跡部様と庶民デート

「あれ、跡部じゃん」

一緒に出掛けようと約束していたちよが風邪を引いたとキャンセルしてきた。
でもその電話をもらった時にはもう待ち合わせ場所にいたので、そのまま帰るのももったいないから一人でぶらついていたところだ。

それにしてもなんで一人でこんなところにいるんだろう。
こんなところ、と言うとワウモールに申し訳ないが、相手が跡部というところに問題がある。ワウモールはお年寄りからお子様まで楽しめるショッピングモール。でも女性向けのお店が多いし、なんといっても庶民向けなのである。まあ初めて来た時はなんて都会なんだと喜んだのだが、庶民の集まる場所だ。

わかる人はわかるのだろ、彼の身に纏っている服が一着うんんん万円もするブランド物だということ。浮いている。明らかに浮いている。なにかの撮影かと周りをキョロキョロしている人もいる。

ちょっと場違いかもしれないと気づきだした跡部が少しおもしろくてつい観察してしまったが、そろそろ助けてあげたほうが良いかもしれない。

「跡部〜やほー」

手をひらひらふると一瞬誰だという顔をされたがすぐに「みょうじじゃねーの」と近づいてきた。

「おお、よく知ってるね」

「当たり前だ、全校生徒を把握している」

「その割に時間かかってなかった?」

「学校ではしない化粧や巻き髪してたらな」

「たしかに友達でも気づけないときあるわ」

「それ友達か?」

学校ではあまり話したことなかったが意外と会話が成り立つものだ。
周りからの視線が痛いのでとりあえず休憩スペースへ移動した。

「なにしてるの?」

「どんなところかと思って」

「……は?」

「昨日部活の奴らがここによく来ると言っていた」

「あーたまに見かける」

「どんなところかと思ったんだ」

なんで一人で来たんだろう、実はみんなとあまり仲良くないのかな。
変な想像をしてしまい、しかもそれがしっくりくるものだからかわいそうになってしまった。

「……私一人で来てるから一緒にまわる?」

「あーん?まあどうしてもと言うのならかまわないぜ」

「やっぱりやめとくわ」

「遠慮するな」

「話がかみ合わない」

さきほどの会話が成り立つも前言撤回である。とにもかくにも一緒にまわることになった。

「これはなんだ?」

「駄菓子」

「菓子?食べ物か?」

「みんな幼少期はこれを食べて育つのです」

「やるじゃねえの……」

特に人気なのはこれとこれと、そう教えているのに「全種類くれ」と店員を驚かせていた。自分でとろうね、それも楽しみなんだよと教えてあげると、そうかと素直にカゴを受け取ってくれた。

「ここはなんだ?なんでも置いてあるが値段がない、相当高価なのか?」

「百均」

「ひゃっきん?」

「ぜーんぶ百円のお店」

「全部、百円……」

「たまに五百円とかあるから気を付けて」

「五百円……」

彼の五百円は私たちの五円くらいかもしれない、と思いつつ一応注意しといた。
これも、これも、これも百円で良いのか?大丈夫なのか?何があったんだ?
と相当衝撃を受けているようだが、原価数十円の物が多いんだよとは教えてあげなかった。
そこでも色々買いあさっていてレジで「合計一万……」と聞こえてくる店員さんの声に、万超えしていることを今度は私は衝撃を受けた。
物に不自由しないであろう彼が、何をそんなに買う物があったのか不思議でならない。

「最後になりましたが、ちょっとした戦争へ行きます」

「なんだ、物騒だな」

「そう、その名はタイムセール」

「タイムセール?」

「習うより実戦だ」

よくわかっていない跡部をおひとり様一パックまでの卵や野菜詰め放題などの人込みへ連れていく。
スーパー激戦区のせいか、ここのワウモールに入っているスーパーがタイムセールを目玉としている。

「ぐっ、みょうじはぐれるなよ」

眉間に皺をよせながらひっついてくる。はぐれそうなのは跡部だよとは言い返せる余裕はなかった。

「次のセールは……」

アナウンスを聞き逃さないように次々と移動しながら目当ての物をカゴに入れていく。
すべてが終わったころ、ピシっと決まっていた服が少しよれていてどんなに良いものでも使い方では着崩れるんだなと知った。ついでに跡部もよれよれだった。


「お疲れ、レジ行くよ」

レジへ向かおうとすると「待て」と止められる。早く行かないと混むからと言うとそうじゃないってカゴを持ち上げた。

「あ、なにか欲しいものあった?」

ついつい自分の物だけ買って帰るつもりだった。でもそれも違ったらしい。

「みょうじの腕は細いから折れそうで怖いんだ」

「いやいやいやいや」

「良いから甘えてろ」

「えー、うーん、じゃあ、ありがとう」

左手に百均と駄菓子の袋、右手にはセール品たっぷりのカゴ。なんだよなんの罰ゲームだよ。めっちゃ笑える。

ワウモールを出るとお迎えの車が来ていた。そのまま乗って帰るんだろうなと見ていたら車だけ去って跡部が戻ってきた。

「どうしたの?」

「せっかくだから電車も乗ろうと思ってな」

「それは乗ったことあるでしょ」

「送ってやると言っているんだ」

「あー、そう、ありがとう」

こういう扱いをされたことがない私はどう返すのが正解かわからないが、さっき甘えろと言っていたのでここはありがとうが良いんだろうと判断した。

「ほら、行くぞ」

自然な流れで手を繋ぐ跡部に(ああ、王様って言われるのがよくわかる)でもどちらかというと可愛らしい王子様だなと思った。