まただ。
君からの急なお誘い。
「キヨ!ごめんね遅くなって!」
慌てて駆け寄る姿に、ああ大丈夫そうだなと安心した。
いつも誘いは急で、それは何かあった時。それを、どうしたの、なんて野暮な事は聞かない。
こういう日は絶対に先に待つことにしている。近寄ってくる時の表情や言動で様子を探るために。今日はそこまで深刻ではなさそうだと胸を撫で下ろす。
「良いんだよ〜なまえちゃんからのお誘い、いつも楽しみにしてるんだ」
これは本音でいつも心待ちにしている。自分が女好きで通っているのは知っている。でも自分で言うのもなんだが、本命には奥手。もし、自分から会おうと誘っても、会ってくれないのかもしれない、そう思うと中々声をかけることができない。いつも連絡がくるのを待つだけ、しつこく誘って嫌われたくないからこその受け身。
「キヨって優しいね」
呼び出されるのも、もしかしたら彼氏と何かあったのかも、なんて事を考える。もしそんな相談をされたら冷静でいられる自信がない。
だから何があった、なんて聞かないのも理由のうちの一つ。最大の理由は聞かないでほしそうにしているから。もし聞いたら関係が崩れそうだから、だ。相手を思いやっているようで自分のことしか考えていない、そんなことはわかっている。
「なまえちゃんにだけね」
重くなりすぎないようにウインクうしながら言うと「調子良いんだから」と笑ってくれた。
都合の良い男でも良い。そう思われるような行動をしてきたツケがまわってきただけだ。君に会えればなんだって良いんだ。
「今日は遊園地に行きたい」
いつもなら公園やカフェで会話をするだけなので、今回もそうなのだと思っていた。ちゃんと遊ぶのは初めてかもしれない。
この時に彼女がいつもとは違うということに気がつくべきだった。
「キヨはやくー!」
入って真っ直ぐに向かったのはジェットコースター。
「なまえちゃんって絶叫系好きなんだ」
「そうかも、後ろの席が良いな」
平日の夕方とあって人もそんなにおらず、どのアトラクションもすんなりと乗れた。
観覧車を降りたところで、もう閉園となるし帰ろうかと促すと彼女は立ち止まりうつむいた。
「閉まっちゃうよ」
そっと彼女の手を握る。
「キヨはいつも何も聞かないでくれるよね」
なんて答えて良いかわからず、手を強く握ることしかできない。
「私、最低だよ」
「そんなこと、ないよ」
「最低だよ!キヨを逃げ場所にして!」
お願いだから突き放してよ!!!
目に涙をいっぱいにため睨み付けてそう叫んだ。
「じゃないと、甘えちゃうじゃん」
もう見えてないだろうってくらい泣いている。とても弱々しくて、守ってあげたいって思った時には抱きしめていた。
「なまえちゃんが最低なら僕はもっと最低だよ」
どんな理由であれ君からのお誘いが嬉しくて仕方なかったんだ。
「キヨ……」
「だから良いんだよ、逃げ場所にしてくれて」
「キヨ、私ね……」
彼女が語ってくれた話は想像していたものとは全然違った。それでも彼女は彼女なりに悩んで苦しんで行き詰まって、どうしようもなくなると会いたくなり連絡をとってしまうそうだ。
いつもなら会って話をするだけで元気になれるそうだが、今回は相当参っていたらしい。そんな姿を見せたくないと元気に振る舞っていたそう。あまりに僕が優しすぎるから、自分が惨めになり突き放してよと言ったみたいだ。
でもあの時、確かに『私を離さないで』と聞こえたんだ。
それをプロポーズの時に話せば、キヨは昔から私の王子様だね、と今までに最高の笑顔を見せてくれた。
逃げ場所が帰る場所になるまで。