お花見をしよう、そう言い出したのは誰だったか忘れたがトントン拍子で話が進んだ。跡部が場所を貸し切ろうと言ったが、盛り上がりに欠けるとこれまた誰かが言った。場所取り、飲み物、食べ物、レジャーグッズ等の担当を決めようということでジャンケン大会が始まる。みんなの癖を知っているマネージャーとしては負けられない。
「なのになんで一番に負けたのかな私」
「文句言うなよ、場所取りに二人もいるだけマシだろ」
「宍戸は次に負けたもんね」
「うるせえ」
朝早めに待ち合わせたのにもうすでに桜の下はブルーシートでいっぱいだ。どこか空いている場所はないかと二人で歩いているところだ。
「ねえ、あそこは?」
私の指さす先を見るとすぐに走り出した。
「え、ちょっとー!」
慌てて走り追いついた時にはすでにシートを広げるところだった。
「いきなり走らないでよ〜」
「向こうからも走ってくる奴いたからつい」
呼吸を整えていると後ろからチッと舌打ちが聞こえ振り返ると、すごい形相で睨まれた。すぐに目線を外し宍戸の隣へ移動する。反対側から走ってきたというのはこのおじさんで間違いないだろう。
「私たちの仕事は終わりだね」
「みんなが来るまで暇だな」
「ふっふっふ……じゃーん!」
「なにこれ」
「なにって寝袋だよ、お気に入りの方貸してあげる」
小さく畳まれた寝袋を一つ宍戸に渡す。もう一つは自分用。宍戸にも用意してあげるなんてさすが私!と自分で褒めてみる。なんでって言いながら広げている宍戸もきっと眠かったんだろう。隣でいそいそと広げると、いきなり大きな声を出した。
「は!?え、やべえじゃん」
「なになに破れてた?」
「いや、なんだよこれツタンカーメンって……」
「そうなの!良いでしょー!私はえびふらいだよ!」
こっちは歩けちゃうんだよって着て説明するとお腹を抱えて笑い出した。数枚写真を撮って満足したのかツタンカーメンになって横になった。私はシートがめくれないように反対の端であおむけになる。
「普通の寝袋じゃつまらないけど、これなら楽しく寝れるでしょ」
「まあ場所取りするのに寝袋なんて持って来ないけどな、お前は頭のいい馬鹿だ」
「なにそれ褒めてるの馬鹿にしてるの?」
返事が中々ないと思い横を見ると気持ちよさそうに寝ていた。秒で寝るってよっぽど疲れていたのかもしれない。やっぱり持ってきて正解だったから私は馬鹿じゃない。後で文句を言おうと決め目を瞑った。
もう少しで眠りにつきそうな心地よいまどろみに入りかけたその時、異変に気が付いた。なんだか足元が痒い。あまりない腹筋をありったけ使ってV字バランスを取り足元をみると小さな黒い物がもぞもぞと動いているのが見えた。
「うわあああ!!!宍戸おおおお!!!!」
助けてほしくて叫ぶとすぐに気が付いてくれた。
「ああもう、こっちおいで」
「うおおおおおお!!!!!!おおお!?」
なんか変だなと思ったのは一瞬で、宍戸の傍に駆け寄り足になんかいると泣きつく。パニックになっている私とは違い「ただの蟻じゃん」と冷静に払ってくれた。蟻じゃんって言われても普通にこわいし気持ち悪いのに。もういないと言われてもまだいる気がして悶えていると、さっきひっかかった違和感の正体に気が付いた。
「うおおおおお……こっちおいでって言った?」
「掘り返すなよ、間違えただけだ」
「え?誰と間違えたの?彼女?」
「犬」
まさかの犬発言にポカンとしているとスマホの待ち受け画面を見せてきた。そこにはかわいらしい犬が笑顔全開でうつっていた。
「俺の飼ってる犬」
「そうか、犬には優しいタイプなのね」
「そんなことねーよ」
「そうかな」
「俺、みょうじには特別優しいぜ?」
そう言いながらまた寝袋にもぐった。私ももう一度横になりたかったけど、宍戸の言葉を意味深に捉えてしまって寝れそうにないから座ってみんなが来るのを待つことにした。
春:「お前は頭のいい馬鹿だ」「こっちおいで」
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