せっかく好きになったのに、伝えないなんてもったいない!
朝早く登校するのは、友達と会って話がしたいから……っていうのも嘘じゃない。でも、本当は大好きな人との時間をたくさん作りたいのが一番の理由。
友達と会話をしながらも、私は窓から体を乗り出して朝練をしている仁王雅治を見つめる。
ある程度登校してくる人も減ってくると、朝練が終わる時間が近いことがわかる。
今日も、もうそろそろかなと思っていると、仁王含めテニス部員はぞろぞろと集って部室へ向かった。その部室からちょろちょろと人が出だしたら、私は窓を閉めて今度は扉の方へ集中する。
しばらくするとシャツを着崩した仁王と丸井が入ってくる。そしてすかさず私は仁王へ駆け寄った。
「仁王〜!おはよー!」
今日も会えたことが嬉しくて、笑顔を押さえきれない。
「なんじゃ」
なのに仁王は正反対で少し眉間に皺を寄せるのだ。でもそんなことでは全くめげない。
「好き!」
「知っとる」
毎日伝えている思いはあっさりと流される。
「ねえ好きって言って?」
「嫌じゃ」
「なんでー?好きって言ってよ」
「思ってもないことを口にできんタイプなんよ」
「ペテンだと思って!さあ!」
「それはテニスに限りでの」
このやり取りも毎朝のことで、クラスメートは「また始まった」「みょうじもこりないな」「仁王が可哀想だ」とか、好き勝手に言っている。
でも仁王は私に止めろとかうざいとか、そういった事は言わない。なので私も気にせずに毎日伝える。
いくら軽くあしらわれても毎日会えることが、伝えることができるのが、どれだけすごいことで、どれだけ幸せなのか!それを誰にもわかってもらえないのは少し切ない。
そう思いながら仁王の席から離れようとしない私に丸井が声をかけてきた。
「みょうじって仁王のどこが好きなの?」
この時、待ってましたと言わんばかりに語った。
「笑ってるとことかダルそうにしてるとことか全部の表情がたまらないし仁王の発する言葉は全てが特別に聞こえるくらい素敵な声してるし、」
途中までしか喋ってないのに、丸井は顔にうぜえと書いて「え、見た目?」と遮ってきた。
「見た目も好きだよ!でも仁王がシワッシワのおじいちゃんになっても好き!っていうか今よりもっともっと好きになってるよ!」
でも丸井にはわからなかったみたいで「はあ?」なんて言うから、きっと本気で誰かを好きになったことないんだと思った。けど、友達にも「意味がわからない」と言われたので自分の表現力を憎んだ。
好きになったら何もかもが特別。
どこがって部分的にしか好きなわけじゃないし、でも特別どこがって言ったらこういうとこがたまらない!っていう話をしているつもりなのに。
「ねえ、好きって言って?」
「なんじゃ今日はしつこいのう」
「今日はね、告白の日なんだよ」
「だから?」
「他には何もいらないから」
いつもなら朝だけのやり取りだった。でも、昼休みにもう一度お願いをした。
「……他には何もいらんのじゃな?」
「え?」
何か考えた素振りを見せた後、確認するように聞かれた内容に返事はいらなかったみたいだ。
「すき」
目を見てハッキリと告げられたその一言に私は震える。
周りのどよめきなんかどこかすごく遠くに聞こえるくらい、今すごく全神経が仁王に集中している。
「わ、私も!好き!大好き!仁王以外は何もいらない!」
「はいはい、言うたったから、他は何もいらんのじゃろ」
「や、やだ!もう一回好きって言って!他には何もいらなくない!仁王がほしい!」
必死になる私を見て、仁王は独特のクツクツとした声で笑った。