思い出せないくらいしょうもない話でオサムちゃんと盛り上がった日。
その場のノリで「OK!」なんて一つ返事をしてしまった。
翌週、テニス部の練習試合の三日間だけなんちゃってマネージャーをした。
役にたったかというと、むしろ邪魔だった気がしてならないが、「みょうじほんまおもろいなあ!」とみんなから爆笑された。
だから、怒ってはいないと思っていたんだけど、むしろ気に入られてしまったみたいだ。
本格的にマネージャーをしてほしいと言われたときは本当に驚いた。私が部員なら、こんなマネージャーいらないもの。
「やらない」と断った後も、テニス部のみんなは仲良くしてくれるのだが、どこまでが本気で冗談かわからないような言動も多々あり正直戸惑う。
普段の言動を見ていたら冗談で、私は所謂弄られキャラなんだとは思うんだけど……。
ほぼ毎朝、校門から教室までの間で誰かしらにつかまってしまう。校門をくぐったところで、さっそく前方から近づいてくる赤髪とその他数人に苦笑した。
「なまえー!」
元気よく抱き着いてきた金ちゃん。
いつもちょこまかとひっついてきて可愛い。最近は勢いを加減してくれているおかげで、私でも受け止めることができる。こうやって後輩が懐いてくれるのはとても嬉しいのに、毎回べりっとはがしてくるのが白石。
「金ちゃん、抱きついたらあかん言うたやろ毒手すんで」
「なまえはんは女の子やさかい」
「年頃やし抱きつくのはな」
別に金ちゃん相手なら気にしないのに、二人は白石と同じ考えらしく、金ちゃんを慰めている。いや、諭しているのか?私は金ちゃんなら気にしないよ嬉しいよ、そう言うと喜ぶ金ちゃんに対して渋い顔をする
「なまえ、猫好き言うてたやろ?今度うちの猫触りにこーへん?」
「え!白石飼ってんの?!行きたい!」
「ええよ、ついでに家族に紹介したいしな」
マネージャーしてたことなら別にいいのに、たったの三日だし。気つかいさんだなあ、白石とそんな話をしていると、わってはいってきたのは謙也。
「なまえイグアナも興味なかったか?」
「うん!爬虫類も好きやで!」
「うち来たら大きなイグアナおるで」
「えー!行きたーい!」
遊びに行っても良い?って聞くと白石vs謙也の言い争いがはじまってしまった。
俺が先に誘っただのなんだの。どっちかしか行けないわけじゃないのに。私からすると両方お邪魔したいのだが、口を出すとめんどくさそうなので放っておくことにした。
ようやく下駄箱まで行くと今度はかわいい後輩に遭遇。
「なまえ先輩」
「あ、財前おはよう」
「先輩ら何してんすか」
「さあ、私にもよくわからなくて」
なんで言い合いしてるんやろね、ははと乾いた笑いがでる。
ふうん、としばらく横目に見ていた財前がふいに「なまえ先輩、次の休みあいてますか」と聞いてきたので「あいてんでー」と答える。猫もイグアナも約束まではしていないし、こういうのは先約順だ。
「ほな甘いもん食べに行きません?美味しい店見つけたんすよ」
「え、なになに?!」
「紅茶専門店で紅茶パフェ最高でした」
「私それ食べる!約束やで!」
すぐに決まると財前は嬉しそうに「二人で行きましょね」とほほ笑んだ。
人数多いとゆっくり食べられへんもんねと納得して、うきうき気分で教室へ行くとそこにはめずらしい姿があった。
「千歳やん、おはよう」
「ようやく来たと」
「え?なんかあったん?待っとった?」
「なまえ切ればい、じっとしてくれんね」
私の手をひっぱったかと思うとその大きな体が覆い被さった。そのままぎゅうううううと思いきり抱き締められる。
「…なん、これ」
「充電中」
「なんかあった?」
手いっぱい背中に伸ばしてよしよしと撫でてあげると、へらっとした笑顔を見せてきた。
「ん、なまえに会いたかった」
天然たらし…!!!思わずそう心の中で叫んだ私は間違っていないと思う。そういうことしてると勘違いされて大変なことになるんだぞ。と言ったところでわからないんだろうなと思うと教えてあげる気は消えるのだった。
ぬくいなーと思ってしばらくそのままにしていると「おいみょうじ……ってなにしとんねん!」どこから出したのか不明なハリセンで千歳を叩く一氏。鈍い音がしてすごく痛そうだ。
「ちょっとー!いきなり何してん!」
「それはこっちの台詞やわ!」
叩かれた本人は驚きすぎたのかきょとんとしていた。
「なんで叩かれたと?」
「みょうじに手だしとるからや!」
「いや、千歳に手だしたのは一氏やろ」
「そういう手を出すちゃうわ!」
らちがあかない、意味不明に興奮している一氏を抑えられるのは小春ちゃんしかおらん!
「こーはーるーちゃーん!!!たすけてえ!」
大きな声で呼ぶとクラスが違うのにすぐさま現れてくれた。
「なまえちゃん!どないしたん!」
「なんか一氏が怒っててこわい」
「ごるああああ!ユウジイイイイ!!!わてのなまえちゃんびびらしとんちゃうぞおおお!」
そんな小春ちゃんが一番こわいねんで……それに私は小春ちゃんのなんでもないただの友達やねんで、言い方ちょっと間違えてるで……という本音は言えずに胸の内にしまっといた。
勢いに負けて千歳と二人隅っこで小さくなっていると、口喧嘩が終わったのであろう白石と謙也が来た。ついでに金ちゃんも現れてよくわかってないまま騒ぎとてもカオスな状況になってしまった。
私と千歳はかわらず傍観者にまわり、ぼーっとその様子を眺めているとオサムちゃんがやってきた。
「テニス部が煩いからってオサムちゃん呼ばれたやないか〜い」
私はさらっと出来事を説明するとけらけら笑ってこう言った。
「みょうじは人気者やなあ、でもそんな争ったっていずれ渡邊なまえになるんやから無駄やんなあ」
その場を収めるために言ったんだ、さすがオサムちゃん。それにしても上手に丸めるなあとオサムちゃんが大人に見えた。
「なんそれ、おもろい!」
思わず笑ってしまった私を見てみんなは「はあ、今はこのままでもええか」って呟いていた。
どういう意味かはわからないけどすごく失礼な雰囲気は伝わってくる。でもせっかく静かになったので、私が騒ぐわけにはいかない。
とは言っても、こんな騒がしい毎日が大好きやで!