大学を卒業してなんとなく就職した仕事の都合で大阪を離れることになった。
それまでも中学のメンバーとは絶対に年一度は会っていた。今回もテニス部だったメンバーでの同窓会に参加したくて、日帰りで遊びに帰ってきた。
「はー、楽しかった!みんな変わらんから安心するわ」
これから新幹線で戻る為、飲みすぎないように気を付けていたものの軽くふわふわした感じが心地よい。そんな私を心配したのか、一人先に会場を後にしようとしたのに白石が新大阪駅まで一緒に行くと申し出てくれた。長年彼に片思いしてきた私は、それに甘えて電車に揺られている。
「みょうじはちょっと標準語まじってきたな」
「え!?ほんま!?あかんそれはショックでかい……」
「お土産なんか買うん?」
「どないしよ、お好み焼きせんべい買おうかな」
「ふうん」
自分から聞いてきたわりに興味なさそうな返事が返ってきたので様子を伺うと目を細めぼーっとしているので、もしかしたら眠いのかもしれないと思った。
「ねむいんちゃう?お見送り、ありがとうね」
「いや、俺も新大阪にしかないお菓子買いたいだけや」
「今ほっこりした気持ちを返せ!まあでもほんまは一人になるのさみしかったから、やっぱりありがとうね」
そうお礼を言うのと同時にアナウンスが流れ「降りよか」と荷物を持ってくれた。
一人がさみしいなんて口にすると恥ずかしくなってしまったので、さっきのは聞こえてないといいなあと思いながら白石の後に続いて降りた。
「何時のに乗るん?」
「三十分後やな、白石また戻るんやろ?」
「せやな、オールする言うてたし」
「いいな〜私も大阪やったら最後まで参加したのに」
大阪を離れたのは自分以外いなくて、誰のせでもないけど仲間外れのように感じてしまう。
「今度は連休に合わせて集まろか」
「うん……戻りたくないな、帰る場所は大阪やのに」
せっかく次は私も最後まで参加できるように提案してくれているのに、それでもなおいじけると白石は私の右手をふわりと握った。
「なあ、十年後もお互い独身なら結婚しよか」
「え、ええ!?あかんて、冗談で言うことやないって」
いきなりの発言に思わず拒否してしまい、もしかしたら冗談でもお願いしますって言っていたら本当にできたかもしれないのに。この一瞬でかわいくない返事をしながら自分の発言に後悔していると、白石はさっきまでの笑みを消して真面目な顔をした。
「そっか……ほな本気やったらええ?」
「え、白石、どないしたん?」
「大人になるにつれ色々と逃げ道作ってまうな……いや、前からみょうじには逃げ腰やったんかも」
飲みすぎて酔っぱらっているのか、そう聞きたかったのにそうはさせてくれなかった。今度は私の両手をしっかりそれでも優しく包み込んだ。
「俺と結婚してください」
「え、あの……」
「こっちで一緒に住もうや、そしたらさみしくないやろ」
俺もずっとさみしかったと言われたが、さっきのはバッチリ聞こえてたのかと恥ずかしくなり少しどもりながら返す。
「嬉しいけど、でも、順番めっちゃ飛ばしてる」
「大丈夫、退職して挨拶して式して籍入れるまでに時間はたっぷりある」
「それでもたった数か月やんな?」
「その間は恋人、順番あってるやろ?」
そういうことじゃないと思うんだけど、とは言わなかった。想像していたような恋愛結婚にはならないけど、それでも好きな人とこれからずっと過ごせると思ったらどうでも良い気もする。
そんなことを考えていると、少し汗ばんだ震えている手に気づく。白石の顔を見上げると捨て犬のような表情をしているので、きっと勇気を振り絞ってくれたんだろうなって感じた。
「その、こちらこそよろしくお願いします」
ようやく返事をするとこぼれんばかりの笑顔になり、スマホを取り出した。
「みんなに報告せな!」
「戻ってからでええやん!」
「いやもう一秒でもはやく報告したい」
白石ってこんなキャラだっけ、そう思いつつも喜ぶ姿が私も嬉しくて見守っていると、電話がかかってきたようだ。通話に切り替え耳に近づけようとしたが私にも聞こえるくらい
『ほんまに!?スピードは俺の特許やのにスピード結婚やな!!!はよ戻ってきて話聞かせろ!!!』
という謙也の大きな声が漏れた。白石は思わずスマホを遠ざけたけど少し遅かったようで眉間に皺を寄せている。
後日、大阪に帰ってきた私は白石と一緒に書いた結婚式の招待状をポストに投函した。
『私たち、結婚しました』
※パンドラの底:アイネ様のネタです。