「ちーとーせ!」
「また来たと?授業は?」
「え〜千歳に言われたないなあ」
そう言って隣に座る。千歳は苦笑してそれ以上なにも言わなかった。
自由に振る舞う千歳に憧れて、一度勇気を出してサボったことがある。それをキッカケにこうして裏庭で過ごすことが増えた。はじめの方は恐る恐る過ごしていた私も今や堂々としたものだ。そんな私を千歳は心配しているみたいだが、自分の心配をした方が良いと思う。私は留年しないようにサボれる日を計算しているけど、千歳はなにも考えていないだろう。
「ねえ、千歳」
「なに?」
「膝枕して!」
「してくるるんじゃなくて俺がすっと?」
うんと頷くと、良いけど逆の方がもっと良かったとぶつぶつ言っている。それでも体制をかえ、ズボンの汚れを気持ち落としてくれた。膝をポンと叩き促されたので遠慮なく横になり頭を乗せる。そのままよしよしと頭を撫でられた。この光景は何度も見てきたのですぐにわかる、今私は猫と同じ扱いを受けている。
「にゃあ」
ふざけて似ていない鳴き真似をする。少しばかり猫扱いするなんてという嫌味も込めたつもりだったが、千歳は小さく笑い悪ノリをしだした。
「人懐っこかね」
「おうちはどこと」
「お名前は」
いつも野良猫にかける言葉と同じそれに、私もにゃーと返した。撫でる手は止まらない。段々と心地よくなりこのまま寝てしまおうかと目を瞑る。千歳の声がぼんやりしか聞こえなくなってきた。
「むぞらしかけん飼い猫ね?」
「にゃ」
「野良なら俺んもんになりなっせ」
「……え?」
初めて聞く言葉に睡魔は一瞬で飛んだ。私にむけられたような錯覚をうけ千歳を見上げる。挑発するようにニヤリとした笑みを浮かべていた。言葉に詰まるとその顔はいつもの優しいものに変わる。
「冗談、本気にせんで」
なんだ冗談か、一瞬でも本気で受け取ったのが恥ずかしくて顔を背向けた。それがなんだか悔しい。
「千歳のもんになれるって期待したわ」
動揺させたくて口にした言葉。予想に反し恥ずかしくなったのは自分だけで、千歳は楽しそうに笑っている。
「もっかい」
「嫌や」
「なまえもっかい言うて、ちゃんと目ば見て」
あたふたしているのは間違いなく私だ。でも今を逃したら言えない気がしたから、向き合うように座りなおし目を見つめる。一、二、三……バレないように小さく深呼吸。
「千歳のことが好きやで」
「うん、知っとるばい」
余裕綽々な態度が気に食わなくて拳を振り上げると、そのまま手を引っ張られて千歳の胸に収まった。
冬:「ちゃんと目を見て」「冗談、本気にしないでよ」
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