大学生の姉が友達と旅行に行くと楽しそうに話していたのを聞いて、私もせめて遠出くらいしたいなと思った。中学生も最後だし、友達だけで卒業旅行風なんてしてみたい。そんな気持ちでこの冬やっているイベント特集の雑誌を買ってしまった。良いのがあればトモちゃんとちよに声をかけてみよう。そう思い捲っていたが視界から消える。
「なにこれ、冬のイベントを遊びつくそう?」
「まずはおはようじゃないかな、幸村君」
幸村君は隣の席になってからはやたらとちょっかいをかけてくるようになった。ツンとした後にデレを出してくるからトモちゃんとちよには「幸村君は絶対になまえが好き」だと言われる。実は私もそう思っている。
「一人でこんなの読んでるなんてもしかして友達いない?」
「いーまーすうううう!」
「なんだ、いないなら友達になってあげようと思ったのに」
「え、友達じゃなかったの?」
ふん、と意地悪な笑みで言われたので悲しいですという顔をする。その様子を見た幸村君はまんざらでもないのか口角がピクリと上がった。
「……ま、なんでも良いけど」
「もう、返してよ」
幸村君の手から雑誌を奪うと椅子に座ったまま距離を詰めてきた。読みたいのかと思い見やすいように右にズラす。
「誰とどこに行くんだい?」
「友達と卒業旅行みたいな思い出作れたらなって勝手に思ってるだけだよ」
「まだ先じゃん」
「うん、どっか行きたい気持ちが強くて買っちゃったの」
今はまだ十二月、卒業する頃にはもう各イベントもほとんどが終了している。こんな早くから探してもあまり意味がないことはわかっているが抑えきれなかった。しかし意外に読むだけでも楽しいので結局行きたい気持ちが増しただけだ。
「これ、みょうじみたいだね」
「どれ……ってアザラシじゃん」
「嫌なの?」
「う〜ん、あまり喜べない」
「可愛いのに」
あまりにもサラッと言ったけど、それって私もかわいいってことなのか。でもそれを言ってしまうと違うと怒りそうなので黙っておいた。かわりにそのアザラシがサンタの恰好をしていたので見出しを読み上げた。
「サンタとトナカイのコスプレした海の生き物が見れますだって」
「へえ、ストレスすごそうだな」
「も〜そんな風に言わないでよ!かわいいなと思ったのに」
「じゃあ見に行く?」
「幸村君と私が?」
「不満?」
「光栄でございます」
「よろしい」
当日、本当に幸村君は来るのだろうかと不安になりながらも向かう。待ち合わせ場所につき、ぐるりと見渡すとちゃんと来ていた。
「おはよう、挙動不審ですぐ見つけれたよ」
「ちょっと不安でした」
「迷子になりそうな顔してるもんね」
「どんな顔なのそれ」
不安なのはそういう意味じゃないとわかったら不機嫌になりそうなので否定はしなかった。さっそく水族館に入ると、ペンギン、アシカ、セイウチ、置物、着ぐるみ、飼育員さんとあらゆる場所にコスプレしたサンタさんやトナカイがいた。一番大きな水槽にはクリスマスツリーが飾ってあった。
「すごい、海の中がクリスマスだ」
「写真撮る?」
「撮りたい!」
「じゃあ、こっち来て」
この撮る?っていう言葉は、私を撮ってくれるんだと思った。でも幸村君も水槽側へ行くから、あれ?と思ったものの素直に従うと私をグイっと引き寄せた。いわゆる自撮りってやつ。まじか、そういう意味か。そう気づいた時には遅く微妙な表情の私と満面の笑みの幸村君のツーショットができあがってしまった。肝心のツリーがほとんど写っていないけど、幸村君は満足そうだ。
「お土産屋さん見たい」
「いいよ、何買うの?」
「ペンギンかイルカのなんか欲しい」
そう言うと興味なさそうな相槌をしてふらふらと店内に入って行った。ここは別行動なのか、思っていたよりも緊張していたみたいで少し気楽になる。ペンギンのコインケースが可愛くてレジに並ぶと幸村君もお会計をしているところだった。
お店を出るところを見て、荷物を手にあわてて出た。
「なに買ったの?」
「コインケースだよ、幸村君は?」
「ストラップ、二個セットだから一個あげるよ」
「え!いいの?」
「うん、これしかなかったんだ」
そう言って見せてくれたのはクリスマス限定モチーフのイルカのストラップだった。これしかなかった、そう言っていたがイルカのストラップはたくさんあったはず。でもクリスマス限定は他に見なかったかもしれない。それにしてもよりによってこれか……。渡されたイルカを見て戸惑う。意味わかってなさそうだし触れないでおこう、そう思ったのに。
「ああそうだ、これカップルで持つと別れないらしいよ」
「……え?」
「だから、これからもよろしくね」
まさか知っていて買ったとは驚きだ。ここで照れたらなんか負けた感じがするので精一杯つっぱねてみる。
「カップルじゃない私達には関係ないんじゃない?」
「はあ。ほんと、かわいくないな」
「幸村君はかわいいよね」
「ちょっとどういう意味?」
「ないしょ―!」
不満そうな顔をしている幸村君。私だけ素直になるのは悔しいからまだ何も言わないけど、スマホにストラップをつけてありがとうって微笑んだ。