嫁に来ないか!〜story3〜
「お邪魔しましたー。」
「兄ちゃん、土方送ってくるから少し留守番しててな。」
「はーい!」

俺の家で夕飯を食べた土方を少し送ろうと、妹達に留守番を頼み俺は土方と家を出た。
部活から帰宅してから夕飯を作ったから少し遅くなってしまって……夕飯を食べて後片付けをしていたらあっという間に夜の8時…辺りはもう真っ暗だ。
今日は三日月……月明かりが照らす中を、俺と土方は肩を並べて歩く…

俺の両親は共働き…どちらも帰りが遅くなる事が頻繁にある。そして俺にはまだ保育園の二人の妹もいて…
だから両親の帰りが遅い時は俺が夕飯を作ったり洗濯したり…妹達の親代わりだ。
学校と闘球部の練習と家の事と妹達の事と…俺にはやらなければならない事がたくさんある。
でも…両親も俺を頼りにしてるし妹達も可愛い…もちろん闘球部の練習も大切だ。だから大変だけど、俺も自分の出来る事を精一杯頑張っている。

土方は俺の両親が仕事で遅い時に、時々俺ん家で夕飯を食べていく。
俺が作ってる間に妹達と賑やかに遊んでくれて…俺も助かるし、妹達は大喜び。妹達はいつも遊んでくれる土方にかなりなついていて…遊びに来た時は姉妹で土方を取り合うほど……
土方はいつも優しく穏やかに妹達に接してくれる。…妹達もそんな優しい土方が大好きだ。
俺も一人で頑張っている時と違って土方がいるだけで妙に安心したりして…

「しっかし、妹達本当にお前になついてるよな〜…お前から全然離れねーもんな!」
「俺も可愛くて仕方ねーよ。」
「俺ん家、父さんも留守がちだからな…お前の事お父さんみたいに思ってんのかも…お前の膝の上に抱っこされてすっごい嬉しそうだもんな〜…」
「俺の膝の上は居心地いーんだよ。」
「…くくっ…自分で言うなって!…でも…本当にそうなのかもな!」

土方は人一倍身体が大きいうえ、体温も高くて温かい。土方が側にいるだけで温もりを感じる事も…妹達が言うには、そんな土方の抱っこは温かくてすごく気持ちいいらしい…

俺にとって土方は一番の友達で親友といっても過言じゃない。こいつはなんというか…天然というか動じないというか…細かい事は全く気にしない。
ちょっと鈍くてデリカシーのない所もあるけど、その分嘘もなく実直で素直。
心も広くて怒る事なんて滅多にないし、いつも優しくて穏やかで……上手く言えないけど、とにかく心も身体もデカイ男だ。

土方は何故かいつもいつも俺のそばにいてくれる。そして…最近やたら俺に「嫁に来い!」なんて言いやがる…バカ!俺は男だぜ!嫁になんて行ける訳ねーし!
…でも…不思議と嫌な気持ちはまったくない。
逆に……ちょっとだけそう出来たらいいな〜…なんて…俺は思ったりしてて…
俺達は男同士だからもちろん結婚なんて出来ないけど…これからもずっとずっと一緒にいられたら……時折俺に見せる土方の屈託のない優しい笑顔を見るとそんな風に思ったりして…
「嫁に来い!」…なんて土方も冗談っぽく言うから、きちんと言った事はないんだけど……俺も土方の事が……すごくすごく好きなんだ…って思う…………
恥ずかしくて土方にはなかなか言えねーけど!


「お前の親、今日も帰りが遅いな〜…」
「そうだな〜…もうちょっとで帰ってくると思うけどな。」
「まだやる事いっぱいあるんだろ?」
「…あぁ…妹達風呂に入れて…宿題して…明日の準備もあるしな…」
「そっか…大変だな…」
「まぁ〜な〜…でも母さん達も一生懸命働いてるからな…仕方ねーよ!」
「……なんかお前ちょっと顔色悪くねーか?…疲れてねぇ?」
「…あぁ…そういえば最近ちょっと忙しかったから…」
大会が近付いてるせいか、最近の闘球部の練習もより厳しくなっている。その上両親も仕事が忙しいらしくていつも帰りが遅く…俺の負担は明らかに増えていて…確かにちょっと疲れていた。

…やっぱ疲れて見えるんだろうな…寝不足だし。
俺は思わず自分の顔を触ってしまう。

そんな俺の様子をなにも言わずにじっと見ていた土方…ふっと立ち止まると俺に向かって手を差し出す。

「風見…お前も……してみるか?」
「…はあっ?」
俺は土方がなにを言っているのか全くわからない…
土方は茫然とする俺の手を取り引っ張る様に歩く…そして近くのベンチに腰を下ろした。

