◇七夕のお話

もしも、今年の七夕が晴れたのなら、私は二人の力を借りて想いを伝えたい。



休日の夜。
久しぶりに晩御飯に招かれ、そのまま彼の部屋でまったりと寛いでいた。
私の家は目の前なので、数歩で帰れる。だからそんな一瞬で事故など何も起きないと言っているのに、私が家に入るまで見届けてくれる。だから時間が遅くなったって気にしない。

そんな彼、柳蓮二は私の幼馴染みである。小さい頃からずっと一緒にいるから、きっと女として意識はされていないだろう。

もし告白をしたら少しは意識してくれるだろうか。
それとも幼馴染みより遠い関係になってしまうのだろうか。


「もうすぐだね、七夕」

「七夕か」

「なんでそんな嫌そうな顔するの?」

「行事にちなんで毎年夕飯はそうめんなんだ」

「あー……育ち盛りだもんね」

そうめんじゃ食べ足りないか〜と返したが、おばちゃん、去年は唐揚げも作っていたことを思いだした。それを伝えたが「メニューが決まっているのがおもしろくない」だそうです。


私が意識しだしたのは中学に上がって三年生になった時。今までの付き合いの長さから考えると、最近すぎてなんで今更って自分でも思う。
蓮二がテニスをやっていることはもちろん知っていたけど、テニスに本気でぶつかる姿があんなに格好いいということを知らなかった。過去の私に「人生損しているもったいない」と伝えたい。単純すぎるが普段の物静かな姿が想像できないギャップにコロリとやられてしまったのだ。今までずっと試合がある時はいつだって誘ってくれていたのに、あまり興味がなく行くことはなかった。だから蓮二もまさか来るとは思っていなかったと驚いていた。
なまえはいつも予測不可能だ、なんて言われたけど蓮二以上に私を知っている人はいないと思う。



「小さい頃、七夕に雨が降るといつも泣いていたのを思い出す」

「今年も降らないでほしいなあ」

「降ったらまた泣くか?」

「そうだなあ……」

泣く、とはいかなくても言うチャンスを逃すわけだから微妙だな。

昔話に背中を押してもらうだなんて変な話だけれども、私にとって今年の織姫と彦星は恋のキューピッドなのだ。きっと空では二人とも迷惑そうな顔をしているか、もしくはネタとして楽しんでいるかもしれない。

反応が微妙だった私を不思議に思ったらしい蓮二が「どうかしたのか?」と聞いてきた。

「もし晴れたら二人は一年に一度の再会を喜ぶでしょう?私もそれに便乗したいなあと思って」

口に出してみると自分でこれは乙女すぎて痛いのではと気がついて「へへへー」と笑って誤魔化してみる。

「そうか想いを寄せている相手がいるのだな」

「この歳になればそれなりに恋もしますよ」

今はあなたにとは伝えれないけど。

「朗報だ」

「え?」

「雨が降ろうが降らまいが天の上では関係がない、年中晴れている」

窓に顔をむけたままそう言った。思わず自分も外を見る。

「え、そうなの?」

「だから毎年二人はちゃんと会っているさ」

「それ、いつから知ってたの?」

今まで教えてくれなかったのに。

「なまえがあまりにも泣くから小さい頃に調べた」

「そんな前から知ってたのに教えてくれなかったの?!」

私はそんな意地悪な蓮二に驚いた。
あまりにも泣くなら教えてやってくれよ。

「すまない、二人を思って泣くなまえが愛しかったから」

「……あはは、なにそれ意味深に聞こえちゃう」

「そうか、なまえはどう聞こえたんだ?」

口角の上がった表情にからかわれいたのかと顔が熱くなる。
やられた、とため息交じりに答えた。

「手のかかる妹だなと生暖かい目で見られている気分だよ」

「そんな顔をするな、はっきりと口にしなかった俺が悪い」

「いいよ、本当のことだもん」

自覚はあるし言い返すこともできな事実に告白なんて考えていたのが恥ずかしくなってしまう。そばにあったクッションを抱きしめ顔をうずめていると、こっちを向けと言うのでノロノロと顔を上げた。。

そこには先程と同じく真面目な顔をした蓮二がいた。



「なまえのことが好きだ」


ゆっくりと確実に発せられる言葉に私は驚きのあまりかたまってしまう。

「な、に、急に……」

「他の人のところへ行くくらいなら今のうちに少しでも意識してもらおうと思ってな」

本当ならまだ言う時期ではなかったのだが先程のを聞いたら仕方がない。

蓮二が続けて話していることは私の耳には入ってこない。いつから?本当に?本気にして良いの?そんな素振り見せなかったじゃない。

「返事はいつでも良い」


今すぐ私もと答えたいけど思いついてしまった。

『ずっと蓮二の傍にいられますように』

短冊にそう書いて蓮二の机にそっと置いておこう。



「やっぱり今年も晴れてほしいな」

「そうだな」

返事はいつでも良いって言いながら彼の中で確率は上がっているのではないだろうか。
そう思えるほどに冷静であった。