ジリジリと照り付ける太陽。こんな中外に出るなんて自殺行為な気がする。アスファルトの上で焼かれる人間焼肉状態だ。そういえば生きたまま焼かれるエビの動画を見たことがある。もっとわかりやすいタイトルにしてくれたら良いのに『エビを美味しく食べる焼き方』なんて書いてたら普通に料理番組かと思うじゃない。思考がおかしくなってきたので、カーテンを閉めて扇風機を強にした。
それでも涼しくならないので直接的に冷やそうとアイスを求めキッチンへむかう。しかし冷凍庫を開けてもそこには一つもアイスなんてなかった。すごく食べたいが出たくはない。父に帰り買ってきてとメールをするか悩んでいるとチャイムが鳴った。
「はーい」
誰かも確認をせずに扉を開けるとそこに千歳がいた。
そして私の顔を見るなり笑顔で一言。
「出かけよ」
「ぱ、ぱーどぅん?どぅん……どぅん!heyyo!どぅんつくどぅんつくつくどぅどぅん!」
「なんそれ?」
「hey!hey!燃え上がるビート!今すぐはじめようぜバトル!」
「出かけなか?」
「くそう、うまくごまかしたつもりやったのに!」
「よくわからなか……」
「悲しそうな顔で見ないで!」
行くなんて言っていないのに準備できたら呼んでと言うのでリビングで待っててと招き入れた。母の呑気な「久しぶり〜麦茶とお冷どっちがええ?」という声が聞こえてくる。母のお気に入りらしくなにかと世話を焼いている。
出かける以外の選択肢がなさそうなので大人しく部屋へ戻った。別にこの格好のまま出かけても良かったが、サラリとした生地のワンピースに着替えた。あと帽子があれば大丈夫だろう。
家を出たとたんあまりの暑さに引き返したくなる。
「ねえ、どこ行くん?これ人が出歩いて良い温度ちゃうで」
「今の見ごろらしいばい、なまえと見たかったんやけど……やめとく?」
なにが見ごろなのかわからないけど、そうやって誘ってくれたものを断りにくい。きっと彼のことだから色々考えてくれたんだろうし、断ったら悲しむのだろう。
「……アイス買ってな」
「よかよ」
駅の近くでコンビニに寄ろうとするので、今買うと溶けるから帰りが良いと言うとりんごジュースを買ってくれた。家から駅まで歩いて行ける距離なのに、冷たい物が美味しいと感じるくらいに疲れていた。
「う〜生き返るううう」
「こんだけ暑かと干からびるのも時間の問題やね」
「ん、飲むやろ?」
「ありがと」
一口だけ飲むとすぐに返してきたので飲みたくなったら言ってねとカバンに入れた。
電車に乗り込むと思っていたより人が少なく座ることができた。学校であったことを話したり、野良猫の話をしながら何駅も過ごした。
「ついた」
いいかげんお尻が痛くなってきた頃、ついたと言われ電車を降りる。すぐに案内板が目にはいってきた。
『ひまわり畑へはA番出口すぐ右』
「なあなあ、ひまわり畑に行くん?」
「そうばい!」
「ひゅ〜!私あれやりたい!千歳の畑って宝の山みたいね!って!」
「よかねえ!しよう!」
「ほな歌いながら行こー!あっるっこー!あっるっこー!」
「わったしはげんきー!!」
歩き出して数分、私たちはバテた。そうだよね、電車でそれなりの時間冷房にあたってから元気だったけど、外は灼熱なのよね。
「歩ける?どっかで休む?」
暑いを繰り返しながらスピードが落ちている私に怒るでもなく心配をしてくれる。それがなんだか申し訳なくなって歩けると答えた。
「しかし、こんな暑いのに、花だって影に行きたいって元気がないのでは!?」
「そやねえ、太陽が好いとぉとはいえさすがにまいってるかもしれなかね」
「太陽が!好き!?この、殺意に満ちた太陽が!?」
そうこう言っていると、ようやく目的地についた。
千歳がサっと入場料を払ってくれたのでお礼を言って後ろをついていく。すぐにひまわりが見えた。入口から少し離れたところにあるので早く早くとせかす。
「う、嘘やん!みんな、太陽の方むいてる!!!」
「まあ、ひまわりやけんね」
「ひまわりやと太陽なん?」
植物に興味のない私はよくわからない。葉っぱでもあまり暑いとやってらんねーぜってしょげているのに、ひまわりは太陽を崇拝するかのように上を向いている。
「圧巻やわー!これだけの数がみんな同じ方向むいてるのすごいね!」
「うん、想像以上やった」
「背が高いからすごい変な気分〜」
「えらい近く行こう」
そう言って近づく千歳、ひまわりがすごく似合っていたので慌ててスマホを取り出しシャッターを切った。
「千歳―!」
「なんねー?」
慌てて私も走って追いかけた。
「ねえ!千歳の畑って宝の山みたいね!」
おばあちゃんのセリフ、もしくは妹のセリフを言ってくれるだろうか。前後しても構わない、それっぽい雰囲気を楽しみたいだけなのだから。しかし、彼が発した言葉は映画には一切でてこないものだった。
「なまえが欲しかなら俺も作っちゃる、999本のひまわり畑」
「なんか中途半端やね」
「じゃあなまえの一本、俺にくれん?」
「うん?わかった!」
「約束ばい」
指切りしたこの約束の意味がわかるその頃にもう一度。