隣の家には同い年の幼馴染みがいる。
俺もなまえもお互いに家族みたいなもので家の出入りも自由だ。
玄関を開けるとなまえのお母さんが「おかえりー!」と声をかけてくれる。たぶんこの時間はキッチンだ。その証拠にザクザクと何かを切る音と食欲をそそる香りがしてくる。
「おじゃましまーす、おばさん誰か確認せえへんと危ないで」
「おばさんやない!お姉さんて呼びい言うてるやろ!」
いつものやり取りにやれやれと階段を上がる。
すぐ手前の部屋を開けるとなまえが机にむかって何かを書いている。それもブツブツと呪いでもかけているのかと思うくらい何かを呟きながら。
一瞬握っているドアノブを戻して帰ろうかと思ったが、俺が来たのに気がつくと無言で睨んできたのでやめた。
「なにしてるん」
聞いて良いのかわからなかったが気になるので聞いてみる。
「あかんねん」
「なんや」
「なあ、うちかわったと思えへん?」
かわったと聞いてじっと見てみるが、髪は染めてないし化粧もしないし服もいつものだ。特にかわったようには見えない。
でもここでわからないと言うと、何で気がつかないのと怒られるだろう。かと言って適当に答えて外しても、全然見てないんだねと怒られるだろう。
どちらにせよしばかれる……それでも被害が少ない方が良いと最善の返答を考えているとしびれをきらしたようだ。
「もしかして、わからへんの?」
「へ?い、いや……」
「やっぱり誰が見てもわかる!?」
「あー……どうやろ」
「せやんな、おかんにも友達にも言われたしわかるやんな」
とくになにも言わずにいたが、それで納得したようだ。
これといって怒られなかったので少し安心した俺、とは正反対のなまえはふうとため息をついてノートを手にとった。
なにをそんな切なそうに見てるんや。変化とノートの共通点がわからずにいると、次いで鏡を取りだし自分の顔をじっと見つめだした。
も、もしや恋煩い……それはあかん!そう思った俺はまた話を戻した。
「ノートに何を書いてたん?」
一人言言うてたし、もしや告白の練習やないやろな……ドキドキと自分の鼓動が煩い。
「もうなずっと頭から離れへんねん。考えたらあかんって思えば思うほど考えてまうねん」
辛そうに語る姿に、そこまで苦しむ相手を好きになったのかと頭が割れるように痛くなった。
「そんなのなにが良いねん!辛いんやったら忘れ!」
「うちかて忘れたいよ!でも思い出してしまうねん!」
「なまえ……そんなに好きなんか」
「好き……なんかな、執着してるだけなんかな」
うつむく姿が今にも壊れそうで弱々しく見えた。
「俺がスッパリ切れるようにしたる!ノート貸し!そういうのはな、嫌われたら考えんですむねん!携帯も貸して。俺がお前の声で電話して嫌われたる!」
貸せと言いながらノートを奪い取り、どんな告白をするつもりなのかを確認をする。
つもりだった。
「なんや、これ」
「ユウジ携帯あるけど、誰に電話するん?」
「餃子、ポテト、ドーナツ、ピザ、アイス、からあげ、たこ焼き……?」
もう一度「なんやこれ」と問うと、目に涙をため「太ったから痩せたいのに、ずっと食べ物求めちゃって頭までデブやねん!」とベッドへダイブした。
「……は?食べ物?頭がデブ??」
「もう嫌や〜お腹すいたなんか食べたい!!!」
足をジタバタさせる姿はまるで餌が足りないと文句を言う動物のよう、とは口が裂けても言われへんな。
なんやねんややこしいわ!とチョップをくらわせ「俺、この前誕生日やってんけど」と話しかける。
「あ、忘れてた」
「ケーキ食べ損ねてん、今から買いに行こうや」
「え、人の話聞いてた!?」
「部活では家で食べるやろうからってなかったし、帰ったら食べてくると思ったからって結局ケーキ食べれてへんねん」
「ケーキケーキ言わんとって!」
食べたくなるやろ!と枕を投げつけられたが、それを軽く受け止めその辺に置いといた。
「太ったことなんて気にせーへんから」
「ユウジが気にするかどうかは関係ないやん!」
「我慢するより素直に食べた方が体に良いて」
「それでまた太ったらどないするんよ」
じっと上目遣いで睨まれてもただ可愛いだけで笑ってしまう。
「俺が責任もってもらったる」