんやり見ながらとにかく風見の帰りを心待ちにしていた。


ふと見ると教室の真ん中辺りで何やらヒソヒソと話をしているのは、クラスの男連中5〜6人。
なにやら顔を寄せあいコソコソ…時々俺の方をチラチラと見ている…

…ん?なんだアイツら……
ヤツラの視線が気にはなるが……まぁ…多分俺には関係ない事だろう。
別に誰が何をしようと勝手だが、俺は興味のない事には関わりたくない。
俺は我関せずと再び雑誌を読み始める…

すると……ヒソヒソと話をしていた男連中がすーっと俺に近寄り小声で話しかけてきた。

「な〜あ…土方ぁ……」
「…ん?なんだ?」
「……俺達さ、今こーゆーのやってるんだけど…」
そう言うと手に持っていた1枚の紙を俺に見せる……
その紙には…『結婚したい女子!総選挙!』のタイトルと共に、クラスの女子らしき数名の名前が書かれている。
この男連中はどうやらクラスの女子の格付けをしているらしい…

…こいつら…一体なにやってんだか…バカな事をしてやがるな…
なんて俺はちょっと呆れ顔…

正直言って俺はクラスの女なんて全く興味がない。
俺が好きなのは風見だけ…だから他のヤツには全く関心がないのだ。
確かに俺も風見も男だけど…あんなに小さくて可愛いヤツ、俺には女みたいなもんだ!だから風見が男だとかそんな事は俺には全然関係ないし…なんの問題もない。
俺は風見が好きだ…ただそれだけ。
そもそも風見より可愛いくて優しいヤツなんてこの世にいねーしな!…とにかく俺は可愛い風見一筋だ!

俺はとってかなりどうでもいい事…でも楽しそうにしているコイツらを見ると…簡単に邪険にしても悪い。
面倒だが風見が帰って来るまでの暇潰しにコイツらの話を少しだけ聞く事にした。

「…なに?お前らこんなのやってんのか?」
「そっ!面白いだろ?…なぁ、土方も投票しろよ!お前と風見が投票すればこのクラスの男は全員なんだよ。しかも、今いい勝負でさ〜!ほら!見てみろよ!」
総選挙男子の一人がやたら嬉しそうに俺に用紙を見せる。
全く興味がないが一応見てみると…二人の女子が接戦を繰り広げている様だ。

…ん〜…誰だコレ…このクラスにこんなヤツいたかな?…う〜ん…全然わからんな…
俺はその名前を見ても全く顔が浮かばない…それでも同じ班の女の子などは顔は浮かぶが…顔と名前が全く一致しない。
それほど俺は女には興味がないのだ。
俺が好きなのは風見だけ…可愛くて優しい風見だけ!


「いや〜…この子可愛いもんな〜スタイルもいいし…」
「俺は絶対こっち!…もろ好みのタイプだし!」
「えー!…こっちの子も笑うと可愛いぜ〜」
「う〜ん…どっちもいいんだよな〜!」
冷静な俺に構わず総選挙男子は異様に盛り上がっている。
少し話を聞いてみようかと思ったものの…あまりの興味のなさに俺は冷めた目で見てしまう。しかしコイツらはあまりの盛り上がりに俺が冷ややかな顔をしている事にも気付いてないみたいだ。

…あ〜…なんかちょっと面倒になってきたな…
俺が多少の違和感を感じていると、総選挙男子が俺の周りをぐるっと見渡す…

「…あれ?そういや…風見は?…どうしたんだ?」
「あいつは今日は日直だからな…先生に呼ばれて今は教務室に行ってる。」
「そっか…じゃあ〜風見は後だ。まずは土方からな!」
「ほら!どうする?土方は誰にするんだ?…」
総選挙男子達は俺に用紙を見せ、記載されてる女子や今の戦況なんかを詳しく説明しながら選ぶように促す…
俺は言われるままに一通り用紙に目を通したが……すぐに目を離し用紙を下に置いた。

