◇ブログで再会する話

「ねえねえ、そこの君!私と一緒に善哉しないかい?」


彼はこの時の事を一生忘れることはないと言う。
私も彼の毒舌っぷりを忘れることはないだろう。




「いやー、たすかった!」

席につきオーダーをすませ一息つく。

「大袈裟」

「いやいや、やってこれ一枚で二人まで割引ききくんやで?」

「はあ」

「せやのに一人で食べるとかもったいないやん!」

「意味わからん」

「まあ、とにかくありがとうってことで」

彼は初対面の私に気を使うでもなく淡々と会話をする。そして善哉が運ばれるまでダルそうに携帯をさわっていた。

「携帯ばかり触りよってからに……現代っ子やなあ」

「自分はお婆さんみたいな事言いよるな」

「誰がやねん!ぴちぴちや!」

「その単語も古い、なんねんぴちぴちって」

「よくもまあ初対面でずけずけ物言うな」

「よくもまあ初対面に善財しようって誘ったな」

あかん……奴には口で勝てない!!!
くっと顔をしかめる私を見てニヤリと口元を上げる。む、むかつく!!!

なにか言ってやろうとした時に「お待たせしました〜」善哉が運ばれてきた。彼はなぜかパシャリと写真を一枚撮って食べだす。

「自分女の子みたいやな」
そう言いつつ自分も撮るのだけれども。

「なにが」

「食べ物パシャるあたりが」

「別にええやろ」

「あかん言うてへんやん」

「さっさと食べれや」

「おん」

なんかふに落ちないがせっかくのおやつ、美味しく頂こうではないか。いただきます、と小さく呟き両手を合わせる。

ここの善哉は絶品だとテレビでやっていたので気になっていた。そンな時手に入れた割り引きのチラシ。1080円のセットが780円で食べられる。

安く食べられるとよけいに美味しく感じるのはなぜだろう。いや実際に美味しいんだ。くどすぎない甘さのあんこにもちっと感が絶妙な白玉。
お好みでと置かれているきな粉もまた美味しくて更に抹茶が飲めるとか最高だ。

「なあなあ、美味しいなあ!」
正直こんなに美味しいなんて思ってなかったわあ!

喜ぶ私に彼も「おん、この店初めて来たわ」少し顔を綻ばせる。

「和菓子好きな子周りにおらんねんー」

「あんこ食べられへんとか理解できひん」

「やんなー!」

それから赤か白か、つぶかこしか、どこの何が美味しいかなどの話題で盛り上がって、店を出る頃にはすっかり仲良くなっていた。
と思っていたが相手は仲良くなったつもりはなかったと後に聞いた。

別れる時に「うち食べ歩きのブログしてんねやんか、良かったら覗きに来てなー」とアドレスを殴り書きして渡す。

「気ぃ向いたら見たる」

それを受けとると今度こそバイバイだ。

お互いに名前すら聞かなくて連絡先も知らず、まあ会う時は会うだろうとあっさり別れた。受け身とは言え連絡とろうと思えばブログでとれるし。

今日の食べ歩き記事の追記にその日の出来事を書く。これが私のブログの書き方だ。また日課であるブログ巡りをする。

他にもここの善哉を食べた人の感想が知りたくて、適当に検索でひっかかった記事を読みあさった。

ある記事にはことこまかく感想が書かれ写真ものっていた。
うちが食べたんと同じやつや!
テンションがあがりコメントはなんて残そうか考えつつ読みすすめる。

そのうち画面をスクロールする手の動きがゆっくりになり画面にみいる。

「これって……」

見覚えのある内容に驚きを隠せない。

「やから写真撮ってたんか」

ほなうちがアドレス渡した時に自分もやってるって教えてくれたら良いのに!
とりあえず『次はどこ行こうか』だけコメントしておいた。

これをキッカケにお互いブログにコメントする回数が増え、いつの間にか一緒に食べ歩きする仲になるとは思いもしなかった。



「なあ、次はここ行かへん?」

花見しながらお団子食べられるらしいで!付箋を貼っていた雑誌の一部を広げて見せると頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。

「めっちゃ良いやん、よー見つけたな」

「ちょお!せっかくセットしてきたんに」

「もっとオシャレしてから言え」
はっと鼻で笑われる。

「オシャレしたいと思わせてよね」
別に光と会うのにオシャレしたいと思えへんもーん。

「生意気やな覚えとれよ」

「やれるもんならな!」

「今までが恥ずかしいくらいに惚れさせたるわ」

「上等や!ま、惚れへんけどな!」

「いや、それ俺がな!」

自分や、いや自分やと言い合いつつも今日も和菓子日和。