◇丸井と仁王を追いかける話

ここ立海ではテニス部が有名である。
強いのはもちろん、イケメン揃いだからだ。

中学生のくせに、いや、中学生だからこそだろうか。
それぞれにファンクラブがあり会長がいて、メンバーでなくとも抜け駆けと見なす行為は裏でこっそり成敗される、という漫画ではありきたりな人達が存在する。

ただ、一人だけ。
対象外となる人物がいることを本人のみ知らない。
いや、むしろファンクラブや暗黙のルールがあることすら知らない。
なぜ対象外って……だれも関わりたくないからである。



「「ぎゃあっっ!!!」」



「おはよー!におたんは今日も良い腹筋でブンブンは良いお尻してるね!」
朝からなんて良い一日の始まり方だ!とこれ以上ないくらいの笑顔。

「なんちゅー女じゃ……」
「気配感じなかったぞ」

それに対して朝から最悪だと絶望的な表情の二人。
それもそうだろう、いきなりお腹とお尻をなでまわされたのだから。

「でもでも〜悲鳴は全然ダメ!明日はちゃんと萌える悲鳴あげてよね?」
そんなこと気にもとめず、人差し指を横に降りながら駄目だし。

「いや、そもそもセクハラじゃき、やめんしゃい言うておろうが」
「お前まじでいつか捕まるぞ」
ドン引きしながらも注意を促すあたり優しさにあふれている。

「なんで?」
何度目になるかわからない彼らの説得も、何を言っているのかわからないと本気で思っている。

「なんでも良いからほんま勘弁してくれんかの」
「そうだぞ!触るなら触らせろよ!」
「ブンちゃん、それは違う」
「……あれ?」

二人であーだこーだ言っているのを暫く見ていたが終わらなさそうなので、ついに我慢していた行動に出た。

左手に仁王、右手に丸井。

自分は真ん中で、二人を強く引き寄せる。
それ以上何もしてこないのを不思議に思った二人は、顔を見合わせて恐る恐る尋ねた。

「おいみょうじ」
「これは、なんじゃ?」

思い切り杯空気を吸った彼女は「なんじゃもなにも…」笑顔でこう答えるのだ。

「二人が汗だくだから匂い嗅いでた!」

その瞬間二人は勢いよく彼女をはがし距離を取った。

「こ、こんなの今までなかったぞ!」
「俺も初めてじゃ!」

「いつも着替えてから来るのに今日まだジャージだもんね、興奮する!」
距離を取られても負けじとじりじり追い詰めていく。

「なにさらっとすごい事言ってんだよ!」
「まだ朝練終わってないんじゃ、ジャージで当たり前じゃろ!?」
二人は寄りそうように逃れる術を探すが上手く体が動かない。

「そっか、二人とも水飲みに来ただけなのか」

「教室なら警戒してるのに」
「まさかここで会うとは思っとらんかったの」
なんだ残念と立ち止まった彼女に安心し彼らも少し離れた。

「hsprhspr」

「え、こいつ何言ってんの?」
「わからんぜよ」

「だ、駄目だ。そのきらきら光る汗とほどよい筋肉に脂肪そして先程浴びた水が君達の美味しさを増して見させるこのマジックに私は理性を保てるのだろうか今すぐ舐めまわしてかぶりつきたいいいいいいいい!!!!」

目をぎらっぎらにさせて猛獣のように走り出すが、彼らは悲鳴を上げるのも忘れて彼女よりも足早に逃げ出す。その先は安全地帯、女性禁止の部室だ。



そんなやり取りを見ていた他のレギュラー達は「なんだ二人とも本当は足速いじゃん」「モテるっていうのも大変ですね」「長々と話し込むなどたるんどる!」などなど好き勝手に感想を述べるのだった。





ちゃんちゃん。







「「誰か助けろよ!!!!」」