「…う〜ん…この中にはいねーな!」

「え!マジっ?!……じゃあ…これ以外か…他にそんなにいいヤツいたかな……?誰だ?下の学年のヤツか?」
「へ〜…お前って興味なさそうだと思ってたけど…案外見てんだなぁ〜…一体誰がいいんだ?!教えろって!」
俺のこの反応は予想外だったらしく…一同軽く驚いてたがすぐに逆に色めき出し妙な盛り上がりを見せ始める。
周りのヤツラに俺は女には全く興味がないと思われている…まぁ〜…いつも風見とベッタリだしな!そんな俺がこの総選挙に関心を持っている…きっとそんな風に見えたんだろう。
しかし………色めき立つ総選挙男子達は次の俺の言葉に凍りつく事となる……

「……俺は…風見だな!」
「………え?!…」

「風見はいいぞ〜…料理は出来るし、洗濯も掃除も出来る!おまけに妹達がいるから小さい子の面倒みるのも得意だ。よく気が付くし優しいし…とにかく完璧だ!…それになんと言ってもすげー小さくて可愛いしな!風見は嫁にするのに最高のヤツだぜ!」
腕を組んで満足げに言う俺…
……今まで盛り上がっていた総選挙男子達は俺の言葉に一瞬にして完全フリーズ………

「そーゆー事だから……わりぃな!協力出来なくて!」
唖然とする一同に構わずニコッと笑ってはっきり言う俺…

「…そ…そっか!お前…風見と仲いいもんなぁ………あ…ありがとな…」
総選挙男子達の一人が何とか気を持ち直しかろうじてそう言うと、固まる仲間達を半ば引っ張る様に廊下に引き上げさせた。



廊下では、フリーズが少し溶けた総選挙男子達が顔を見合わせている……

「……忘れてた……あいつはさ…風見と……ゴニョゴニョ……」
「……マジかよ……」
「…俺…知らんかった…」
「…そう言われてみると…土方と風見っていつも一緒だよな…」
俺の席から入口でこっそり俺の様子を伺っている一同の姿が見えるが…俺にはもう関係ない。
俺は風見を待ちながら再び雑誌を読み始める。
…あ〜…時間のムダだったな〜…風見早く戻ってこねーかなぁ〜…つまんねーなぁ〜…
なんて思いながら…


「……土方さ……男らしくてイイヤツなんだけどな……」
「……なんかさ…あいつのノロケ聞いたらこんな総選挙なんてしてんのがバカらしくなっちまったぜ……」
「……あぁ…俺も……」
「土方…なんか幸せそうだったなぁ……あいつら……幸せなんだな……」
「……いいな…羨ましいな……俺も幸せになりてーなぁ…」
「……なんか…もうこんなバカバカしい事すんのやめようぜ…」
「……あ…あぁ…なんかすげー虚しいしな…」
「……俺もそう思う……」
俺の風見への深い愛情を目の当たりにした総選挙男子達…その姿はガックリと肩を落としてうなだれている…
一同がグッタリしながら廊下を歩み始めると…先生の用事を終えて教室に向かっていた風見と遭遇した。

「……か…風見ぃ!!」
「なっ…何だよ!!」
風見を見付けた総選挙男子達は勢いよく周りを取り囲む…
風見はいきなり自分に詰め寄り、あっという間に周りを取り囲んだ総選挙男子達に心底驚いた。

「……風見…お前ってヤツは…本当に幸せもんだな……」
「……??……なっ…なんの事だ?」
「……風見ぃ……土方は本当にいいヤツだ…これからもアイツを頼んだぞ……」
周りを取り囲む総選挙男子達に肩を叩かれ…しみじみと言われた風見はキョトン……

