そろそろ帰ろうと図書館の窓から外を眺めると、ぽつりぽつりと雨が降りだした。次第に雨脚が強くなってきて、どうしたものかと途方にくれる。季節は冬、傘もなしに帰るには寒過ぎる。サエから連絡がきたのはそんな時だった。
なまえ、今何してる?
図書館にいるけど雨が降っていて帰れない、そう返信すると迎えに行くと言ってくれたので、その好意に甘えることにした。そう時間がたたないうちに図書館に来てくれたから、急いで駆けつけてくれたことがわかる。
「ありがとう。あれ、でも」
傘が一本しかない、そう指摘せずとも私の言いたいことはサエに伝わっていたようだった。
「わざと」
そう言って微笑むサエはとても綺麗で、みとれてしまう前に急いで視線を外した。
「一緒に使おう、なまえ」
「……そんなことされたら、好きなっちゃうかもよ?」
「なに、告白?」
私が大きく首をふると、それがわかっていたくせにサエは唇を尖らせて拗ねたような顔をした。この想いを告げるなら、もっとちゃんとした言葉にしたい。
「なーんだ、残念」
「思ってないくせに」
「そんなことないよ。……ね、ちょっと寄り道しようか?」
「する」
十二月にもなると街中がきらめいて、見ているだけで心が弾む。歩いているうちにショーウィンドウの中の小さなきらめきにふと目が留まって、自然と足を止めた。
「こういうの好きなの?」
「うん、サエなら似合っちゃいそう」
「なまえじゃなくて?」
「私?あはは、私には似合わないよ」
小さいながら金メッキで華やかに細工が施された髪飾り。私がもしもサエのように美しい人間だったなら、きっと似合ったと思う。
あれから数日たったある日の夕方、ふたりの家の中間地点であるいつもの公園に呼び出された。冷たい風が鼻先を掠めて少しだけ身震いする。
「なまえ、これあげる」
「え、なんだろう?」
冬はあまり好きじゃない。頬も鼻も赤くなって、どうしたって可愛く見えないから。
「……サエ、これって」
包装紙を丁寧にはがすと、中に入っていたのはあの時の髪飾りだった。嬉しい、それしか言葉が思い浮かばない。夕空にかざすようにしてみとれていると、ねぇ、と呼びかけられた。
「俺が付けてもいい?」
「サエが?」
「ダメ?……お願い」
「……うん」
恐る恐る見上げると綺麗な顔がとても近くにあって緊張が走る。髪を優しく撫でるような感覚がしばらくあって、髪飾りの重みを感じた。指先が頬に軽く触れたと思ったら、すぐに離れていく。
「綺麗だね、なまえ」
「嘘」
「本当なのに」
じっと見つめられると視線がそらせなくて、このまま好きだと伝えたくなった。
「ねぇ、サエ。私ね、サエのこと」
「待ってなまえ、髪の毛食べてるよ」
少しでも可愛く見せようと塗ったリップクリームが仇となって、髪の毛が唇に張り付いた。優しい手が再び頬をなぞって、私は息を止める。
「はい、とれた」
サエが離れてからゆっくりと吐き出した息が白かった。もう何度告げようとしただろう、今日も告白を聞いてもらえず勇気をすっかりなくした私は、俯きながらぽつりとこぼす。
「ありがと、サエ」
「ちゃんと目を見て」
「……プレゼント、すごく嬉しい。ありがとう」
「どういたしまして。お礼はハグでいいよ」
そう言ってまるで飛び込んでおいでと言わんばかりに両腕を広げている。私が好きだと伝えようとすればはぐらかすくせに、こういうことは平気でやってのけるからよくわからない。慌てふためく私を見て、サエはくつくつと笑った。
「冗談、本気にしないでよ」
ああ、また冗談だったのか。そうやって期待して落ち込むことを、私は何度繰り返しているのだろう。吐き出した白い吐息と一緒にこの想いも消えてくれたら楽になれるのに、いつになってもサエは私の心を中途半端に苦しめて、とどめをさしてはくれない。
冬:「ちゃんと目を見て」「冗談、本気にしないでよ」
あまもよう:蓮見あんり
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