初めて出会ったキッカケは、恥ずかしいことにナンパされたことだ。待ち合わせをしていると説明しているのに、聞く耳持たずで強引に連れて行かれそうになった時、助けてくれたのが橘さんだった。ちなみに杏ちゃんが遅刻したおかげで出会えたので、そのことは許すどころか遅刻してくれてありがとうと感謝した。のちに杏ちゃんのお兄さんだということを知った。
「はーーー橘さんかっこいいよおおおおおお」
「え、私?たまに言われるけど照れちゃうなあ」
「杏ちゃんは可愛いの!」
「はいはい、お兄ちゃんのことでしょ」
「本当にカッコいい!盗撮しちゃダメよね……橘さんを待ち受けにしたいなあ」
「じゃあ写真撮らせてって言ったら良いじゃない」
「え!そんなこと!」
「言えない?」
「良いのかな!?!?」
「知らない、聞いてみたら?」
「ひえええ杏ちゃん安定のクール」
教室からテニス部のコートを眺めていると杏ちゃんが声をかけてきた。おかまいなしで本音をもらしていると、本人に聞いてみろと言われてしまった。言い方はクールなんだけどごもっともだし、何より引かずにこうして話を聞いてくれるので大好きだ。
「杏ちゃんも好きだから橘さんと結婚して杏ちゃんと姉妹になりたい」
「えーそれ良いじゃん!頑張りなよ!」
「いいの!?さっきから妹としてどうなの!?」
「反対した方が良い?お兄ちゃんになまえだけはやめとくように伝える?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「とりあえず今のままだと一生顔も名前も覚えてもらえないね」
「ぐっさー!本当杏ちゃんってば正論魔」
でもそれもそうかと思い、距離を縮めることにした。思い立ったが吉日!とは言っても準備もなにもないので翌日から行動開始すると決めた。
「橘さん!!!」
「おう、どうした」
「私、先週助けていただいたみょうじなまえです!」
「そうか」
「お礼に参りました!」
ズイッと差し出したのはスカイブルーのシンプルなスポーツタオル。をラッピングして紙袋に入れた物。橘さんは少し戸惑いがちに受け取ってくれた。嬉しくてお礼を言ってその場を立ち去ると、後ろから大声で笑いながら杏ちゃんがやってきた。
「おはよう杏ちゃん!涙でてるよ!」
「だって、もうおかしすぎ!なにその鶴の恩返しみたいな名乗り方!」
「えー!?そんなんだった!?ていうか見られてたなんて恥ずかしい!」
ひいひい言いながら笑う杏ちゃんに失敗だったかなと落ち込んでいると、でも確実に覚えてもらえたよと言ってもらえたのでよしとする。
「橘さん!!」
「みょうじさんだな」
「!!私の!名を!覚えてくださったのですね!」
「タオルありがとうな、大事に使ってる」
「ひええええこちらこそ……!」
「今日はどうしたんだ?」
「あ!あの、見かけたので声かけただけで、すみません用事はないんです……」
条件反射というか〜と慌てて説明をするが墓穴をほっているような気がして焦っていると、目じりを下げて笑い出した。その笑い方が杏ちゃんと似てるなあとマジマジ見てしまう。橘さんは視線に気づいたのか、口元を手で隠してしまった。
「すまん、つい」
「いえ!あの、杏ちゃんと似てるなあと思いました」
「ああ、杏の友達か?」
「はい!いつも仲良くしてもらってます!」
「そっか、これからもよろしくな」
「たっ!橘さんともよろしくしたいです!」
「……俺、か?」
「はいい!」
目をパチクリさせたあと「俺でよければ」と手を差し出してくれたので、震える手を頑張って持ち上げ握手をした。一生洗わない。
次の日になっても握手した感覚が残っていた。思わずニヤつく顔をパチパチ叩きながら教室へ入ると、杏ちゃんが「そういえば」と前置きをして話かけてきた。
「昨日お兄ちゃんがなまえのこと聞いてきたよ」
「なんて!?」
「俺に助けられたって言ってたけど〜って」
「まさかの記憶なし」
「説明したら覚えてた、私服で髪型も違ったから自信なかったみたい」
「なるほど!」
そんなこんなで見かける度に声をかけたりかけてもらえたりしているうちに仲良くなった。気がする。
「たっちばっなさーん!」
「今日も元気そうだな」
「はい!朝から橘さんに会えたんで!」
「もう昼だけどな」
「それより橘さん!お願いがございます!」
「叶えれるかわからんが……なんだ?」
「橘さんの!写真を!撮らせてください!」
「え……」
「そして待ち受けにさせてください!」
独り占めにしたいのでSNSに載せたり誰かに転送したりしないからお願いします!と頭を下げる。しかしいくら待っても何も言ってこない。もしかして私が頭を下げている隙にいなくなってないよね!?と慌てて顔を上げるとちゃんといた。顔を真っ赤にさせて。手で覆っているけど片手じゃ隠し切れないよそのイケなメンは!!それにしても絶対に熱あるよねそれ!!!
「橘さん、体調悪いなら絶好調の時で良いので、とりあえず考えといてください!」
心配だけど写真は欲しい。諦めきれず次回に持ち越しを提案してみた。それに対してちょっと考えた素振りを見せ口を開いた。
「あー、その、なんだ」
「はい!」
「写真くらい、良い」
「ほんとですか!?約束ですよ!」
小指をズイっとだすと「ただし」と続ける。小指を差し出したまま次の言葉を待つが中々言おうとしないので、橘さんの小指を勝手に絡めようか考えているとコホンと一つ咳払いをした。
「条件付きだ」
「えー!?」
「俺にもみょうじさんの写真を撮らせてくれ」
「わ、私!?良いですけど魔除けくらいにしかならなさそうです」
「なんだ、充分心強いじゃないか」
「そこはちょっと否定してほしかったです」
それでも自分の写真と交換ならお安い御用!ということでさっそく撮られ、そして撮らせてもらった。すぐさま待ち受けに設定し橘さんにも見せた。本当にありがとうございますとお礼を言うとこちらこそと言われ、なんのことかと思ったら橘さんも待ち受け画面を見せてきた。