真夜中の勇者
「グレース」
「グレース」
呼ばれてる?早く行かなきゃ
「グレース」
声が遠くなる
(まって!)
声を出そうとするも、声が出ない。
立ち上がろうとすると、バランスを崩して倒れてしまった。
自分の足を見てぎょっとする。
関節に球体がはめ込まれている。
手を見ると同様に、指にまで球体がはめ込まれていた。
球体人形の手足だ。
顔に手をやると、かち、かち、と硬いもの同士が触れ合う音が鳴る。
私は本当に人形になってしまった。
なってしまった?
元から人形だったのではないか?
完璧な鑑賞用の
「グレース」
まって
「グレース」
まって!
声がどんどん遠くなる
置いていかないで、まって、
『まって!』
飛び起きると、真っ暗な中ベッドにいた。
手足を確認するが、柔らかい、人間の手足だった。
『夢…』
ほっとして再び布団に潜り込み、目を閉じる。
が、夢で見た球体関節が浮かんで怖くなってしまった。全く寝れない。
音を立てないよう部屋を出る。
静かだ。
二階の部屋は誰も起きていないようで、どの部屋も真っ暗だった。
灯りのない中、階段を降りるのに苦労しながら一階に向かう。
変わらず真っ暗で静かではあるが、一部屋だけ小窓から微かに明かりが漏れてる部屋があった。
103号室。
イタルはいつも遅くまで起きてるって言ってた。
でもテレビを付けっぱなしで寝てるのかもしれない…。
悩んだ末、起きてたら気付くぐらいの弱い力でドアを叩いてみた。
コン、
思ったよりも音が響いてしまって一回叩いて手を引っ込めた。
中から人が動く気配がしたと思うとすぐ、ゆっくりとドアが開いた。
「えっ…グレース?どうした?」
「…ふえぇ〜イタル〜」
よかった、起きてた。
イタルを見たら安心して涙が溢れてしまった。
「どうした?!とりあえず中入りな」
背中に回された手が暖かい。
服とかタオルとかいろいろ掛かったソファーに座らされ、隣に座ったイタルがティッシュで涙を拭いてくれた。
「怖い夢でも見た?」
「うん…こわかった…」
「暗い中ここまで来れたんだ?すごいね」
「がんばった…」
毛布を持ってきたイタルが、私を抱え込むようにして一緒に毛布にくるまり、
ソファーに横になった。
イタルの腕の中でもぞもぞと身体の向きを変え、向き合う形の体勢に落ち着いた。
「イタル、ゲームは?もういいの?」
「もう寝ようと思ってたから。グレースも一緒に寝よ」
寝るならちゃんとベッドに行かなきゃ、とか毛布だけじゃ寒いよ、とか言いたいことがあったけど、イタルの高めの体温と心地よい声、さらに頭を撫でてくれる手の安心感のおかげか、睡魔に襲われどうでもよくなった。
「イタル、おきててくれて、ありがとう」
「グレースも、来てくれてありがとう」
どうしてイタルがお礼を言うの?と聞く前に私は眠りに落ちた。