※ご都合設定による夢主幼児化ネタ
※年齢操作が大丈夫な方のみどうぞ
※時間軸は体育祭前あたり
「え……名前?」
困惑した声色。その声の主である拳藤の視線の先には顔を青くした鉄哲と幼い少女が立っていた。鉄哲は拳藤と顔を合わせるなり「どうしようやべぇよ拳藤」と肩を落とした。
「その子、やっぱ名前なの?」
「おう……」
「……とりあえずそこに突っ立ってないで教室の中入ろうか」
拳藤は教室の出入り口を塞いでいた二人を招き入れると腕を組んだ。
「状況の説明を求める」
「だよな……」
鉄哲は自分の足元にボーッと立っている少女を一瞥すると事の経緯を話し始めた。
「苗字と購買に昼飯買いに行ったんだけどよォ……」
鉄哲の話はこうだ。名前と鉄哲は昼休みになるとすぐに教室を出て購買に向かった。ちなみに拳藤は授業後、先生から配布物を任されていたため別行動だった。事件は二人が購買で買い物を終えB組の教室へ戻る途中に起きたと言う。階段を登っていると突然頭上から「あっ!」という声がした。次の瞬間、階段の内側を歩いていた名前に大量の粉が降り注いだらしい。鉄哲は咄嗟に飛び退いたが名前が浴びた粉はシューッと音を立て白い煙に変わっていった。何が起こっているか分からないながらも鉄哲は煙の中に飛び込み名前の名を呼んだ。しかし返事はない上に視界も悪く名前の姿も見当たらない。やがて煙が晴れそこに立っていたのは鉄哲の知る名前より幾分か小さくなった名前だった。
「サポート科の奴が階段で躓いて運んでいた研究中の薬をばらまいちまった挙句運悪くその先に苗字がいたっつーことらしい。めちゃくちゃ謝られたけどどうしたもんか……」
「これ元に戻るんだよな?元に戻んないならその生徒、処分ものの大問題だぞ……」
「そいつ、そこら辺の話をつけるために今サポート科の先生のとこへ行ってんぞ。ブラド先生にも連絡が行くはずだ。話を聞く限り時間が経てば元に戻るらしいんだけどよ、それがどれ位かかるかは分からないって」
「それならいいけど、ん〜どっちにしろ午後の授業までに戻らないとやばいな……」
拳藤はそう言いながら鉄哲の足の後ろに隠れている名前を覗き込んだ。幼い少女の肩がびくっと揺れる。その反応を見た拳藤は「あれ?」と首を傾げた。
「名前、もしかしてこれ、体だけじゃなくて中身ごと若返ってる?」
「おう、俺たちのこと覚えてねえぞ。なんでもその薬が『時間を巻き戻す』っつーもんらしくて苗字の存在そのものの時間が巻き戻ってんだと。だから俺らの記憶はねえし服はたぶん苗字が子供ん時着てたやつなんだろうな」
「へ〜すごいな」
拳藤はしゃがみ込んで名前と視線の高さを合わせると「名前ちゃんは今何歳なのかな〜?」と笑いかけた。すると名前は鉄哲の足の後ろからそろりと顔を出す。そしてじーっと拳藤を見つめた後、指を四本立てた。その小さな手にはやはり小さなグローブがはめられている。そんな名前を見た拳藤は顔を覆い「ん〜〜〜!」と声にならない声を上げ悶えた。
「どうしよう、小さい名前めっっっちゃかわいい」
「拳藤お前この状況楽しんでねえか?」
「不謹慎だけど正直ちょっと楽しいよ。だって名前がかわいいだもん」
「お前なァ……」
「だって見てよ、この白い肌にふかふかの頬っぺた!目は大きいし睫毛長いし、まさにお人形さんって感じじゃん」
そう言って拳藤が名前の頬へ手を伸ばそうとすると名前はまた鉄哲の足を盾にしてさっと身を隠してしまった。「あっ、そうか。時間が巻き戻ってるなら慣れる前だしお触り厳禁だよな」と拳藤は残念そうに肩を落とす。そのとき騒ぎを聞きつけたのか拳藤の背後から塩崎が現れた。
「まあ、そちらはまさか苗字さんですか?」
塩崎は驚いたように両手で口元を押さえている。鉄哲が事情を説明すると塩崎は「それは災難でしたね」と眉を下げた。そして拳藤の横にしゃがみ込むと名前へ優しく語りかけた。
「苗字さん、何が起こっているか分からず不安でいらっしゃることでしょう。しかし案ずることはありません。私達は貴方の味方なのですから」
