◇誕生日を祝われる話

毎年誕生日には知らない子から手紙やらプレゼントやら貰う。一体どこからそんな情報を得てくるんだと常々不思議だった。
嬉しいわけでもないが不快でもなく、本当に「どーも」くらいの気持ちでしかない。


そんな誕生日が今日である。



「おはー!」

朝から元気に声をかけてきたのは同じクラスのみょうじ。

「遅い」

「え!ピッタリやん!」

「五分前行動当たり前、てか誘ったん自分やん」

そう、今日という日に遊ぼうと誘ってきたのはみょうじだ。
いきなり「次の20日祝日やん、かき氷食べに行かへん?」ってなんの脈絡もない誘い。

みょうじとはクラスでもよく話をする方。というかこいつが誰とでも仲良くするタイプ。
俺の素っ気ない態度も気にならないのか普通に接してくる。初めは空気読めよ鬱陶しい、なんて思っていたのに今じゃ一緒にいる事が心地よい。
人を見ていないようでちゃんと見ていて、相手がどうしてほしいかの察しが良い。悪い言い方をすれば八方美人、その世渡り上手な性格は少し羨ましい。

まあそんなわけでみょうじなまえからたまたま誕生日にお誘いをうけてここにやってきたわけだが。早めに来た俺が浮かれてるみたいやん。

「そうプリプリせずに!」

「行く所決まってん?」

「うん!前に先輩が連れてきてくれて美味しかってやんか、財前も好きやと思うで!」

は?ってなった。
声にでなかったけど、は?ってなった。
俺が好きやと思って誘ってくれたん?なにそのフェイント、いや可愛いとか思ってへん。

俺が固まっているのに気がつかず「前こっちから行ってん」はよはよーと急かしてくる。

それに黙ってついていくが着いた先は行き止まり。

「あれっ?あれっ!?」

道中「しばらく来ん間に色々変わってるな〜」なんて言うてる辺りから不安ではあったが……どうやら店が見あたらないらしい。

案の定な展開に冷静な俺と違っておろおろしているみょうじ。
その後ろにマップがあることに気がついて、見ればと言ってやれば探し出すが「やっぱりない……」とショボくれる。

「おい現代っ子、何のための携帯や」

「あ!せやんな!」

慌てて検索をはじめたかと思えば「うおおおおおお」変な声を出して発狂しだした。

「なんやねん」

「大阪からなくなっとる!」

「期間限定やったんちゃん」

「え〜ちゃんとした店やったんに?」

「知らん」

俺からしたら別にどうでも良いのだが、悪いことをしたと思ったようで何度も「ごめんなごめんな」と謝ってきた。

「別に、それよりどっか入ろうや」

食べたいものはあるか聞けば「行きたい店があるから案内する」と言い、さっきとは変わって見るからにわくわくしている。いつ行っても満員で入れた事がないそうで、今日は入れるかなあとにこにこしていた。

ついた先は女の人が好きそうなカフェ。

「ここフレンチトーストが有名やねん」
「ふうん」

いつもなら人が多くて入れないと嘆いていたが、今日は空いていて待つこともなく席につく。

「うちパンケーキにする!」

「そこはフレンチトーストちゃうん」

「ナイスツッコミ」

「ほな俺フレンチトーストにするわ」

「なんや財前って洋食イメージないな」

「なんでここに連れてきた」

「ナイスツッコミ」

「それ言うとけば良い思ってんやろ、適当か」

オーダー取ってからの待ち時間も食べてる時も色気のある雰囲気になんてならなくて、美味しいから一口あげるとか、そっちもちょうだいとか、親子かって突っ込みたくなった。

その後は適当にぶらつきながら買い物もして気が付けば夕飯時の時間。
ぼちぼち解散か、と声をかける。

「19時過ぎても明るいな」

「どっかの国では23時でも明るいらしいで!」

「へえ」

「うわ、興味なさげ!」

「帰るか」

特に誕生日らしいこともなく解散、何をそんな期待してたのか。誕生日に誘われたのは偶然、わかっていたのに。
ここで今日ほんまは誕生日やねんって言うたら何かあるやろか、それとも催促してるみたいで女々しいと思われるやろうか。

「財前は何で帰るん?」

気がつくともう電車の乗り換え場所の中心まで来ていた。

「地下鉄」

「ほなうちとは逆やね、今日はありがとう」

「別に、今度はちゃんと調べとけよ」

「うん!また誘うね!」

別にそういう意味ちゃうねんけど、言いかけてやめた。
嬉しそうに笑うみょうじを見ると違うとは言えなく、またがあるのかと少し喜んだ自分もいたからだ。

「あ、せやったこれ」

鞄から慌てて取りだし手渡された物は両手に収まるサイズの袋。

「なに?」

「へへ、帰ったら見てね」

「え?」

それだけ言うとダッシュで駅のホームへと行ってしまう。呆気に取られてその様子を見ていたら改札入る前にこちらへ振り向いた。
目が合ったと思えば両手をふってきて、そのまま口にあて「財前ー!お誕生日おめでとうー!」と叫んだ。

あの阿呆!大きな声で名前呼びよってからに!
みょうじの後ろ姿が見えなくなってもその場から動けなくて、若干にやけている自分がどうしようもなくマヌケに感じる。

電車に乗り込むと手の中にある袋を開けた。
なんというか個性的なイヤホンと『今日はありがとう!おめでとう!』一言メッセージ。

ありがとうが先ってなんやねん、明日学校でなんて文句を言ってやろうか。
なんやこのむずかゆい気持ち。


来年の誕生日には「好き」やって言わしたる。


(ああ、俺みょうじが好きなんか)