新年企画:仁王 冗談めかして好きだと言った

「なぁ、この後ヒマ?ちょっと寄り道付き合ってほしいんじゃけど」
「いいよー!」

そう言われて連れてこられたカフェは、私には似合わないような大人っぽい雰囲気の店だった。スタッフも綺麗な人ばかりで私は少し緊張していたのに、仁王は堂々と列に並んでいてとても馴染んでいる。

「仁王ってこういうとこ似合うね、慣れてるというか」
「そ?」
「彼女さんとよく来てるとか?」
「俺彼女おらんけど」
「え?いないんだ、良かったー!」

嬉しくてにやける口元に後から気付いて慌てて隠したのに、仁王には全部見られていたらしかった。くすりと小さく笑われて、正直者の私の頬はすぐに赤くなる。

「ニヤけとるのバレバレ、そんな嬉しい?」
「うん!彼女出来るまでは私とも遊んでね」
「……期待して損した」
「なんの期待?」

ごまかすために吐いた嘘だったのに、そんなことを言われたら私だって期待してしまう。鈍感を装って幾度か同じ質問をしたけれど、メニュー表を渡されてからそれはうやむやになった。

「決めた?」
「悩むなぁ」
「どれで迷っとるん」
「これかこれ」
「じゃ、俺がこれにするけぇみょうじはこっちにすれば?」
「いいの?」

その提案に乗ることにして、注文したあと席を確保しながら仁王を待つ。店内にはたくさんの人がいても背の高い銀髪はひとりしかいなくて、目立つなぁ、なんて笑ってしまった。



「んー!これ美味しい、仁王も飲んでみて!」

仁王が席についてから互いに一口飲んだあと、それぞれのカップを差し出しあう。私はすぐに口をつけずに、わくわくしながら仁王の様子を見守った。

「うま。……ずっとこっち見とるけど、それ飲まんの?」
「今から飲む!」

カップに口をつける仕草や飲み物を流し込む時に動く喉仏、そういった瞬間をただただ愛でたい。そんな小さな下心に罰を与えるかのように、仁王は私の真似をしてこちらをじっと見ている。

「そんなに見られると飲めないよ……」
「みょうじも俺のことガン見しとったけど」
「私はいいの!……仁王は顔が綺麗だからなんか緊張する」
「ははは、なんじゃそりゃ」

今日の仁王はよく笑うから、私もよく笑っている気がする。どんな些細なこともおかしくて、大きな音でごくりと喉が鳴っただけで声をあげて笑った。

「で、お味は?」
「美味しかったー!でも仁王の間接キス奪っちゃってごめんね」
「なんそれ、かわいー」

少しからかったつもりだったのにやり返されて、すぐに顔が熱くなる。いつまでたっても仁王を動揺させることなんてできなくて、慣れないことはしないほうがいいと思った。

「なぁ、みょうじって好きなやつおる?」

なんの脈絡もなくそんなことを言い出すものだから思わずむせてしまう。こうしてふたりで出かけたり意味深な発言をされたりするものの、それが仁王だと言ってしまえばおしまいで、告白してもフラれるだけだと思った。いないと嘘をつくこともできず固まっていると、へぇ、と言って仁王はカップをテーブルに置く。

「おるんじゃな」

なんとなくだけど、仁王は勘違いをしているような気がした。違う、と言わんばかりに勢いよく首を振ってすぐさま否定する。

「あのね、一番仲良いのは仁王だよ」

質問の答えになっていないことは重々承知のうえだった。それにも関わらず、仁王は驚いたような顔をしている。

「……仁王ってどんな顔してても綺麗だね」
「心配しなさんな、みょうじはいつも可愛いぜよ」
「そうやってからかうの禁止だよー」

軽口を軽口でかわしている裏で、心臓が煩いくらいに大きな音を立てていた。どこか気まずい空気が流れるなか、しびれを切らしたかのように仁王が口を開く。

「俺には聞かんの?」
「何を?……ああ!仁王の一番仲良い子って誰?」
「おっと、そっちか」

仁王はあからさまに落胆してみせると、何故か諦めたように笑った。

「みょうじにはかなわん」
「わー、よくわかんないけど仁王に初めて勝った!」
「むしろ負けっぱなしなんじゃけど」
「あはは!それはないでしょ」

先ほどまでの妙な空気はあっという間にどこかへいってしまって、どこかほっとしている自分がいる。

「俺、みょうじのこと好きじゃわ」
「ありがと!私だって仁王のこと好きだよ」
「ん、さんきゅ」

今は冗談めかしたようにしか言えないけれど、いつか好きの温度が同じになりますように。


あまもよう:蓮見あんり

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