「ほら…来いよ!」
土方は俺に向かって両手を広げ…ニコッと優しく笑う…
…どうやら土方は俺に膝に乗れと言っているらしい…つまり……俺を抱っこしてやると……


「ばっ…バカ!なに言ってんだよ!」
「誰も見てねーし…別にいいじゃねーか。ほらっ!早くしろって!」
「……そんなん……出来る訳ねーだろっ!!」
…土方に抱っこして貰うなんて…子供じゃあるまいし…そんなの恥ずかし過ぎる!
動揺した俺は慌てて土方から離れる。

「いいから来いって!」
土方はすっと立ち上がると躊躇する俺の身体を強引に抱きかかえ、無理矢理自分の膝の上に座らせる。

「…おっ…おい!やめろって!……土方離せって!」
俺がどんなに暴れても喚いても土方は俺の身体をしっかり掴まえて絶対に離さない。
そもそも、小柄な俺とデカイ土方の力の差は歴然…敵うはずもない。
俺は暫くジタバタしてみたが…やっぱりどうにもならないと諦めた。
土方の膝に大人しく抱っこされる俺……
一体なにをやってんだと思いつつ…土方の膝の上はなんだか思いの外心地よい…


「…風見ぃ…俺の抱っこは気持ちいいだろ?」
「……まぁ…な…」
子供みたいに土方に抱っこされる俺……ううっ…なんか…すごく…恥ずかしい…
俺は自分の顔が赤くなっていくのがよくわかった。

「風見…こっち向いて俺の顔見ろよ………」
俺の背後から聞こえる土方の穏やかな優しい声…
その声に素直に従って優しい土方の顔が見たくなったけど…俺はなんだかすごく恥ずかしくて仕方なくて…とても自分から土方に向き合えない。

「風見……」
俺の名前を静かに呼ぶ土方…その男っぽい声に俺の胸がドキドキと一気に高鳴ってしまう…
「…お前が…………向けさせろ…」
俺の精一杯の言葉…

「…なんだよ風見………恥ずかしいのか?……」
土方は俺の耳元でそっと囁く…その甘い吐息に俺はなにも言えずにただ頷いた…

「まったく……仕方ねぇなぁ…」
土方は優しくそう言うと…俺をひょいと抱き抱えて自分の方に身体を向けさせた。
俺は土方とようやく向かい合う…
いつも見上げるばかりの土方の顔が俺と同じ高さに…俺はいつもは遠い土方の視線を間近に感じてなんだか照れてしまう。
真剣な顔で俺を見つめている土方……その瞳がすごくきれいで穏やかで…俺は目が離せない……
しん……とした静けさの中…見つめあう俺と土方…
今まで感じた事のない甘い空気が流れる……こんな甘い雰囲気は初めてだ……
俺はその雰囲気にすっかり戸惑ってしまって…堪らず小さな声で呟いた…
「…土方……なんだよ…そんなに見つめて………」

土方はそんな俺の頬を両手でやんわり包んで優しく撫でる…そしてニコッと笑って俺に言った。
「俺に甘えろ!」
「…え?…………」
「お前はいつも頑張り過ぎるから……」

俺は自分の心を土方に見透かされている様だった。
…学校と部活と妹達の世話…確かに大変じゃない訳はない。でも俺がやらなきゃみんなが困る。父親も留守がち…母親も俺を頼りにしている…妹達もまだ幼い。俺がやらなきゃ…俺が頑張らなきゃ…そんな一心で…
もちろん嫌々やってる訳じゃないし妹達も可愛い…それが俺の役割だって思ってるけれど、それは時には俺の心に大きな負担となったりもする。
いつも頑張らなきゃいけなくて…俺がしっかりしなきゃいけないってすごく思ってしまって…
ニコッと笑う土方の顔…目尻が下がって…温かく穏やかで……その笑顔に惹かれるように俺は自然に土方の胸に寄り添った…

「よしよし…」
土方は俺の髪を優しく撫でる…まるで泣いている幼い子供を慰める様に…
身を委ねている土方の大きな温かい身体と耳に伝わる力強い胸の鼓動に、俺の中の張りつめていた気持ちがやんわりとほどけていく…

「頑張るのはいい事だけどな。でも…辛くなるまで頑張んなよ。俺はなんも代わってやれねーけどさ…お前にこうしてやる事はできる。だから…もっと俺に甘えろ……俺が全部受け止めてやるよ……」
土方の俺に向けられた穏やかな顔と優しい言葉に、俺のほどけた気持ちが涙となって目にじわーっと浮かぶ…

「………」
「…泣いてんのか?」
「………泣いてなんか…ねーよ…」
「……そっか…」
土方は俺に多くを聞く事もなく、ずっと優しく髪をなで続けてくれる…
土方はいつもそうだ。いつもいつも俺のそばにいてくれて…俺の事を見てくれて…話を聞いてくれて…俺は土方がいるだけですごく安心できて…
俺にとっての土方の存在…それはすごくすごく大きいんだ。

