ハロウィン:白石






「がおー!」
「……にゃー、の聞き間違いやんな?」
「なんでやねん、今日の俺は狼男やから!」

今日の白石はいつも以上にテンションが高くて、とても楽しそうだ。黒っぽい耳はどうやらヘアクリップで留めるタイプのようで、下から見上げると本当に動物の耳がついているように見える。

「よしよし、黒猫さんみたいで可愛いなぁ」
「狼男や言うてんのに!あんま怒らせると……」
「怒らせると?」

白石は珍しく意地悪そうな表情をしていて、いつもとのギャップにどきりとしながらも次にくる言葉を予想する。きっと悪になりきれずに可愛いことを言うような気がして、にやけてしまいそうになる頬を必死に押さえた。

「食べてまうでー!がおー!」
「……あははっ!やっぱり可愛いー!」
「なんやとみょうじ!見ときや俺の恐ろしいキバが今お前にっ、」
「はいおはよーございまーす。そこ、何やってんねん」

タイミングがいいのか悪いのか、白石がベタなポーズをとった瞬間にクラス担任が教室に入ってくる。両手を下ろすこともしないまま、視線だけがそちらに向けられていた。

「白石、さすがの俺でも小道具の持ち込みは許可できひんわー」
「そんな殺生な!」
「放課後まで没収な。ちなみにハロウィンで仮装する理由知っとるか?」

狼耳を取り上げられて可哀想なくらい落ち込む白石に、担任は追い討ちをかける。なんでも、ハロウィンの時期になると悪霊がこちら側にやって来て人間に悪さをしたり、はてはあちら側に連れていこうとしたりするそうだ。それを恐ろしい見た目で追い払うという一種のおまじないが、仮装をすることに繋がるらしい。

「ということでお前ら気ぃつけてな。以上、HR終わり。解散」
「先生ぇー!俺の耳返してぇー!」

担任が去ってからもずっと白石はそわそわしていて、しきりに自分の髪を撫でている。狼耳はもうそこにはないのに、と思うとその行動が可愛くてしかたなかった。

「どないしよう、こうしてる間にも悪霊が!」
「うん、白石ってたまにびっくりするくらいアホやんなぁ」
「お前、あとで泣いても知らんからな」

知らん、と言いながらも何かあればきっと心配してくれるから、私は安心して笑っていられる。彼の全てが愛おしいと思ってしまう私が、一番の阿呆だと思った。



放課後、やっとのことで狼耳を取り返した白石はとても満足そうに微笑んでいた。

「よし、これでもう俺は心まで狼男や。人間に悪さする側や!」
「白石は本物の狼男になっちゃったん?」
「そうや。でもみょうじはどう見ても人間やし、誘拐されてまうかもしれへんなぁ」
「じゃあ私は人間のままでいい」
「えー、なんでなん?」

突然歩くのをやめた私の数歩先で、白石は立ち止まって不思議そうに後ろを振り返っている。一連の流れを黙ったまま見つめたあと、軽く笑ってみせた。

「私のこと、さらってくれる?」

この差し出した手を、白石が掴んでくれますように。


いま、あなたのうしろにいるの




このお話を書いた人:あまもよう/蓮見