◇千歳冬企画

「ちーとーせ!」

「また来たと?授業は?」

「え〜千歳に言われたないなあ」

そう言って隣に座る。千歳は苦笑してそれ以上なにも言わなかった。
自由に振る舞う千歳に憧れて、一度勇気を出してサボったことがある。それをキッカケにこうして裏庭で過ごすことが増えた。はじめの方は恐る恐る過ごしていた私も今や堂々としたものだ。そんな私を千歳は心配しているみたいだが、自分の心配をした方が良いと思う。私は留年しないようにサボれる日を計算しているけど、千歳はなにも考えていないだろう。

「ねえ、千歳」

「なに?」

「膝枕して!」

「してくるるんじゃなくて俺がすっと?」

うんと頷くと、良いけど逆の方がもっと良かったとぶつぶつ言っている。それでも体制をかえ、ズボンの汚れを気持ち落としてくれた。膝をポンと叩き促されたので遠慮なく横になり頭を乗せる。そのままよしよしと頭を撫でられた。この光景は何度も見てきたのですぐにわかる、今私は猫と同じ扱いを受けている。

「にゃあ」

ふざけて似ていない鳴き真似をする。少しばかり猫扱いするなんてという嫌味も込めたつもりだったが、千歳は小さく笑い悪ノリをしだした。

「人懐っこかね」
「おうちはどこと」
「お名前は」

いつも野良猫にかける言葉と同じそれに、私もにゃーと返した。撫でる手は止まらない。段々と心地よくなりこのまま寝てしまおうかと目を瞑る。千歳の声がぼんやりしか聞こえなくなってきた。

「むぞらしかけん飼い猫ね?」

「にゃ」

「野良なら俺んもんになりなっせ」

「……え?」

初めて聞く言葉に睡魔は一瞬で飛んだ。私にむけられたような錯覚をうけ千歳を見上げる。挑発するようにニヤリとした笑みを浮かべていた。言葉に詰まるとその顔はいつもの優しいものに変わる。

「冗談、本気にせんで」

なんだ冗談か、一瞬でも本気で受け取ったのが恥ずかしくて顔を背向けた。それがなんだか悔しい。

「千歳のもんになれるって期待したわ」

動揺させたくて口にした言葉。予想に反し恥ずかしくなったのは自分だけで、千歳は楽しそうに笑っている。

「もっかい」

「嫌や」

「なまえもっかい言うて、ちゃんと目ば見て」

あたふたしているのは間違いなく私だ。でも今を逃したら言えない気がしたから、向き合うように座りなおし目を見つめる。一、二、三……バレないように小さく深呼吸。

「千歳のことが好きやで」

「うん、知っとるばい」

余裕綽々な態度が気に食わなくて拳を振り上げると、そのまま手を引っ張られて千歳の胸に収まった。



冬:「ちゃんと目を見て」「冗談、本気にしないでよ」

企画もの