今年はあったかいとはいえ、年末年始になるとそれなりに冷え込むもので。そんな中の楽しみといえば、こたつに潜り込んでみかんを食べるというありきたりなことだ。ぬくぬくごろごろ。幸せなひと時である。
はずだった。
「なんで私はここにおるんや」
こたつの中とは違うこの空間の寒さを、少しでもマシになるようにと両手で自分を抱え込む。
その場で足踏みしながら問うと幼馴染の財前光に「ええやん、暇やったんやろ」とあっさり返されてしまった。確かに暇ではあったが、はっきり言いきられると否定したくなるものだ。
光と彼の甥っ子の三人で近所の公園まで来た。砂場で遊ぶと一直線に駆け出す姿は、風の子そのものって感じだ。周りには誰もいなくて帰りたい欲求が高まるが、光の義姉さんも正月くらいゆっくりしたいよね、と言い聞かせる。
つまり子守を二人でしているのだが、子守というより子どもは子ども同士で遊んで来いってところか。
「なまえちゃん、なまえちゃん」
「なんやー?」
ニコニコと名前を呼ばれる。
「これね、穴ほるの」
彼が指さしているのは先程まで盛っていた砂の山。そしてもう片手にはすでにスタンバイされているミニカー。
なるほど、この山にトンネルを作って遊びたいんやな、それも作るんはうちなわけか。一瞬にして求めているものを察知し、気が遠くなりかける。
「光〜」
「なんや」
「水汲んできてや」
持ってきた小さなバケツを「ん」とスマホをいじっている光にむける。
「嫌や」
「ほな汲んでくるから掘ってや」
「嫌や」
「おい、任せっきりか」
ちっとも受け取ろうとしないどころか、こちらを見ようとすらしない。
「なまえが頼まれたんやろ」
「ちっ」
そもそも光に呼び出されなければこんなことにならなかった、ということはおいておこう。でも、自分の甥やねんから少しは遊んでやれよと思う。
光のことはいないものだと考え、冷えきった指先を必死に動かしてなんとかトンネルを作った。いびつなトンネルだが、甥っ子はとても喜んびミニカーで一人遊びだした。それが可愛くてにやにやしてしまう。
ふと気がつくと光がいなくなっていた。まさかいよいようちらの事置いてどっかに行ったんちゃうやろな……周りを見渡そうと立ち上がろうとした時、頭にぽんと何かがのる感覚がする。光かと思って見上げたら光のお兄さんだった。
「なまえちゃん、付き合わせてもーてすまんな」
「あれ?もう帰ってきたん?」
「初詣行きたかっただけやからな」
甥っ子はまだ小さいからあの人混みに連れて行く勇気がなかった。数年ぶりに行けたよと喜んでいた。
「義姉さんは?」
「ご飯の用意するために先に帰ったで」
「よーここにおるんわかったね」
「光と連絡とってたからね」
話している横でちょことちょこと話しかけてくる。
「ぱぱー、これ作ったの。トンネル、なまえちゃんと一緒にね、遊んでたの」
その度に「そうなの」「良かったね」と返すものだから、途切れ途切れになりながらも会話を進めた。
「先に連れて帰るから、光と帰っておいでや」
「でもどっか行ってもーてん、帰ったんちゃうかな」
そう言いながらなんとなく後ろを振り向くと不機嫌そうな光がいた。
「あ、おった」
前を向くともうお兄さんはすでに背中を向け歩き出していた。見えてたなら教えてくれても良いのに。もう一度後ろを向くと「ほら」あったかいココア缶を渡される。
「指先冷えたやろ」
昔からこういう気遣いができるところが好きで、毎回呼び出しにこたえてしまう。光はそれを知っていて飴と鞭をうまいこと使っているのかもしれない。スマホ中毒もほどほどにしてほしいと思ってもこれでチャラになってしまうのだ。
そのまま一緒に光の家に帰ると、自分の両親も当たり前の様に揃っていた。
光のご両親に挨拶をして、お互いにちゃっかりお年玉をもらった。新年の挨拶もすみ、おせちとお雑煮を食べながら去年のことについて盛り上がる。
その時、義姉さんに「今日は初詣すごい楽しめてん、なまえちゃんありがとうね」と言われたので「いつでもどうぞー」と答えた。
「それでね、動画と写真が送られてきたんよ、ね?」
お兄さんに話しをふるとすぐに「そうそう、なまえちゃんが砂場で遊んでるところとか笑ってるところのアップとか!俺は子どもの様子を送れって言ったのになまえちゃんばっかり送られてきてやー」
がははと笑っているが……ちょっと待てよ。
「光、それってうちが子どもや言いたいんか?」
「わかっとるやん」
「むっかー!」
いつもの口喧嘩にお兄さんが「でもその動画とかそれを撮ってる光を想像したら、なんや夫婦に思えてきて可愛かったわー」と光の頭と私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
それに反応したのはお互いの両親で「それ良いやん、なまえちゃんならお母さんも嬉しいわー」「こちらこそ光くんみたいなイケメンええのんかしらー」なんて盛り上がりだした。
たったそれだけなのに、今更なのに、少し意識してしまって光の方を向けない私。
でも、光がそっと「俺はずっとそのつもりやねんけどな」なんて言うからつい「よろしくお願いします」って答えてしまった。
更にそれに答えるように机の下でそっと手を握られたので赤くなる顔を隠せない。
「なんや、なまえ顔赤いで?」
「部屋、暑いからのぼせてきた」
「あらほんま?ちょっと下げるわな」
隣でくっくっと笑う光に「あんたのせいや」と意味を込めて握る手の力を入れるたが同じだけの力で返される。
もしかして、光って結構私のこと、好きなんちゃうやろか。