するとまた名前が鉄哲の後ろからそろりと顔を出した。そしてしばらく塩崎を見つめた後「……みかた?」と塩崎の言葉を復唱した。初めて声を発した名前に拳藤も鉄哲も「おっ」と声を上げる。塩崎はゆっくり頷くと優しい声色のまま続けた。
「そうです、味方なのです。その姿の間、いかなることがあろうとも貴方をお守りすると天の神様に誓いましょう」
「……ありがとう、おねえちゃん」
「聞いた!?お姉ちゃんだってさ!ちゃんとお礼が言えるんだな、名前はいい子だな〜!」
「拳藤、ちっこい苗字にデレデレだな……」
表情筋がゆるゆるになっている拳藤とは対称的に名前は子供らしさの欠片もない無表情のまま三人を見上げている。そんな名前を見て拳藤がしみじみと呟いた。
「何か、初めて会ったばかりの頃の名前を思い出すな。この表情見てると」
「あ〜確かに、最近は笑うようになったからな、苗字」
すると名前はこてんと首を傾げた。
「わたしのこと、どうして知っているの?」
その言葉に三人は顔を見合わせる。今の名前に状況を説明しても理解は難しいだろう。拳藤は名前の目を覗き込んだ。
「私たちはね、名前の友達なんだよ」
「ともだち?」
「うん、そう。友達」
「あなたはいずくでもかっちゃんでもないのにわたしのともだちなの?」
名前の瞳は澄んでいた。その目は名前が純粋な疑問を口にしただけだ、ということを証明していた。心の柔らかいところをゆっくりとにぶいナイフで抉られる思いがしたが拳藤は笑ってみせた。そうしないといけない気がしたのだ。
「私は拳藤一佳。名前の未来の友達だよ。よろしくね」
「みらいの……?」
「そう、名前がさっきから引っ付いてるそこの怖い顔の男も、こっちのツルみたいな髪の優しい女の子もみんな名前の友達だよ」
「オイ、顔が怖いは余計だろ」
「わたしにこんなにたくさん友達ができるの……?」
「そうだよ」
「ほんとうに?」
「本当の本当だとも」
「……そうなったらすてきね」
相変わらず感情の起伏が見て取れない名前だが、そんな名前が愛おしくてたまらない拳藤と塩崎は顔を見合わせてくすっと笑った。その時、二人の背後にまた新たな影が忍び寄っていた。
「あれあれぇ!?誰かと思えばもしかしてその子供、苗字なのかい!?どうしたの、随分小さくなってるじゃないか!」
「あ〜、うるさいのが来た……」
「物間さん、苗字さんが怯えてしまいます……どうかお静かに」
「オメーはなんでそんなに苗字に当たりが強いんだよ」
物間が名前に突っかかり気味なのはいつもの事である。しかし名前がこんな状況にあってもブレないその姿勢に拳藤、塩崎、鉄哲は呆れの眼差しを向けた。そんな視線に構わず物間はいつも通り小さな名前へ嫌味を飛ばす。
「へ〜、小さくなって少しは可愛げが出たんじゃない?仏頂面は相変わらずだけどね。ああそうだ、君の大好きなA組に行ってその姿を奴らに見せてきたらどうだい?きっとみんな喜ぶんじゃないかなあ。ほら君って外見だけは良いからさ。まあ無愛想だしほんと外見だけなんだけどね……って、あれ……?」
つらつらと嫌味を並べていた物間は途中で首を傾げた。しばらくじーっと黙って物間を見上げていた名前がいつの間にか鉄哲の後ろへ隠れてしまったからだ。「おい、苗字?」と声をかければ名前は少しだけ顔を出し物間を見て、そしてぷいっと顔を逸らしてしまった。
「ちょっとぉ!?子供のくせに生意気すぎるんじゃないの!?」
「その子供相手にムキになるなっての」
トスっと拳藤の手刀が物間のうなじに落ちた。物間はガクッと膝を床につき、しかし往生際悪く「大体なんで鉄哲に懐いてるんだ?この中でいちばん子供に恐がられそうじゃないか……」と言う。「子供に恐がられそうは余計だわ!」と鉄哲が目を釣り上げた。
「でも確かに、鉄哲にいちばん懐いてるように見えるな。ずっと鉄哲に引っ付いてるし」
「ま、まあそうなんだけどよ。俺にも分かんねえよ」
