◇白石の誕生日

『白石―!』

『誕生日―!』

『『おめでと〜!!!』』



お昼休み、お弁当を食べようとしたら謙也もみょうじも委員会があるからと足早に教室を出て行った。適当なグループに混ざってご飯を食べていると放送が始まる。出だしはいつものように二人の漫才トークからと思いきや、いきなりハッピバ〜スデーと歌いだした。誰が誕生日なんやとみんながざわつく中、「俺!俺、俺やで〜」とは言えずにいた。他にも誕生日の人いるかもしれないしと思っていたが、歌い切ったあとに名前を出されたら自分だと確定されてしまう。

「白石やん!」

「そうやったんや」

「おめでとう〜卵焼きやるわ」

「ほな俺から揚げ」

「え、じゃあ俺はゼリー」

みんながこれあげるとおかずやデザートを持ってきた。

「気持ちだけでええで!俺こんなに食べられへんで!」

「あかんあかん、育ち盛りで運動部なんやから」

断りもむなしくお弁当の中、蓋の上にも置かれていく。こんなに食べたら授業中寝てしまいそうだし部活も動ける気がしない。おおきに、と頑張って返す口元がひきつっているのが自分でもわかる。夜は控えようと心の中で思った。

「「しらいしいいいい!!!」」

おかずに対してごはんの量が少なく、どう食べていこうかと悩んでいたら謙也とみょうじが勢い良く教室に入ってきた。

「あれ、放送は?」

「今は音楽流してるだけやから」

「それより誕生日おめでとう!」

「みょうじ!せーので言おう言うたやんか!」

「だってはやく言いたくて」

入ってくるなりやいやい言い合いを始め「天然で漫才やもんなこの二人」と周りは楽しんでいる。みんなが二人を相手している間に蓋の上の物を食べきる。ふう、と一息をついたところで目の前に差し出された。

「バナナ……」

「「プレゼント」」

「どんだけ俺に食べさせようとするん」

丁寧に透明な袋でラッピングされたバナナを見て気が遠くなる。なんだ、みんな打ち合わせしていたのか?プレゼントは食べ物でって?あ、でもバナナは今日食べなくても良いんだよな、と気が付く。一本をラッピングということは高いバナナなんだろう、せっかくなので家にあるバナナと食べ比べてみようと思ったのだが受け取ると意外と重たい。

「えらいずっしりしとるなこのバナナ」

「それ食べんとってや」

「え?」

「食べられへんけどね!」

よく見ると食べ物のバナナではないことがわかった。

「それ白石の好きな健康グッズやで」

「ぐいーんってひっぱるねん、背中の方でやると気持ち良い」

みょうじがジェスチャーをしてくれる。開けて開けてと二人にせかされて開けると、ムニムニしたなんとも言えない感触がする。言われた通りにひっぱると体が伸ばされて、うん、これは気持ち良い。

「めっちゃええやんこれ」

「せやろー!絶対にこれって思っててん!」

「俺も欲しくなって買ってもーたわ」

「私も買ってしまった、だから三人お揃いやで」

「二人共忙しいやろうに、ありがとうな」

「この前みんなで映画行った時に買ってん」

先週の土曜日の部活終わりに行ったことだ。三人でなんかどっか寄りたいって話になって、適当に入ったものの意外とおもしろかった。確かその後もブラついたけど、いつの間に買ったのだろう。不思議に思っているのが伝わったらしく二人が説明してくれた。

「雑貨屋さん入った時に私が見つけてん」

「ずっと何にしよう言うてたんやけど、コレやーって目の前におるのにラインしてきて」

「そ〜それで白石が電気屋で健康グッズ見てるときあったやん」

「おん、あったな」

「私トイレ言うて抜けた時に買ってん」

「俺はずっと白石とおったからな」

「全然気づかんかったわ」

そう言うとサプライズ大成功やー!とハイタッチをする二人。それと同時に『放送委員戻ってきなさい音楽止まっとるで』と放送が流れ、入ってきた時と同様にすごい勢いで教室を出て行った。誕生日パーティーなんて幼稚園までしかしたことがなかった。でも二人のおかげでクラスの皆からお祝いをされ、ちょっと懐かしく照れ臭くも嬉しい一日になった。