◇新年2019企画

「みょうじ、この資料教室に運んどいて」

「わかりました……」

私、日直じゃないです。なんて言えたら良いのにいつもこうだ。親からも周りからも『良い子だね』って言われるけど、yesしか言えないだけ。そんな自分が嫌いではないけど、自分の気持ちをハッキリ言える人は憧れる。

断れない自分が悪い、最近運動不足だったしちょうど良い。そう言い聞かせて階段をのぼると聞き覚えのある声がした。

「みょうじさんじゃん、ヤッホー」

「こんにちは」

「ねえ、みょうじさんって幸村君と同じクラスだよね」

「そうだね」

そこにいたのはいつも同じ四人でグループを作っている、私から見たらギャルの人達だった。二年の時にクラスが同じになったのをキッカケにたまに声をかけられる。たぶん、私は否定的な発言をしないから友好的に接してくれるんだと思う。良い人なんだけど、本当はノリが苦手だ。

「今付き合うなら誰かって話してたの、私は仁王なんだ」
「アタシは断トツ真田!」
「うちは幸村なんだよ!良いなー同クラ」
「ねね、聞いて、あーしは丸井が良い」

聞いてもないのに答えてくる彼女達。誰かに聞かれやしないかハラハラしながらそうなんだと返すしかできない。みんなテニス部とかウケる、となにがおかしいかわからないが楽しそうに笑っているので、アハハと愛想笑い。みんなはそんな私に気が付かない。

「みょうじさんは誰が好き?」

私も気になる人はやはりテニス部の人だ。でも密かに想っていたいこの気持ちを彼女達に言ってしまいたくない。だからといって適当に言うのは失礼な気がする。そもそもこんな話題が失礼なんだろうけど、女の子はもしもや恋愛で盛り上がるのが好きなものだ。

答えられずにいると中心の子がはやくと急かした。

その話題に巻き込まれたくなくて苦笑するしかない。資料を持つ手もプルプルしてきた。これを理由にこの場を離れようとも思ったが、期待の眼差しで見られると言い出せない。どうしようか、脳内会議を始めようとしたところ救いの手が現れた。

「やあ、なんの話をしているんだい」

「ただの女子トークだっつーの」

「俺の名前、聞こえたんだけどな」

「気のせいっしょ」

現れた救世主、幸村君とはたまに屋上で会うことがある。前に一度良い天気だからと屋上に出たら綺麗な花がたくさん咲いていた。それを眺めていて彼から声をかけられたのがキッカケで仲良くなった。それからたまにポツポツと当たり障りない会話をすることがあるしたまにラインだってする。割と仲の良い方だとは思うけどこの状況は大変気まずい。

「みょうじさん教えて?」

「え、私?」

質問の相手を私に変えてきたので慌てて彼女たちを見ると、言うなよと目で訴えられた。そんなの今のやり取りを見ていたらわかる。そうじゃない、今の幸村君はちょっと怒っている雰囲気をしている。だからよけいに助けてほしいんだと負け時と目で訴えてみたが通じてなさそうだ。

「みょうじさんなら教えてくれるよね?」

「えっとね、その〜……」

言えません、でもそれすら言えません。私が話してしまうと思ったのか幸村君の迫力に負けたのか彼女たちは走り去ってしまった。私を囮にするなんてと思ったけどゴメンというポーズをとっていたので許してしまう私は甘いのかもしれない。

「なんてね。本当は全部聞こえてた」

「ご、ごめんなさい……」

「俺もごめんね。それに気が付かなかったよ」

それ、と指さした資料を貸してと持ってくれた。軽々持ち上げる姿がやっぱり男の子なんだなと思うとドキドキする。

「わ、自分で持つよ」

「どうせ教室に運ぶんでしょ?」

そう言ってくれた。もう怒ってないんだとホッとしていつものように会話をする。

「ありがとう。本当はちょっと限界だったの」

「うん、プルプル震えて可愛かったよ」

「かっかわ!?」

「小鹿みたいだった」

「鹿……それは喜ぶところなのかな?」

さあ、そう意地悪に笑う幸村君にじゃあ喜んでおくと答える。会話が途切れてしまい他に何か話すことはないかと頭をフル回転させるが、学校に来て真っすぐ帰るを繰り返している私にはおもしろい話なんて思いつかなかった。

「みょうじさん、さっきの」

「うん?」

「なんで答えなかったの?」

「あれは私の独断で言うのはいかがなものかと思って……」

「違う、それじゃない」

なんのことかわからなくて返答に困っていると、幸村君はちょっと不機嫌そうに続けた。

「本当は聞きたくて待ってたんだけど、痺れ切らしちゃった」

「どういうこと?」

「誰が好きなの?」

「そ、れは……」

まさかそんな初めから聞いていたなんて思っていなかった。しかもそれをあろうことか幸村君に聞かれるだなんて。本人を目の前に言えるわけがなくて上手い切り替えし方を考えていると、意地悪気な笑みでこう言った。



「俺って言いなよ」



そんな優しい顔で甘い言葉を渡さないでほしい。期待したいという気持ちがほんのちょっぴり芽を出してしまう。もし、それを伝えたら幸村君はどんな顔をするんだろう。



企画もの