「……行こうぜ……」
総選挙男子達はガックリと肩を落として校庭の方へと歩いて行った……

…一体何なんだ?あいつら……何が土方を頼む…なんだ?……
風見の頭の中は???で一杯に…


風見が不思議そうな顔をして教室に入ってくる…
「…あ、風見!お帰り!!遅かったなぁ〜待ちくたびれたぜ〜…」

…やっと風見が帰ってきた!
俺は待ち遠しかった大好きな風見がようやく帰ってきて思わずニッコリ……

「…なぁ土方…何かあったのか?クラスのヤツらに “…土方を頼むぞ…” って言われたんだけど…」
風見はすごく不思議そうな顔…
俺はアイツらのさっきの話だな…なんてちょっと思ったけど……もう俺には関係ない。

「んー?……俺はわからんな!」
「…ふーん?……まぁいいか…それより土方、手伝ってくれねーか?先生に資料持ってけって言われたんだけどすっごく重たくってさ!」
「おう!そういう事なら俺に任せろ!俺が持って行ってやるよ!」
「土方!サンキューな!…」
風見はそう言うと俺にニコッと笑いかけた。

…ん〜…可愛い笑顔!この笑顔が可愛いんだよなぁ〜…
俺は思わずにやけそうになる…

「…ん?土方どうした?…なんかやたら嬉しそうだけど…」
「ははっ!…やっとお前が帰ってきたから嬉しくて…お前がいねーと俺すっげー寂しいもん…」
「…ばっ…バカっ!そーゆー事言うな!…」
「だって本当の事だし!」
「…もうっ!土方は!……ほらっ!行くぞ!」
風見は少し顔を赤くして恥ずかしそうに言うと、俺を置いて足早に歩き出す。
この俺の言葉に恥ずかしがるところも……また可愛い…


「う〜ん…やっぱり風見が一番だな!!」
「……?お前までおかしな事言うな…」
「まっ、細かい事は気にすんな!…それより、今日はお前が夕飯作る日だろ?」
「……お前は相変わらずよく知ってんなぁ〜……」
「まぁな!俺は風見の事は知らない事はねーからな!」
「…まったく…土方は…」
威張って得意気に言う俺に風見は呆れ顔……こんな顔もすげー可愛い!

「なぁ〜…今日も夕飯食べに行ってもいいか?」
「……えーっ!またかよ…」
「だって風見の夕飯食べてーよ!行きたい!絶対食べたい!!行く!!」
「…デカイ図体してお前は本当に子供みたいだな…」
「……ダメか?」
「……いや…別にいいけど……」
仕方ないなぁ〜といった顔の風見…なんだかんだ言ってもダメだと言わないんだよな!…風見って本当に優しいな〜…そーゆーとこも可愛い!

「今日の夕飯なんだ?何作るんだ?」
「う〜ん…まだ決めてなかったんだけど…お前が来るならカレーにしようかな…」
「やった!風見の俺への愛情カレーな!ん〜…美味そ〜!」
「…お前はまたそんな事言って…」
風見は呆れた顔してるけど…耳まで赤くなってる…
また照れちゃって……怒ってる顔も笑ってる顔も照れてる顔も…やっぱり風見は全部可愛いなぁ〜…

「そーだ!妹達がまたお前と遊びたがってるんだ…だから頼むな!」
「ああ!もちろん俺に任せとけ!お前が夕飯作ってる間にいっぱい遊んでやるよ!」
「ありがとな!…妹達…何故かお前の事好きみたいなんだよな〜…」
「はっはっはっ!俺は小さい子に好かれやすいからな!…旦那にするにはもってこいだろ?」
「…はぁ〜…?何言ってんだよ!」
「…とにかく!風見は俺の嫁にピッタリだって事だよな!」
「……お前なぁ〜…」

…そんな会話をしながら俺と風見は仲良く教務室に向かったのだった。





*この二人は幸せで可愛いですね〜♪こんな何気ない日常の幸せが…土方さんと風見さんにはピッタリです!この二人、あんまり需要はないだろうけど、また書くかも……
1/1
novel球川小学校page1 top