07

目がさめると、見知らぬ部屋にいて体が強張る。
辺りを見渡すと、寝ぼけた頭がだんだんクリアになっていき、昨日のことを思い出してきた。
私は異国で捨てられ、拾われたんだった。

与えられた部屋を出て、階段を降りる。
廊下をぺたぺたと歩く自分の音しか聞こえない。
昨日と違って静かだ。
この扉は少しだけドアノブが上にあるため、背伸びじてドアを開けて談話室に入ると、トーストとベーコンのいい香りがした。

「グレースちゃん?おはよう!まだ寝ててよかったのに」
「おはよう、早いな」

キッチンにはカントクと、知らないお兄さんが朝ごはんを作ってるようだった。

「おはよ、?」

朝の挨拶、で合ってるだろうか。

「うん、おはよう!」

カントクが同じように返してくれたから合ってたみたい!

「すごいっすね…飲み込みが早いっていうか」
「そうなの!聞いた言葉をすぐ理解できるみたい」

会話をぼけーっと見ているとお兄さんと目が合って、なにか言おうと口をぱくぱくしていると、お兄さんに笑われてしまった。

「皆木綴っす。よろしくな」

聞き取れなかった…。
首を傾げると、お兄さんは自信を指さしってゆっくりと復唱してくれた。
名前を教えてくれたようだった。

「ツヅル?」
「うん」
「ツヅル!おはよう!」
「ははっ、言いすぎだろ。おはようグレース」

私が呼ぶ度にツヅルが笑顔で頷いてくれるので、嬉しくなって何度も呼んでしまう。
ツヅルはお兄ちゃんって感じだ!お兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうな、と思う。

「とりあえず顔洗ってきたらどうだ?まだ早いけど誰かしらいると思うし」

言葉がぜんぜんわからなかったけれど、ツヅルに手を引かれて、キッチンを出る。
昨日の夜に少しだけ使った洗面所に連れてこられた。
私も朝の身支度すればいいのかな?

「タオルはこれ使ってな。使い終わったらこの籠に入れといてくれれば良いから。…って、ちょっと難しかったか?」

フェイスタオルを渡されて、色々教えてくれてるみたいだけど、とりあえず顔を洗ったり歯磨きしたりすればいいのかな。
顔を洗おうと思ったけど、髪が邪魔だ…。
何か髪を結べるもの、ツヅルに聞こうとすると、お兄さんが一人入ってきた。

「おはよ。…何してんだ?」
「おはよう莇。ちょうどよかった!グレースが顔洗うの手伝ってくれるか?」
「手伝うって何を…」

そういえばツヅルは朝ごはん作ってたんだっけ…。
忙しいのか小走りで洗面所を出ていってしまった。
黒髪のお兄さんを見上げると、少し困ったような顔をしていた…あ、目が合った。
ツヅルが挨拶のあとに言ってたのが名前だと思うけれど、あってるだろうか。

「…アザミ?」
「そうだけど。もしかして、いま綴さんが言ったので聞き取ったのか?」
「アザミ?おはよう?」
「あー…おはよ。グレース、だっけか」

不安ではあったがアザミであってたみたい!
アザミは持っていたポーチからボトルをいくつか取り出していた。

「この洗顔は敏感肌でも使えるから問題ねぇと思うけど、使うか?」

なんだろう…?
アザミはヘアバンドで自分の髪を上げると、私の髪もヘアゴムとヘアバンドでまとめてくれた。
先ほどアザミが出していたボトルは洗顔フォームらしい。
隣でアザミが使うのを見つつ、自分でやってみる。
石鹸の良い香りだ。
顔を洗い終えて先ほど渡されたタオルでふくと、アザミが別のボトルを持ち、私の目線にしゃがみこんだ。

「これ化粧水な。つけてやるから目ぇ瞑ってろ」

なんだろうとアザミの手元を見ていると、水をコットンに染み込ませていた。
スキンケアでやったことある!ペチペチするやつだ!
お母さんにやってもらったのを思い出し、目を閉じる。
頬から額、顔中をコットンで撫でるようにペチペチされる。
今度は花の良い香りがした。

「はい、おわり。お前めちゃくちゃ肌キレイだな…何かしてたか?」
「?」
「夜もまたやってやるから、寝る前に呼べよ」

言葉が難しくて何一つわからなかったけれど、なんだかアザミが楽しそうだから良かったな!
ヘアバンドとゴムをアザミに返す。
ツヅルが恐らく言っていたであろう、使い終わったタオルを籠に入れて、再び談話室に向かった。