◇幸村に乙女ゲーが見つかる話

私、なまえ。趣味はゲーム。今ハマっているゲームは恋愛系。
攻略したい相手が求めるステータスのレベルを上げる必要がある。
今落としたい相手は趣味が園芸ということで花の知識がいる。
会話で突然発生する花クイズにクリアしないと好感度が下がるからだ。
引きこもりな私に自然界の知識なんて皆無だったので図書室にやってきた。

「攻略本は邪道だし豆知識を増やすのも悪くない」

花は興味ないけどね〜と独り言をつぶやきながら図鑑を探す。文字ばかりのものは読む気になれなかったので、写真が多めのわかりやすそうな図鑑を選んだ。

「へえ、知らなかったな」

気配すら感じていなかったからひどく驚いてしまって、びくりと肩が揺れる。おそるおそる顔を上げると、そこにはリアル乙ゲーキャラ……じゃなかった、クラスメイトの幸村がいた。

「みょうじさんって植物に興味があったの?」
「んー、ちょっとね……」

まさか恋愛ゲームでキャラを攻略するために必要だとは言えず、しどろもどろになる。それを気にすることもなく、幸村はあろうことか花クイズを出してきた。

「君はどんな花が好きなの?」
「えっ」

ゲームなら選択肢が出てくるけど、現実ではありえない。花なんてよく知らないから、咄嗟に思い浮かんだ花の名前を挙げた。

「……アサガオ」

絞り出して出てきた答えが アサガオだなんて、小学生みたいで恥ずかしくなった。

「俺も好きだよ」
「え?」
「君じゃなくて、アサガオ」
「わかってるよ?!」

興味ある割に小学生かよって反応がくると思いきや同意してくれた。
さりげに失礼なこと言われた気がしなくもないけど、まあいいや。

「朝から元気に咲いてる姿見るとなんだか元気でるよね」
「そうだよね」
「屋上にもあるよ、今度見においで」

それだけ言うと、じゃあとカウンターへ行ってしまった。
いつの間に本を選んだのだろうか、私もはやく決めないと休み時間が終わってしまう。適当に本棚から一冊を抜き出して、私も急いでカウンターに向かった。



「よーし、図鑑を手に入れた私に不可能はない。どこからでもこい!」

家に帰ると早速図鑑を片手にゲームを進めていく。クイズ自体は調べれば簡単にわかるので、おもしろいほど簡単に好感度があがっていった。

「へぇ、いちごってバラ科なんだ」

母親の「ごはんー!」という声で一旦離脱したものの、夕食も入浴も済ませるとすぐにゲームを再開し、気がつけば朝になっていた。



「おはよう、図鑑おもしろかった?」

え、と振り向くと目の下を指差しながら微笑む幸村がいた。うっすらだからバレないだろうと思っていたのに、クマに気付かれてしまったようだ。

「うん、あのね!いちごって何科か知ってる!?」
「バラ科だね」

あっさりと答えが返ってきてあからさまにがっかりしてしまう。幸村はそんな様子をくすくすと笑って見ていて、ゲームの攻略対象よりも手強い印象をうけた。

「じゃあ俺もクイズを出そうかな、いちごの花びらは何枚でしょう?」
「え!?えーっと、ええええ?」
「わかったら答えを教えてね」

そう言い残して席に戻っていくから、今度は幸村を唸らせるクイズを出してやろうと図鑑を開いた。いちごの花びらは……五枚、っと。

花びらの枚数が決まっているなんて不思議だなと思った。そのまま図鑑をペラペラとめくるがクイズにできそうなものが見当たらなかった。
やっぱりここはゲームからヒントを得るしかない。そんな言い訳を作り、昼休みに人気のない裏庭でこっそり持ってきたゲームを起動させた。
前回の続きからすすめ、廊下で会ったので立ち話をしていると『そうだ、今度花食べに行こうよ』と誘われた。

「は????」

花を、食べに、行く……???
ある程度好感度が上がったのでそろそろデートのお誘いがくるとは思っていた。
でもどういうことなんだ、バグなのか。
選択肢は『最近人気だよね!』『花なんて食べれないよ笑』『それより焼肉行こうよ』『草も食べよう』の四つだった。
どれも正解のような不正解のような……不安になった私は花が食べられるのか図鑑を読むために教室へ戻った。



いそいそと足早に歩いていると、教室から人が飛び出してきた。予想もしていなかったから、ぶつかってしまったのも仕方ないだろう。

「ごめんっ!……って、みょうじさんか」
「いや何その私には謝罪不要みたいな発言!あ、ねえ!」

冗談だよ、ごめんね。そう言って立ち去ろうとする幸村の腕を掴んで、無理やり引き留めた。

「食べられる花ってある?」
「は?」
「花、食べられる?」
「食べたことないの?」
「ないよ!あるの?」
「う〜ん、わかりやすいのは桜かな」

桜は見るもので食べたりなんか……するわ!
クッキーやケーキに入ってたりするわ!

「本当だ!あった!幸村すごい!!!」

ありがとうありがとうバグじゃなかった!お礼を言いながら手をとりブンブンと降ると、幸村はひきつった笑顔で良かったねと言った。



放課後、早速図書室で携帯ゲーム機を取り出す。選択肢の画面のままだったので、『最近人気だよね!』を選ぶ。反応が良かったのでほっと胸を撫で下ろした。

「今日のデート、楽しかったね……?何これ」

後ろから怪訝な顔をして覗きこむ幸村。プライバシーもなにもあったもんじゃないけど、学校でゲームをしていた私も悪い。

「ゆ、幸村ごきげんよう!」

あわてて画面を閉じたものの時すでに遅し。幸村は携帯ゲーム機を指差しながら話しかけてきた。

「ごめんね、偶然見えちゃって。みょうじさんはこういうゲームが好きなんだ?」

幸村は満面の笑みを浮かべている。……この笑顔はどっちだろう?ただ単なる愛想笑いなのか、弱味を握ってやったぜ的な笑みなのか。

「み、みんなに言う……?」
「んー、どうしよっかな」
「弱味のほうかーーー!!」
「なにが?」
「なにもないです」

ふうん、と楽しそうに笑うのでビクビクしながらもゲームをカバンへ入れた。これ以上見られたくない。
そんな私をジロジロ観察した後、ちょっと考えた様子を見せてから口を開いた。

「黙っててほしいなら……」
「はい!なんでもします!」
「なんでも、ねえ」

とりあえずこの秘密の趣味を知られたくない私はコクコクと必死に頷いた。

「じゃあさ」

微妙なところで言葉を止めないでほしい。できたら期間限定のパシリ程度で留めておいてくれたらいいなぁ、と期待を込めて続きを待つ。

「連絡先教えてよ」
「…………へ?これから一週間お前パシリな!とかではなく?」
「パシ……?みょうじさんは俺のことなんだと思ってるの」
「いやぁ、気のせいだったみたい。……はい、どうぞ」

スマホを渡すと手早く操作をして、連絡先を登録したようだった。スマホを返されながら届いてる?と聞かれて画面をみると、幸村からのメッセージが届いていた。

「今度植物園に行かないかい……?」
「え、そこ声だして読んじゃう?」

ここまでくるとゲームの世界にトリップしちゃったのかなと思ってしまう。少しときめきには欠けるけれども。
ということは今私が持っている選択肢はきっと『もちろん行きたい』『ごめんね遠慮しとくよ』『デートって期待しても良いの?』あたりだろう。
さて、どうしたものか。笑顔で返事を待っている幸村にゆっくり返事を打ち込んだ。