昨日、幸村くんに好きだと言われた。
「あー、どうしよどうしよ!?」
どんなふうに幸村くんと接したらいいのかわからなくて、朝練を終えてからかなり時間が経つというのに未だ教室の前で右往左往していると、突然後ろから声を掛けられた。
「おはようみょうじさん」
「ひっ!幸村くんなぜ後ろに!?」
「なぜって、お手洗いから帰ってきたからだけど……」
ぎこちない私とは違って、幸村くんは何事もなかったかのように平然としている。それを見て私はなんとなく肩透かしを食らった気分になった。
「変なみょうじさん。あ、それはいつもか」
「ちょっと!幸村くん!?」
「あはは!褒めてるんだよ」
「へぇ、そう……」
あの告白はきっと夢だったんだ、そう思うことで私は平常心を取り戻した。そうは言っても自然と幸村くんを目で追っていて、そうしているうちに放課後になっていた。颯爽と教室を出て部活に向かう幸村くんを見送ってから、私もいつものように更衣室へ向かう。陸上部のユニフォームに袖を通すと、背筋がピンと伸びた。
「ちょっと走ってきます!」
他の部員たちのいってらっしゃいを背にゆっくりと走り出す。走ることは好き、頭を空っぽにできるから。だからひとり黙々と取り組むつもりだったのに、誰かが後ろをついて離れない。もう少しスピードをあげようかどうか悩んでいると、大きな声が聞こえてきた。
「なーなー、あんたが幸村部長の好きなみょうじさんだろ?」
「へぇっ!?いやー、人違いじゃないかなー?」
「えー?」
とんでもないことを言われて思いきり変な声がでたけど、そこそこうまく誤魔化せたと思う。このまま興味を無くしてくれるかもなんて思惑もむなしく、“誰か”はあっという間に私の横に並んでいた。
「でもユニフォームにみょうじって書いてあるけど」
「そうだった私って馬鹿?」
「そうみたいっすね!」
「君、容赦ないね!」
横目できつく睨み付けたことにも気付かずけらけらと笑っていたその“誰か”は、着ているユニフォームからして間違いなくテニス部だとわかる。
「早く部活に戻ったほうがいいよ、テニス部あっちでなんかやってるもん」
「いや、俺だけ走らされてるんすよねー」
「えーっと、私ペース上げるからバイバイ!」
「じゃー俺も!」
これは離してくれそうにない、そう感じてすっかり諦めモードになる。結構ハイペースで走っているのに彼のお喋りは留まることを知らず、結局私は質問攻めにあった。どうやらあの告白は夢ではなかったらしい。
翌朝、いてもたってもいられず幸村くんに抗議しにいった。
「あのね幸村くん!」
「なに?」
「おたくの部員さんにあんたが幸村部長の、その……好きな人ですかって聞かれたんだけど」
「へぇ」
だから何、みたいな顔をしている幸村くんの頬を両手で挟んでタコみたいに間抜けな顔にしてやろうかと思ったけど、なんとかこらえて自分の頬に添える。
「は、恥ずかしいからやめて……」
「ふふっ、ごめんね。俺の好きな人はみょうじさんだよって仲間に自慢したくなっちゃって」
「それ、自慢になる?」
「なるなる」
よくわからなくて首を傾げながら、幸村くんの話に耳を傾ける。その声は心地よくて、いつまでだって聞いていたいと思った。
「赤也も、あ、昨日みょうじさんと一緒に走ってた子の名前なんだけどね。面白い人ですねって褒めてたよ、なんだか妬けちゃうな」
「おも……女子としては複雑」
幸村くんは声をあげて笑い出して、本当のことだから仕方がないよと私を諭した。
「でもね、すごく可愛い」
「……今さらお世辞言っても遅いし」
「もう、黙って口説かれてよ」
少し拗ねたように微笑む姿から目が離せない。もしも付き合ったらいろんな幸村くんをひとりじめできるんだ、なんて自分が隣にいる未来を想像する。
「私、幸村くんとのことちゃんと考えてるから。もうちょっと待っててください」
「うん」
こんなふうに引き留めるなんてずるいってわかってる。でも、それ以上に幸村くんはずるい。
「早く好きになってね」
ほら、そういうところ。可愛くて、儚げで、本当は強引なところ。幸村くんを好きにならないなんて、私には無理みたい。
あまもよう:蓮見あんり
実はこの連載の続きでした。
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