新年企画:財前 音もなく好きになる

学年が違えばフロアも違うはずなのにどこからともなく姿を現す後輩、財前くんのことがよくわからない。

「なまえせんぱーい」

いつからかは覚えていないけれど妙に懐かれてしまって、横柄なスキンシップがもはや日常の光景と化していた。今日は私の頭をひじかけだと思っているらしい。

「おーもーいー」
「明日暇やろ?気になってる甘味処あるんやけどそこ行こうや」
「えっ、行く!!」
「ほな二時に駅前で」

暇だと決めつけられたことはこの際置いておくとして、財前くんは私を先輩と呼ぶくせに先輩だと思っていないフシがある。とりあえず明日は初対面のときからタメ口だった理由を問い詰めたい。



当日の朝になるとなんとなく浮き足だってしまって、ただの先輩と後輩の関係なのに気合いを入れて着飾ってしまった。それにも関わらず、待ち合わせ時間までまだあと三十分もある。ぼうっとしていると目を惹く男の人がいたのでそのまま目で追っていると、それが財前くんだと気付いて思わず赤面した。

「おーい、そこの林檎」
「林檎言うな!遅い!」
「まだ待ち合わせ時間より前やし。林檎先輩早すぎやろ」
「やから林檎ちゃうってば」

執拗にからかってくるなんて、財前くんはまだまだ子どもだと思う。でも、そんな財前くんに見惚れてしまったことは事実だった。

「冗談はさておき、体調悪いん?」
「……めっちゃかっこいい人歩いてくるなって思ったらなんかこうなった。ちなみに財前くんのことね」
「そらどーも」

何か言い返してやろうとしたけれど、財前くんは思いのほか嬉しそうな顔をしているから何も言えなくなった。

「あれ、なんか耳赤くない?」
「……行こ」

スタスタと歩き出した財前くんはいつもより歩くペースが早い。早足で必死に追いかけて、ようやく手が届く距離に近付いた。

「待って待って、財前くん!」

聞こえてないみたいにどんどん歩き進める財前くんになんとか追い付いて腕をつかむ。そこでようやくこの状況に気付いたようだった。

「……すんません」

ばつの悪そうな顔をしながらじっと見つめてきたかと思うと、きゅっと頬をひっぱられる。

「いたっ、何?」
「なんか無性に苛めたくなった」
「理不尽すぎん!?」

そう言うと財前くんはやっと笑ってくれた。



甘味処に着くと、メニューも見ないうちから財前くんは注文をする。私も強制的に同じものを食べることになっているようだ。電気網焼き器がふたつ運ばれてきて、自分で焼いた餅を温かいつぶあんに乗せる。美味しいねと言おうとして顔をあげると、財前くんは目を輝かせてぜんざいを噛み締めている。

「ぷっ、あはははは!」

頭を撫でてやるとどこか不満そうにこちらを見ていて、ますます撫でる手に力が入る。

「何」
「美味しそうに食べるなぁと思って」

財前くんの顔がほんのり赤く染まったことを指摘すると、軽いチョップが頭に降ってくる。痛くないように手加減しているところがおかしくて、自然と笑みがこぼれた。

「笑うな、むかつく」
「ねぇ、なんで私には最初からタメ口なん?先輩って呼ぶくせに」
「言いたくない」
「あはは!なんか拗ねてる?どうしよ、めっちゃ可愛い!」
「はぁ?」

気だるげな表情にうっかり見惚れそうになって、慌てて視線をそらす。

「可愛いんはなまえ先輩やろ」

頬杖をつきながら呆れたようにそう言われると、自分が本当に可愛いような錯覚を抱きそうになる。結局タメ口の理由は聞けなかったけれど、財前くんと過ごす時間がとても好きになった。



あまもよう:蓮見あんり

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