◇誘われる話

「ねえねえ、いい加減無視するのやめてよ〜」

「もうっ!いつまでついてくるの!?」

女の子の後ろについてくるのはオレンジの頭の男の子。



そんな二人のお話。





「だからさ〜なんで待ち合わせには来てくれるのに僕が来たら帰るの?」

「メールがきたから。待ちぼうけさせるのは嫌いだから。義務を果たしたら帰る、それだけ」

さっぱりきっぱり言い放つがそれでも諦めない、すたすたと歩く彼女に必死についていく彼。
はたから見ると、ケンカしているカップルでしかない事は本人達にはわからない。

「私じゃなくても千石にはいっぱい女の子いるじゃん」

「何度も言ってるでしょ?こう見えて硬派なんだよなまえちゃんだけだって」

「そういう台詞が軽い!ていうかデートしないのわかってて毎週なんなの?」

道の隅でやっと向かい合う。

「なまえちゃんとデートがしたいんだって」

「じゃあ一回デートしたらもういい?私も暇じゃないの」

いい加減にして!

今までで一番強い拒絶に、一瞬傷ついた顔をしたが、真剣な表情へとかわる。初めて見る真剣な顔に今度は彼女がたじろいだ。

「僕こんなんだから本気にしてもらえないけど、本当になまえちゃんが好きなんだ」

今までも何度も好きだと伝えてきた。それでも伝わらない事がもどかしかった。
でも彼女はそれに答える事は一度もなかった、伝えるほどに不機嫌になる。

「嫌いなら嫌いだと、無理なら無理だと言ってほしい」
じゃなきゃ諦めきれないんだ、可能性にかけたくなるから。

最後の方は聞いている方が辛い声だった。

「嫌いじゃ、ない」

消えるような声で返ってくる返事に少しほっとする。

「じゃあ何でそんなに拒絶するの?」

「千石って女好きじゃん」

「まあ、否定はできないかな」

困ったように笑う彼に彼女は言った。

「だからだよ!そのうちの一人になりたくない遊ばれたくないの」

泣きそうな顔を見て頭を撫でようとしたが、今までからすると嫌がられる。上げた手の行き場をなくし、力なく戻した。

「そんな、弄んでるみたいな言い方しないでよ」

「千石とは不安になるよ」

「なまえちゃんさ、毎週なんなのって言ったでしょ?」

うつむく彼女に思い出したかのように語りかける。

「うん、言った」

「毎週会ってるんだよ」

「だから、なに?」

「僕はなまえちゃんとしか会ってない」
この意味わかる?




僕には君しかいないってこと。