3.日吉とテスト勉強

来週が中間テストだというのにサッパリ覚えることができない。家に帰ってしまうと勉強なんてしない、自分でもわかっていたのでめずらしく学校に残った。教室はダラダラ話し込んでいるクラスメートでうるさいし、図書室は満席だった。色々考えた結果やってきたのは音楽室。ここなら防音されているし来る人もいないだろうと思い扉を開ける。案の定誰もいなかったので一番後ろの窓側の席に座った。なんでここを選んだかというと私の好きな人、つまり日吉若が授業でこの席に座っているからだ。

さあ、やるぞ!と意気込み教科書を開くものの内容が頭にはいってっこない。なんてことだ、環境が問題じゃなくて私の頭が問題だったのか。どうしたものかと唸っていると扉が開く音がした。現れた人物に驚く。

「……日吉」

「なんだみょうじか」

「どしたの?」

「期末テストにむけて勉強しようと思ってな」

「なんでここで」

ここにいる私が聞くのも変な感じだが疑問を投げかけると私と同じ理由だった。でも邪魔したなと言って出ていこうとするから慌てて引き留めた。

「まってまって!一緒に勉強しよ!」

「一緒に勉強?違うだろ」

「はいすみません間違えました。教えてほしいですお願いします」

本当は下心の方が勝っていたものの、建前である私の魂胆はバレバレだったらしく目を更に細めて鼻で笑われてしまった。まあ日吉の性格上つきあってはくれないだろう。

「いいぞ」

「ですよねー」

「わかってましたみたいな反応やめろ」

「いやだって教えてくれると思わないじゃん」

「じゃあやめとくか?」

「え?」

「教えてやるって言ったんだが」

「うぇ!?!?お、お願いします!!」

予想外の回答に脳内でイメージ変換されてしまっていた。さあさあどうぞどうぞ、と隣の椅子を引くと思いのほか素直に座ってくれた。

「お願いしといてなんだけど部活は?」

「テスト前でない。で、何を教えてほしいんだ?」

「歴史!も〜みんな同じ名前じゃん!しかも何年になにがおきて〜とか……私昨日食べたメニューも思い出せないのに昔過ぎてわかんない!」

「ここであの頃はとか語られたら引くけどな」

意外にも丁寧に教えてくれる日吉に感謝をしながら進めていく。ちょっと進んでは口頭でテストをされ、正解だと先に進み不正解だともう一度戻る、なんてすごろくみたいなやり方だった。

段々と疲れてきてスピードが落ちてくると休憩を入れてくれた。鞄に入れていたお菓子を取り出して一緒に摘まみながら疑問だったことを聞いた。

「ねえ日吉はどれ勉強するつもりだったの?」

「……音楽。楽器なんて今後もするつもりないのに楽譜の読み方とか、楽譜から誰のなんて曲かあてるなんて馬鹿げてる」

「おっふ、恨みがすごい」

「みょうじは音楽、得意か?」

「うん!だって小さいときからバイオリンしてるもん」

「へえ」

「聞いといて興味なしか!休憩終わったら歴史のお礼に教えようか?」

「いいのか?」

「もっちろん!」

お菓子を食べ終え、再開するものの日吉は物覚えが良くてあっという間に終わってしまった。

「本当に音楽勉強しようとしてたの?余裕じゃん」

「教え方が良かった、とでも言っておくか」

「え!私教師むいてるのかな!?」

「調子のるな」

ふ、と笑ってデコピンをされてしまった。日吉でも笑うんだな〜と思ったら嬉しくなったので日吉モチーフのマッシュヘアひよこを描いた。

「見て、ぴよし!」

「は?」

「ヒヨコな日吉、つまりぴよし!かわいいでしょ!保育士も良いかもしれないなあ」

単純な絵は得意だし、そのつもりでの発言だったが彼は少し誤解したようだ。

「それは俺が子どもみたいだと言いたいのか?」

「ちょっとそういうところあるよね」

「ほう、どういうところか教えてもらおうか」

「そうやってムキになるところ!」

「でも、知ってるか?」

そう言って私の頭を撫でた流れで頬に手を添えた。鼻と鼻がひっつきそうな距離、彼の目が私を捉えて離さない。息をするのも忘れそうなくらい緊張が高まったとき、ゆっくり近づいてきたので反射的に目を閉じた。優しく触れた唇がゆっくり遠ざかっていく。

「子どもだったら、こんなことできない」

口元に弧を描く日吉にワンテンポ遅れてようやく我に返った。

「な、なにしてんの!ファーストキスだったんだけど!?!?」

「へえ、俺もだ」

「俺もって……バカじゃないの!!!」

恥ずかしすぎて怒ることで自分を落ち着かせようとするのに、先ほどの感触を思い出してしまうから手の甲で唇を抑えた。

「バカはみょうじだろ」

「なんでよ!」

「俺、どうでもいい奴に勉強教える程お人よしじゃない」

「それは想像つくよ、今回だって意外だなって……あれ?まって、ねえまって」

「待たない」

変な流れに混乱してきた私は違うそんなわけないと自分に言い聞かせるも、日吉はそれを待たずに力強く私の腰を引き寄せ、でも壊れ物を扱うように抱きしめ耳元でつぶやいた。

「好きだ」

私は言葉がつまってしまい、かわりに彼の背中に手をまわした。