隠すことない好意に、自惚れではなく両想いなのはわかっていた。いいかげん進展したいと思うけど、どうせなら相手から好きって言われたい。なにか良い方法がないものかと散歩している時、聞こえてきた会話にコレだと思った。
教室に行ったらみょうじはいなかった。じゃあと出ようとしたが、朝から来るなんて珍しいとクラスメートにつかまってしまう。はやく会いたいのに足止めをくらい、珍しいことはするもんじゃないなと思った。その思考を読み取ってかわからないけど、たまたま居合わせた白石に、朝から来るのが普通やでと言われてしまう。それでもなんとか適当にごまかして校舎を出た。
みょうじはいつも裏庭で本を読んでいる。待ち合わせしてるわけでも約束しているわけでもないが、なんとなくここで同じ時間を過ごしている。
満面の笑み、と言っても作り笑いだがステップまでふんで近づくと、本に栞を挟んで「千歳」と名前を呼んでくれた。
「なんか良いことあったん?」
「わかる?」
「見るからに嬉しそうやん」
「告白された」
「え、いま?」
「こけ来る前に」
ニコニコとそう言うと、不安げな表情で何かを言いかけてはやめ魚のように口をパクパクしている。誰に、両想いなのか、そう聞きたいけどでも聞かない。いや、聞いてしまったら仮定が真実になってしまうから聞けない。みょうじの心情が手に取るようにわかる。少しかわいそうな気もするがこの作戦は今日しかできない。
「みょうじもはよう彼氏つくりなっせ」
「誰でもいいわけちゃうねん」
「誰なら良かと?」
「好きな人」
「じゃあ好きな人に告白すりゃよか」
「でも、その人たぶん、彼女、おる」
確信はないがいる可能性が高い、でもこれだけ嬉しそうにしているんだ、きっと付き合うことになったのだろう。そんなニュアンスだ。好きだとバレていないと思っているのが可愛い。それに思った通りに騙されてくれて楽しくなってくる。
「たぶんであきらめっと?」
「彼女にも悪いし」
「気持ちだけでん伝えてみたら」
「迷惑やん」
こんなに後押しをしているのに、でもだってと怖じ気付いている。ちょっとやりすぎたかなと思うが後に引けなくなった。ここはネタバラシするしかなさそうだ。
「俺ん特技覚えとる?」
「才気煥発の極みやんな」
それがなんだと言うのだという顔をしている。そんなの使うまでもなく結果は見えているのだが、使ったことにしよう。
「俺にはみょうじが両想いになるのが見ゆる」
「嘘や」
「予告は絶対ばい」
そう言い切ると少し戸惑いがちに口を開いた。
「だって、私が好きなん千歳やもん」
「俺も好いとる」
にっこり笑って、「な、絶対予告は外れん」って言えば、「意味がわからない」と怒られた。ドンと軽く叩く手を握ると、信じたいけど不安だという表情をしている。
「でも、さっき嬉しそうに告白されたって」
「ああ、嘘ばい」
「え?」
「今日はエイプリルフール」
「あ!ひどい!」
「ばってん、やっと気持ちが聞けた」
ね?と笑顔を向けると顔を真っ赤にしてずるいと言う。その姿があまりに可愛いくて他の男に騙されないか心配になる。だからぎゅっと抱きしめて、ちらりと覗く首筋に自分の物だという印をつけた。