「…なぁ……その………あ……あのな……」
「……ん?…」
俺の髪を撫でていた土方の手がピタッと止まる…いつもは言葉に詰まる事なんかない土方の様子が少しおかしい…

「……お…お前さ…本当に俺の嫁になるか?……」
「…えっ?………」
土方のその言葉に俺はパッと顔をあげた。

「お前は冗談だと思ってるみたいだが…俺は本気だ。俺は…風見の事本気で好きだから……だから…これからもずっと一緒に……いてくれたら……」
顔色を変えるなんて滅多にない土方の顔がすごく赤くなっていて…
土方の本気……それが俺にも伝わってくる…

「…あっ…あの……」
いつもは半ば冗談に聞いていたその言葉…でも、今はそうじゃない。
土方は真剣に俺に愛の告白をしているんだ。
いつもと違う土方に俺はすごく戸惑ってしまって…どう答えていいかわからなくて言葉が出ない…

「…無理に答えなくてもいいぜ。風見の気持ちが決まったらで……俺はずっと待ってるか…」
「……お…俺を嫁にしろ!!」
土方の言葉を遮る様に口から溢れ出た俺の土方への思い…
「……あっ…」
俺は思わず口を押さえる。
土方の驚いた顔…

「…風見……………」
「……その…俺もお前が…すっ…好きだ!…お前がいつまでもそのままでいてくれたら……俺は…これからも……ずっとお前と…………」
言いたい事はもっとたくさんあるのに…緊張が喉の奥に詰まって言葉が続かない。土方はそんな俺を見て優しく微笑んだ。

「…俺はずっとこのまんまでお前のそばにいる。なんも変わらねーよ……約束する……」
土方はやんわりと俺の背中に手を回し…そっと俺の頬に唇を寄せた。
俺の頬に土方の優しい温もりが伝わる…

「…ひ…土方………」
「ずっと俺と一緒にいるって約束………忘れんなよ…」
「…うん」
「…………ほら…来いよ…」
俺は再び土方の大きな温かい胸に迎えられる…

「お前が周りから甘えられる分、お前は俺に甘えろ…わかったか?」
「……バカ…偉そうにゆーな……」
寝不足の俺に、土方の温かさが心地いい…耳に聞こえる胸の鼓動が俺をゆっくり落ち着かせる…髪を撫でる大きな優しい手がじんわり俺を安心させる…
土方の静かな深い深い愛情に包まれて…俺の意識は次第に遠くなり……

「…ん?風見?…なんだ…寝ちまったのか………まったく…仕方ねぇなぁ…」


俺は寝てしまって全く覚えてないが…土方は眠ってしまった俺をそのまま家まで送り届けてくれたらしい…


次の日…
「土方ぁ!!」
「…なんだよ。なに怒ってんだ?」
「お前…昨日俺を送った時に妹達になんて言ったんだよ!!」
「…ん?なにがだ?」
「朝、妹達に…土方のお兄ちゃんに抱っこしてもらったの?って聞かれんだよ!」
「……ああ、その事か。」
「なんて言ったんだよ!!」
「そのまんまだぜ。風見が俺に抱っこされて気持ち良くなって寝ちまったって…」
「………なっ…なにぃ〜!!何でそんな事言うんだよ!!恥ずかしいじゃねーか!」
「だって…どうしたの?って聞かれたから。別に恥ずかしくないだろ…本当の事だし…」
「土方!!兄としてプライドってもんがあるだろ!!」
「…俺なんか悪い事言ったか?」
素直で実直、嘘がつけない…まぁ確かにそこが土方のいい所なんだけど……やっぱりこいつはデリカシーがない!

「あとなんか変な事言ったんじゃねーだろーな!」
「…うーん…コンヤクしたって言った様な…言わない様な……あ、やっぱ言ったな!」
「………土方ぁ!!」
「本当の事だろ。」
土方のはっきりした言葉に、昨夜の土方の唇の感覚が俺の頬に蘇り…俺はものすごく恥ずかしくなってくる…

「もう!…土方のバカ!」
「ははっ…そう照れんなよ。」
「てっ…照れてなんかねーよ!」
「…顔真っ赤だけどな〜…」
「…ううっ…」
「…風見ぃ…お前本当に可愛いなぁ。やっぱ嫁にぴったりだぜ。」
土方はニコッと笑い俺の髪を優しく撫でた。
そして、少し屈むと俺の耳元にそっと囁く…

「なぁ、風見…」
「なんだよっ!」
「…またキスしてもいい?」
「……なっ……!」
「今度は…こっち!」
土方は俺の唇を軽く親指でなぞる…

「ば…バカ!!そーゆー恥ずかしい事ゆーなぁ!」
「ははっ…すまんすまん。」
素直で実直…あ〜…やっぱ土方には敵わねーな…





*あぁ…可愛い。マイナーなCPですが…いい子達です…好きです…この二人が幸せで嬉しい…
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