朝から花壇の様子を見に行くという園芸部の仕事がある。この時期は少し気温が上がってくるので水が必要そうならあげている。今日は夕方にあげたらちょうど良いだろうと判断をし、虫がついていないか弱っている花はないかを確認していた。
しばらくすると視界の端で赤色の髪をぴょこぴょこと揺らしながらやってくる金ちゃんの姿が見えた。仲良くなったキッカケは声をかけられてからだ。この花壇では夏になるとプチトマトやゴーヤなどの野菜が採れる。それを見つけた金ちゃんが食べたいと寄ってきたのだ。たくさん採れるのでどうぞ、とお裾分けをしたらとても喜んでくれた。
「金ちゃんおはよう」
「あー!なまえおはよう!」
「えらいご機嫌さんやねえ、どないしたん?」
「あんな、ワイ今日誕生日やねん!」
「え、そうなん?」
「せやで〜!」
ピースを私に向けてくる姿から本当なのだとわかる。かわいい後輩、知っていたらお菓子でも用意したのに、今手元にあるのは軍手とシャベルと飴だけだ。どうしようと思っている私とは正反対で嬉しそうに紙袋を渡してきた。
「これなまえにやる!」
「え、でも」
「あんな、オランダでは誕生日の人がプレゼントするんやって!」
ここはオランダじゃないのに。そうえいば私もその話を聞いたことあるなと世界史の先生を思い出した。毎年その話をしているのか、年齢は違うのに同じ授業を受けているのがなんだか不思議で少しくすぐったく感じた。
「ありがとう、なんやろ?」
「種!それなまえみたいやと思ってん」
「そうなんや」
種にしては重たいなと思い覗いたら球根が入っていた。まあ、種だね。
「もしかしてチューリップ?」
「せやで!」
「ちょうど植えたいと思っててん、せっかくやからお家で育てるな」
マンション住まいの私には庭がない。植木鉢でなにか育てたいなと考えていた。今からの時期でお気に入りの花はチューリップだったので本当に嬉しい。
「咲いたらちゃんと花言葉調べてな!」
「金ちゃんは知ってるん?」
「あたりまえやん!やからなまえみたいやなって思ってんで」
花言葉はあまり詳しくない。確かチューリップの歌はかわいらしく見せて、花言葉を当てはめると悲しい意味になった気がする。私みたいな意味ってなんだろう。すぐにでも調べたいが球根からは色がわからない。ああ、とても気になる。
「わかった、咲いたらすぐに調べるわ」
「咲くの楽しみやな!」
にこにこと笑う金ちゃん。そうだ、とりあえず飴だけでも、とポケットから取り出す。
「ごめん、今手持ちこれしかないねん」
「ええの?おおきにおおきに!」
喜んで開ける姿に今度ちゃんとしたのを買おうと思った。
「あ、占い付きや」
「せやねん、どうやった?」
「大吉やって!よ〜当たるなあ」
「誕生日やもんね」
「それもやけどなまえに会えたから大吉!」
「嬉しいこと言うてくれるなあ」
じゃあまたね、と手を振るとまた髪を揺らしながら校舎へ入っていった。今までも花が咲くのは楽しみだったが、こんなに楽しみなのは初めてだ。
チューリップが咲いたら一番に会いに行こう。
「金ちゃん、咲いたで!ピンク色やった」
「めっちゃ可愛いな!」
写真を見せると満面の笑みで喜んでくれた。
「意味も調べたよ」
「なまえにピッタリやろ!」
「ふふ、素敵な贈り物ありがとう」
明るくて元気で優しい金ちゃんは人の心を温かくする。産まれた季節と同じ、春みたいな子だなと思った。
ピンク色のチューリップ:優しさ・思いやり・愛情・幸福