丁度夕飯を食べ終えた頃インターホンが鳴り、モニターには近所に住んでいる長太郎が映っていた。最近は互いに忙しくしていたから、こうして顔を合わせるのは久しぶりだった。すぐに玄関を開けにいくと小さめの段ボール箱を両手で抱えていて、側面には葡萄という文字が書かれている。
「突然ごめんね?」
「ぜーんぜん!どうしたの?」
「葡萄をたくさん頂いたから、お裾分け」
「えー!ありがとう、上がって上がって!一緒に食べよう!」
「待って、家にいっぱいあるからお裾分けに来たんだけど……聞いてないね」
長太郎が苦笑していたことに本当は気付いていたけど、葡萄を一房洗いお皿に乗せて部屋へ向かう。少しの時間だけでもいい、せっかく会えたのだからいろんな話を聞きたかった。
「なまえの部屋に入るの久しぶりだ」
「だねー、そんなことよりさ!聞きたいことがあるんだけど」
最近、長太郎がキラキラしている。テニスに打ち込む姿は以前から輝いていたけど、どうもそれだけじゃない。友達が恋をしてからキラキラして見えるようになったから、きっと長太郎もそうなんだと思う。
「長太郎って好きな人いるよね?」
「えっ、……なんで?」
「わかるよー!」
長太郎はほんのり顔を赤らめて、この話はもうおしまいだとでも言うように大粒の葡萄を一口で頬張っていた。そういえばいつだったか、恋バナは苦手だって言ってたっけ。
「私も誰か好きになってみたいな」
そう呟いたあと、ふたりして無言で葡萄を食べ続ける。いろいろ話したかったはずなのに、なんとなく微妙な空気を感じて何も言えなかった。最後の一粒になってようやく互いに口を開いたものの、譲りあいが始まった挙げ句結局私が根負けして食べることになった。
「あのさ、なまえ」
「うん?あっ」
「じっとしてて、何か拭くものもらってくるよ」
「ありがとう」
ティッシュを取ろうとして手を伸ばしたら、誤ってお茶をこぼしてしまった。マグカップに半分以上入っていたそれをティッシュで拭くには心許なかったので、その気遣いはとても助かる。
「ごめんね、いつも面倒かけちゃって」
「そんなことよりさっき言いかけたことだけど」
タオルでローテーブルを拭きながら長太郎が話し出す。そういえば私がお茶をこぼす前に何か言おうとしていたことを思い出して、返事をするかわりに長太郎と目を合わせた。
「俺のこと好きになればいいのに」
どくんどくん、と心臓が大きく音を立てているのがわかる。長太郎は恋をしているからキラキラしてて、でもその相手って、まさか。
「……そう言おうとしたんだ。じゃあまた、明日」
ぎこちなくまたねと一言吐き出せたものの、明日どんな顔をして会えばいいのかわからない。心なしか強張っている長太郎の顔が頭から離れなくて、近くにあったぬいぐるみをぎゅっと強く抱きしめた。
秋:「俺のこと好きになればいいのに」「突然ごめんね?」
あまもよう:蓮見あんり
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