02
目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。
トランクは開いていて、身体を起こして辺りを見るが誰もいない。
私を買ったご主人様はどこだろう?
勝手に歩いたら怒られるかもしれない、怖い人だったらどうしよう。
ご主人様が来るまではじっとしていた方がいいかもしれない。
トランクの中で膝を抱えて座り込み、ご主人様が来るのを待つことにした。
少しうとうとし始めた頃、部屋の向こうから人の気配を感じて背筋を伸ばした。
誰?ご主人様?どんな人だろう?
心臓がバクバクとうるさい。
手汗をぬぐうようにワンピースの裾を握った。
ガチャ、とドアが開いた。覗き込むように入ってきたのは女の人だった。
「あ、目が覚めた?大丈夫?」
笑顔で好意的なことはわかるけど、言葉がわからない。
『あなたが、ご主人様ですか?』
私が聞くと、やはり言葉が通じなかったのか、彼女は困ったような顔をしていた。
「どうしよう…誰か言葉がわかる人いるかな…。とりあえず、皆の所行ってみようか?」
彼女は入ってきたドアを開けて手招きしている。ついて行けばいいのかな。
部屋の外は廊下のようになっていた。先を行く女性を追うようにフローリングの廊下を歩く。
裸足の私はぺたぺたと音を立ててしまい、すこし恥ずかしかった。
ひとつのドアの前まで来た。ガヤガヤと人の気配がする。
「ちょっと人が多いけど、びっくりしたらごめんね?」
彼女はこちらに何か言いながら、ドアを開けた。
先ほどの部屋よりも広い部屋には、男の人がいっぱいいた。
全員が私を見ていて、居心地が悪い。
「あ〜!起きたの〜?だいじょうぶ〜?」
「この子がすみーとひそひそが拾ってきたっていう?!めちゃくちゃ美少女じゃん!!」
やっぱりわからない言葉だった。
『あの、ご主人様は、どなたですか…?』
皆、顔を見合わせたり首を傾げたりしている。
「ガイさんとシトロンさんも知らない国の言葉ですか?」
「アルファベットを使う国のようだから、文章はなんとか理解できたが…」
「聞いた事ない言葉だヨ…」
民族的な服を着た男性のひとりが私の目線に合わせるようしゃがんで話しかけてきた。
「君の名前はグレースで合っているだろうか?」
彼は、今私の名前を呼んだ?
彼の手には私のプロフィールなどが書かれた血統書が握られていた。
言葉は通じなくとも、読んでもらえたらしい。
『私は、グレースです。鑑賞用ドールです』
私の名前だけは理解してもらえたらしく、何人かに名前を呼ばれたが言葉は相変わらずわからないので、頷くことしかできなかった。
でもマシュマロを差し出されたり、座るよう促さることは、ぜんぶ首を振って拒否した。
ご主人様の命令以外はきいてはいけないって教えられたから。ご主人様がわからない以上下手なことは出来ない。
「ただいま」
「どうしたの、みんな集まって」
「千景さんと至さん!おかえりなさい!」
更に男性2人が増えた。
私は何度目かわからない言葉を投げかけた。
『ご主人様ですか?』
「え、なにこの美少女。めっちゃ美少女じゃんこわ」
「三角くんと密さんがトランクケースに入ってるこの子を拾ってきて…」
「何そのアリスゲームが始まりそうな状況」
茶色のスーツの人が女の人と何か話しているけど相変わらず理解できない言葉だった。
眼鏡をかけた人の方を見ると、目が合った。
『フェデラル語、かな』
『…!!』
この人は今なんと言っただろうか、理解出来る言葉だというのに、理解するのに時間がかかってしまった。
「千景さんわかるんですか?!」
「相変わらずチートだわ…」
周りの人も驚いてるらしく、眼鏡の人に何やら話しかけているけど、私はお構い無しに飛びつくよう駆け寄った。
『わ、私の言葉がわかりますか?あなたがご主人様ですか?』
『申し訳ないけど、俺は君のご主人様ではないよ』
『そんな…ここはどこ?私のご主人様は?』
『どういう状況か聞いてくるから、少し待っていてくれるかな』
彼はそう言うと私の頭にぽん、と手を乗せると、他の人と私のわからない言葉で話をしに行った。