夏の初級魔法
大きい麦わら帽子を被って中庭に出ると、大きい黄色い花が咲いていた。
ツムギが植えたのかな?
地面で何かが動いた気がして足元を見ると、蟻の行列が出来ていた。
思わずしゃがみこんでじっと見る。暑いのに大変だなあ。
どれぐらい見ていただろうか、ジリジリ強い日差しを感じながら頬を伝う汗を拭った時、蟻の行列に被さるように影ができた。
見上げると、影を作っていたのはクモンだった。
顔を上げすぎて、被っていた麦わら帽子が後ろに落ちた。
「グレース?何してるの?」
「ありさん」
「すげー行列!」
帽子を拾って元の位置に戻してくれたクモンは、隣にしゃがみこんで同じように蟻の行列を観察し始めた。
この時間にクモンがいることに少し違和感を感じる。
そうだ、いつも学校っていう所に行ってる時間だ。
「クモンお休み?にちようびは昨日だよ?」
「夏休みなんだ〜!学生は皆しばらく休みだよ」
休みはいつも出かけてしまう皆が出かけないから嬉しい日だ!
「毎日にちようびなの?」
「あははっ、そんな感じ!いっぱい遊び行こうね!」
「うれしい!!」
海でしょ、お祭りでしょ、バーベキューでしょ、と私には殆どわからないけど、クモンが指を折りながら上げる遊びのプランを聞いてるだけでわくわくした。
芝を踏む音がしてクモンと一緒に振り返ると、アザミが怪訝そうな顔で立っていた。
「てめぇら、ずっと外いんのか?日焼け止め塗ったか?」
「ぬ、塗ってない…」
「ふざけんな!さっさと中入れ!」
ひやけどめって何?って聞く暇もなく、クモンに手を引かれ、アザミに追いやられながら室内に戻った。
みんな談話室に戻るみたいなので、右手にクモン、左手にアザミの手を握って歩く。
「アザミも毎日にちようび?」
「…なんだそれ?」
「夏休みってこと!」
「ああ…そうだよ」
嬉しいな!にやける顔を隠すこともできず、二人の手を大きく振った。
「そういえば、お前その髪暑くねぇの?」
アザミに髪をひと房持ち上げられる。首元に風が通って涼しい。
「うーん…ずっとこれだから、わかんない」
「でも確かに、背中まであるから暑そう」
「結んでやろうか?っていうかこんだけの髪アレンジしがいがありそうだから、いじらせろ」
「せっかく夏休みだし、毎日結んでもらえばいいじゃん!」
「うん!アザミじょうずだから結んでもらいたい!」
じゃあ先行ってろ、とアザミは少し嬉しそうに一度自分の部屋に戻っていった。
談話室は空調が効いていて涼しいせいもあって、人がたくさんいた。
クモンの言う通り学校に行くメンバーはほとんど揃っていた。
「みんなにちようびだ…!」
「何それ」
「グレース語で夏休みってこと!」
ユキに眉をひそめられて、クモンが再び補足してくれる。
ソファーのテーブルではユキとムクがノートと教科書を広げてお勉強をしていた。
「お休みなのに、おべんきょうするの?」
「これは宿題だよ。いっぱいお休みがある分、いっぱいお勉強してきてくださいね〜って言われるの」
ムクが丁寧に教えてくれた。お休みだけど遊んでばっかじゃダメなんだ…。
「二人とももう始めてるの?!」
「九ちゃんもちょっとずつやった方がいいよ?」
「最終日に泣きついてきても知らないからね」
アザミがブラシと小さい箱を手に持ってリビングに戻ってきた。
「グレース、ここ座れ」
手招きされて引かれた椅子に座ると、アザミに後ろから髪をとかされる。
「めちゃくちゃ綺麗だな…こんなに長いのに全く絡まらないし」
「えへへ」
2つに分けた髪を、さらに3つに分けてアザミが器用に編み込んでいく。もう片方も同様に。
編み込んだ部分の髪を少し引っ張り緩くし、太めの三つ編みが二本出来上がった。
渡された鏡を覗き込みむと、髪型ひとつでこんなに変わるのかと思うぐらい随分可愛くなった私がいた!
「おお…アザミすごい!ありがとう!」
「さっきの帽子かぶってみ?…うん、いいんじゃね」
白いワンピースに大きな麦わら帽子にアザミに結んでもらった三つ編み。
「グレースちゃんすっごく可愛いよ!」
「うんうん!可愛い!」
ムクとクモンが褒めてくれて、笑顔がこぼれる。
ユキは私を眺めてしばらく考えていて、何か思いついたらのか談話室を出ていった。
「おまたせ。これ付けてみて」
戻ってきたユキが手に持っていたのは大きい黄色い花。
「あ!!おにわに咲いてた花!」
「ヒマワリだよ。造花だけどね」
ヒマワリ、の花を麦わら帽子に付けてくれて、さらに三つ編みの結び目に黄色いリボンを結んでくれた。
「良いんじゃない?かわいい」
「さすが幸さん」
アザミもユキも、談話室にいたみんなが褒めてくれてつい頬が緩む。
「アザミもユキもありがとう!ふたりともまほうつかいね!」
「グレースがもう少し大きくなったら、メイクでもっとデカい魔法かけてやるよ」
アザミが歯を出して子供みたいに(私が言うのもおかしいけれど)無邪気に笑った。レアだ!