おみやげ


 お菓子が好きだ。新しい物も好きだ。
だからか、家に溜め込んだお菓子も最近買ったものから消費しがちで、凛が日本にいた時はよく古いのから食べろと怒られた。
 けど今はいない。ならば、鬼の居ぬ間に洗濯、と頭に浮かんだ言葉をなんとなく呟きながら、私はキッチンへ向かい、お菓子が入ってる棚の戸を開ける。
 たくさんのお菓子の中でぱっと、目にはいるのは海外の香りがするパッケージのチョコレート。
日本語だらけのお菓子の中に海外のパッケージがあるから目立つのかもしれないが、きっとこのお菓子のことを特に気にしてしまうのは、凛がオーストラリアのお土産でくれたチョコレートだからだろう。


「あまいのが好きな友人がいてな。そいつがすすめてたんだ。おまえ甘いもん好きだろ?たべてぇかなぁと思って。」

 優しく微笑んだ凛が紙袋を差しだす。
 受け取って覗いてみると手の大きさ程のパッケージに包まれたお菓子が4つほど入っていた。当たり前だけどオーストラリアのお菓子だからパッケージも英語で書かれている。

「ち、ちょこれ…らて」
「chocolateだ」

 おまえわざとだろ。とあきれ顔をしながらも凛はリュックの中から次々にお土産を出している。
 綺麗な英語の発音が聞きたくてついつい遊んでしまう。それをわかっていながらものってくれる凛はやっぱり優しいな、と幸せを感じて頬が緩む。

「凛、せっかくだし、チョコレート一緒に食べようよ」
 言ってからしまった。と思った。幸せのあまり浮かれすぎて凛が甘い物が苦手なのを忘れていた。
「なにやっちまったぁって顔してんだよ」
 とくすくす笑いながら凛が近づくる。そのまま止まらず顔がよって来て、おでこに柔らかい感覚がした。
「たまに食べるくらいなら構わねぇよ。まあ、あんま量は食えねぇけどな。」
 そう言いながら凛は私の頭を優しく撫で、キッチンへ向かっていった。
もう荷物の整理は終わったみたいで一度物で散らかった部屋が綺麗になっている。
そういや頭を撫でたり、キスをしたり、そういうことサラッとする人だった。私は久しぶりの凛との触れ合いを噛み締めつつ、熱くなった頬を手で冷やし、キッチンにいる凛の元へ走っていった。


 それも1ヶ月ほど前の話。
 今は彼もオーストラリアに帰って、私の家で英語を喋っているのも目の前にあるチョコレートだけになってしまった。他にもオーストラリアのお土産はあったけれども、このチョコレートだけはなんだか食べるのがもったいなくて食べれていなかった。
 が、しかし……パッケージを裏返して見てみると、やはりそうだ、賞味期限が近い。
だったら仕方ない。私はあの日、凛が入れてくれたのと同じコーヒーをいれて、同じテーブルに置いて、同じ椅子に座る。違うのは向かいの椅子に凛がいないことだけだ。
 チョコを口に頬張ってコーヒーを飲む。美味しいけどやっぱり前に食べた方が美味しかった。
チョコを包んでいた紙は変わらず英語のままで、日本語しか話せない私は一体ここに書かれた単語をいくつ理解できるんだろう、と考えるとなんだか寂しくなった。




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