「何故でしょう……もしかして雛鳥が生まれて最初に見たものを親だと認識する刷り込みのようなものでしょうか」
「英語でインプリンティングだね。というか僕苗字がそうなった経緯を知らないんだけど、何がどうなってそうなったの?個性事故?」
「ああ、それはな」
かくかくしかじかで、と物間にもいきさつを説明すると彼は「ふふ……それは災難だったねぇ」と小刻みに肩を揺らした。塩崎と同じ台詞なのにこの態度の違いである。
「それにしても授業までに戻らなかったらどうするつもりなの?もう20分もないよ」
「それなんだよなあ……リカバリーガールんとこに預けるか?このまま授業受けるわけにはいかないもんな」
拳藤がそう言うとそれまで静かに頭上の三人の話を聞いていた名前がぎゅっと鉄哲のズボンを掴み引っ張った。突然のことに驚いた鉄哲はピシッと背筋を伸ばす。挙動不審な鉄哲に他の三人は眉をひそめたが足元に目を落として状況を理解した。
「どうやら鉄哲から離れたくないみたいだね」
「なんで俺なんだよォ……俺、子供から懐かれるよりはお前らが言う通り恐がられる方だからなんつーか子供との接し方が分かんねえよ……」
「シャキッとしなよ、男だろ。女の子から頼られてるのに情けないぞ」
「子供である以前に苗字さんなのですから、子供だとは思わず苗字さんとしていつも通り接すればいいのではないでしょうか」
塩崎の提案に鉄哲は「確かにな……!」と頷く。そして膝をついて名前と目線の高さを近づけた。
「苗字、知らない場所で知らない人に囲まれてそりゃ不安になるよな。オメーがこうなっちまったのは俺の責任でもあるし元に戻るまできっちり俺が面倒見てやる。えーと……だから元気出せ、な!」
名前はコクっと頷くと「ありがとう、おにいちゃん」と言った。その言葉に鉄哲はまたしても慌てふためく。
「まあ兄妹に見えないこともないな」
「う、嘘だろ物間!それはねえだろ!」
「いや、二人とも全体的に色素が薄いから並んでると統一感があるというか」
「いいな鉄哲。名前、私のこともお姉ちゃんって呼んでみて」
「おねえちゃん」
「かわいすぎる……」
「拳藤、馬鹿言ってないで本当にどうするの?リカバリーガール案は没になったけど?」
「う〜ん……先生に頼み込んで教室に置いてもらうかな。五限って誰だっけ?」
「マイク先生の英語だったと思いますが……」
「マイクなら説得できそうだな。よし、名前のために私が一肌脱いでやる」
握り拳を作って意気込む拳藤を見上げ名前が首を傾げた。
「もしかして、ここはがっこうっていうところ?」
「ん?そうだよ、雄英高校っていうすごいところ。私達はヒーローになるために毎日頑張ってるんだ〜」
「……ヒーロー?」
ヒーローという言葉に名前が食いついた。
「ヒーローならいずくがよろこぶ。いずくもここにつれてきてあげたかったな……」
四人は顔を見合わせた。物間はやれやれと肩をすくめながら「やっぱり苗字は苗字だね」と言う。ウーンと鉄哲が唸った。
「出久って、緑谷出久?だっけ。そいつの事だろ?」
「おにいちゃん、いずくをしってるの?」
「あ〜、まあな」
「爆豪勝己も知ってるよ」
「かっちゃんも?」
「……名前、緑谷と爆豪に会いたいか?」
「うん!」
大きく首を縦に振った名前は今までいちばん子供らしい、あどけない表情をしていた。目を輝かせるその様子に拳藤は目を細める。悔しいなあ、私ではこの表情を引き出せない。やっぱり幼馴染みにはかなわないや。でもいつか私にだって。そう思いながら「じゃあ行くか〜!」と鉄哲の背中を叩く。
「俺も行くのかよ!」
「だって鉄哲は名前の盾だろ」
「でも俺あのバクゴーって奴気に食わねえんだよ!顔合わせたくねえ!」
「そこは名前のためにぐっと堪えてさあ」
鉄哲の背中を押しながら拳藤は廊下へ出た。名前がてくてくと後ろをついてくる。「僕はパス」と言う物間と「いってらしゃいませ」と言う塩崎の声を背に三人は隣の教室へ歩いて行った。緑谷の絶叫がA組中に響き渡るのは数秒後のこと。