付き合いはじめて半年くらいたつけど、まだ一週間もたっていないような感覚だ。
というのもクラスは同じでも休み時間はお互い友人と過ごすし、不二君は部活があるから一緒に帰ることができない。休みの日はデートに誘われるけど毎回遊べるわけではない。部活があるということを前提で、私も予定入れたりしているのでタイミングが合わないこともある。
つまり何が言いたいって、一緒に過ごした時間が少なすぎて半年も付き合ったという実感がわかないのだ。
そんな中ほぼ一ヵ月ぶりに一緒に過ごせるということで、私の希望で不二君の部屋にお邪魔した。
はずなんだ。
「不二君……?」
「なに?」
「えっと、寝ちゃってごめんね」
「いいよ、可愛い寝顔たくさん見れたし撮れたし」
怒っている理由が夕方までたっぷり寝てしまったこと以外に思いつかないのに、そうじゃないと言う。考えても理由がわからなくて、ついに気迫負けした私は率直に尋ねることにした。
「ねえ、なに怒ってるの?」
「……わからないの?」
「うん、教えてほしいな」
ずっと笑顔の割には目が笑っていない。これは時間がかかりそうだななんて心の中でためいきをつく。
「ねえ、なんか言うことない?答えによってはお仕置きだよ」
「え?」
不二君のいうお仕置きって、本気でなにかされそうで怖い。
なにか言うこと……一緒に借りて見ようって話してた映画が放送されてたから見ちゃったこと?でもバレるはずがない。じゃあ似合うねって言ってくれた洋服にシミつけて着れなくなったこと?けどなんでも似合うって言ってくれるしな。心当たりが全くなくて唸っていると「ヒント」という声が聞こえてきた。そしてそのまま続けて言った言葉に余計混乱した。
「上着」
「それがヒント?」
無言で頷く姿に今日はどんな上着を着てきたかなと探すが見当たらない。確かに着てきたはずなのに、どこかに忘れてきたのだろうか。もしや不二君はそれを拾ってくれたのに、私が気付いていないことに怒っているのだろうか。確かに何度か不用心だと言われたことがある。
「私が上着どこかに忘れたこと?」
「忘れてきたの?」
「着て来たと思ったけどここにないもんね」
「今日、ここに来る前に誰と会ってたの?」
「家からまっすぐ来たよ、脱いだ記憶もないんだけどなあ」
「なまえの家、柔軟剤変えた?」
「ううん、まとめ買いしてたから変わってないと思うよ」
なんだか徐々に話がずれているような気がするけど、ここでそれを言ってしまうと余計に機嫌悪くなるんだろうな、と思いひたすら質問に答えていく。
「でも、香水のにおいしたんだけど、男物の」
「……ああ!!!」
なんのことだ、と考えてすぐに思い当たることがあった。
「あれね、芳香剤だよ」
「あれが?」
「うん、友達に置くタイプのもらったの。私もはじめ男の人の香水かと思ったよ」
そうだそうだ、苦手な香りだけど捨てるのはもったいないからとりあえず使ってるんだった。もう使って一ヵ月以上たつから忘れてたけど、絶対にそれだ。
「本当に?」
「うん!今度うちに来てかいでみる?」
「なんで服にまでついてるの?」
「クローゼットに置いてるからだと思う」
「ふうん……」
「私、お仕置きされちゃう?」
まだ何が原因で怒っているのかがわからないが、せめてお仕置きだけは回避したい。そう切に願って恐る恐る聞いた。
「お仕置きはある」
その言葉に冷や汗が出たが続いた言葉にほっとした。
「なんてね、嘘じゃないなら話は別」
「よくわからないけど良かった」
「え、わかんないの?」
とても驚いた顔をされたので墓穴を掘ったかもしれないと慌てるが、恥ずかしそうに理由を説明してくれた。
「いつもと違う香りがしたから、ごめん、浮気してるのかと思っちゃった」
「え、えええええ!?!?ひどい!そんなことするわけないじゃん!」
「うん、ごめんね」
「も〜でも不安にさせた私もごめんね」
「なまえ……」
「でも、ショックだったので私がお仕置きしちゃう!目、瞑って?」
デコピンのポーズをとりそう要求すると一瞬嫌そうな顔をしたもののギュッと目を閉じた。そろりと近づき、唇が触れるか触れないかのをキスをした。ビクッと動いた不二君に我に返って恥ずかしくなったので立て続けてにデコピンをしておいた。
「ねえ、今のって……」
「しらなーい!それより私の上着どこ?」
「ああ、洗濯しておきました」
ニッコリ笑った不二君はやっぱり少し怖かったけど、「これで同じ香りになるね」と言われたので、まあそれもありかななんて流された私も大概だ。
冬:「嘘じゃないなら話は別だ」「洗濯しておきました」
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