「幸村くんってさ」
「ありがとう」
「待って待って、まだ何も言ってないんですけどー!」
唐突に話しかけたら、即座に会話を終了されそうになって慌てて引き留める。冗談だよと言って微笑む幸村を直視してしまって、そのあまりの美しさにノックアウトされた。
「それで、俺が何なの?」
「……あっ!そうそう、幸村くんって私の好みど真ん中のお顔してるのね」
「へぇ、そうなんだ?」
わかってやってるでしょ、と思うくらい幸村くんは素敵な笑みを浮かべている。
「それでですね、ひとつお願いが!」
「えええ、なんか嫌な予感がするんだけど」
「いやいや、写真を撮らせてもらえればそれで!!」
なんだそんなこと、とでも言いたそうな表情をしていたので素早くスマホを構える。隠し撮りも考えたけどもし自分がそんなことをされたら嫌だし、というかどうせならカメラ目線の写真がほしいし。
「んー、俺のお願いも聞いてくれたらいいよ」
さくっと写真を撮らせてもらってそれを毎日の活力に……え、今幸村くん何て言ったの?俺のお願い??ぎゃあああ可愛い可愛い可愛すぎるー!そんな心の声が駄々もれだったのか、幸村くんの綺麗でかっこよくて可愛すぎるお顔が若干引きつっていた。
「さ、行こうか」
「へ?」
“放課後ちょっと付き合って”
そう言われたのはつい先ほどだったような気がするのに、いつの間にか授業が終わっていた。付き合って、とか意味はわかっていても美味しい言葉すぎて反芻するたびに口元がだらしなくゆるむ。だってあの幸村くんが、私と。むふふ。
「あははは!みょうじさん、何ひとりで変顔してるの」
妄想の世界にトリップしそうになっていたところを、幸村くんの声で現実へと思考が舞い戻った。変……!?してな、いやしてたわ。幸村くんの前でなんてこった。
「面白い人だなぁ」
「お、それ嬉しい!」
「ええ?嬉しいんだ?」
変なの、と言って小さく笑う幸村くんは天使なんじゃないかな。
「ご馳走さまです!」
「何が?」
「全てに感謝!ところで今からどこへ何しに?」
「駅前で買い物、ってとこかな。あ」
それってデートみたい、なんて言いそうになったのを寸前でこらえる。
「放課後デート、って言ったほうが色気があるね」
そんな風に思ってるなら無しね、なんて言われたらお写真撮らせてもらえないかもしれない。……とか思って黙ってたのにまさかの色気ぇえええ!幸村くんのファンサービス手厚くない!?いいの!?
「ああああありがとうござっ、光栄の至りー!」
「ぷっ、みょうじさんはいつも元気だね」
「いやもうホント、それしか取り柄がね。しょんぼり」
「しょんぼりって口に出して言う人初めてだよ」
幸村くんの笑いのツボは意外と浅いようで、何を言ってもウケてくれるから嬉しい。そんなこんなで歩いていると、派手な服を着ている人たちがちらほらといることに気がついた。
「あの人も、あそこの人も仮装してる」
「本当だ、今日がハロウィンだからだね」
「そっかー、ん?ハロウィン今日なの!?へぇ……」
「そうだけど、どうかした?疲れちゃったかな」
仮装した人たちとすれ違う度にじっと黙って見ていたら、幸村くんは私が疲れたのかと思ったらしく心配してくれた。何その気遣い、パーフェクトすぎる。
「どこかでお茶でもする?」
「あ、ううん!大人になったら仮装してみたいなって憧れてて」
イケメンは心まで美しいんだなと実感。でも幸村くんとお茶とかどこ見てたらいいかわからないから遠慮願いたい。
「なんだ、そんなの今すればいいのに」
「え?」
「ほら、こっち」
腕をぐいぐい引っ張られているからか、まわりの注目を集めていてくすぐったい。でもそんなことを気にするそぶりもなく、スタスタと幸村くんはどこかへ向かって進んでいく。
「わ、何ここ?」
ついたのは街の一角で、SNS映えしそうな背景と小さなステージがあった。脇にはいくつかの衣装も用意されている。これ以上はないと思っていたのに、無料の文字を見つけて更にテンションが上がった。
「自由に衣装を着て撮っていいらしいよ」
「おおおお!そ、それなら……!」
幸村くんに是非ハロウィン的な衣装を着てほしい。幸村くんならどんな衣装でも着こなしそうだけど、動物やファンシーな仮装よりはドラキュラや魔法使いみたいな人間ベースの仮装がいいな、なんて思いながら男性用の衣装を探す。
「よし!幸村くんこれ着てみようか!!……え?」
選んだ衣装を手渡すと、何故か私にも衣装が手渡された。
「じゃ、みょうじさんはこれね」
有無を言わせない感じだけど、なんとしてでも幸村くんの写真を撮りたい私は必死で抵抗する。
「幸村くんの写真を撮るのが今日の目的でして!私がカメラマンしなきゃ誰が撮る!?」
「一緒に撮ればいいんじゃない?こうやって」
……鞄から自撮り棒が出てきちゃったよ。嘘でしょ、もしかしてあの幸村くんが自撮りを日常的に……?それは是非画像データが欲し、いやいや欲しいけど今はそんなこと考えてる場合じゃなくて。
「それはちょっと無理ですね心臓やばい」
「あはは!なにそれウケる」
自撮り棒で撮影するということは、多少なりとも幸村くんと近付かなくてはいけないってこと。
「俺のお願い、きいてくれないの?」
「……着てきます」
あっさり根負けした私はいくつか用意されている更衣室に入ってから、手渡された衣装を泣く泣く着ることにした。メイク道具持ってきたら良かったな、これからあの麗しの幸村くんと並んで写真を撮るのか……。
「幸村くん?あれ?」
更衣室から出ると幸村くんの姿が見当たらない。ひとりで仮装して突っ立っているのは恥ずかしいから、早く出てきてと願った。
「あれ、みょうじさん早くない?」
「幸村くんんんん!良かった途中からもしかして幸村くんに放置プレイでもされてるかと思ったー!遅いー!」
「ごめんごめん、でもそれも楽しそうだね」
「鬼畜ー!」
最初は出てきてくれたことにほっとした。次に、仮装してる幸村くんをまじまじと見て興奮した。
「ちょ、幸村くん似合うね!?やっぱり似合う!かっこいい!私の見立ては間違ってなかった神様ありがとう……」
「そういうみょうじさんもすごく似合ってるよ」
このあとのことはよく覚えていない。だって幸村くんとの距離の近さに目眩がして、制服に着替え終わった今でも頭がくらくらする。
「あー楽しかった」
「そうだね幸村くん最高だった……」
「そんなに褒められると照れるなぁ」
もうそろそろ帰る時間だな、なんて思うとちょっと寂しい。顔も好みだけどそれだけじゃなくて、今日は本当に楽しかったな。
「あーあ、もう帰らなくちゃ。でも……」
幸村くんも同じ気持ちなんだってわかって嬉しい自分がいる。もしかして私、ただのファンじゃなくて好きになり始めてる?いやいやそんな身の程知らずな。
「みょうじさん、またデートしようね」
あれ、幸村くんも私のこと結構気に入ったんじゃない?なんちゃって。さすがに調子乗りすぎだよね。でも神様、私、ちょっとだけ期待してもいいんじゃないでしょうか。