20161031


「ぎゃあああああ!!!!」



放課後の教室は日中よりも人が少ない。その中に、違うクラスの人も来たりしているので、いつもと違う顔ぶれなのだが違和感はないのが不思議だ。
休み時間で話しきれなかったことや、今日の出来事を報告しあって笑ったり怒ったり、一日の締めくくりみたいな時間。
この時間が大好きなのだが、今日に限って私の苦手な怖い話になった。

そして冒頭に戻る。




「うるっさいわ!」





「だって!だって!」
グループの子にうるさいと怒られ、周りからは何事だという視線を向けられる。でも恐怖には勝てず、もはや半泣き。

「大丈夫、魔物も味方には襲わないからさ」
物知りの子が教えてくれた、ハロウィンの日に魔物が来やすくなり更に人間に悪戯をするんだと。

「味方って…私、どう見ても、ただの、可愛い、人間だもん」
ぐすぐすと訴えると「可愛いはよけいだわ」と冷たくあしらわれる。
「だからみんな仮装するんだよ、仲間だと思わせるためにさ」
先程の物知りがまた知識を与えてくれた。
「か、かしこい!!!」
ハロウィンって、ただコスプレしてお菓子をもらえる素晴らしい日だと思っていた。よく今まで魔物に見つからなかったものだ。

「待って、でも、ハロウィン今日だよ?!変装してこなかった!やばい!捕まる!!!」
朝は通学の人集りで平気だったかもしれないが、帰りの時間はみんなバラバラだから一人になる道がある。その時にもし魔物に見つかったら…そう思うと自然と体が震えた。
この中に帰り道同じ子がいない、しかも辺りは薄暗い。

「ね、ねえ、今日誰か泊めてほしいな、なんて…」

「いや、急すぎでしょ」
「部屋散らかってるからなー」
「大丈夫、変顔してたら人間すら近寄らない」

一生のお願いを使いたいくらいの気持ちでお願いしたが、ただの必死なお願いだったせいか聞き入れてはもらえなかった。どうしようどうしよう、と普段使わない頭を回転させて、(あ、そうか、変顔でダッシュしたらいいんだ!)という答えにたどり着いた。

解決策がでて少し安心したところで「そろそろ帰ろうか」の言葉にみんな荷物を持ち立ち上がる。校門を出てしばらくは何人かと歩いていたが、途中で一人になった。
(ちょうどこの暗い道から一人なんだよなあ)

先程までわいわい賑やかに歩いていたのに、一人になったのと暗いのと魔物の話で足取りが重い。
(ダッシュしようと思ってたのに怖くてすくむ)

はやく歩けないならせめて変顔だけでもと思い、自分の考える中で一番こわい顔をする。
(これで仲間だと思ってくれる、はず!)

これで大丈夫だと言い聞かせていると、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だ。だが安心しきれない理由が後ろにあった。

顔をつくり落ち着いてから気がついたのだが、私に向かって足音が近づいている。道は広いはずなのに、斜めではなく後ろから聞こえる。

せめて前から来てくれたら仲間だと思ってもらえるのに、後姿は普通の人間だという盲点に気がつき冷や汗が止まらない。
振り返って確認したいが、もし、本当に魔物だったら。そう思うと見ることができない。近づく音にただ耳を集中させることで精一杯。

(いや、それとなく振り返ってこの顔見せたら大丈夫か?)
そうだ、それがいい!
なんて賢いんだろうと、思わずほほえみそうになるのを抑え、3.2.1とカウントしようとした。


「よお」


あろうことか声をかけられた。気がつかないふりをして立ち去りたいが、そうはいかない。逃げる事を見越してか肩に手をのせられている。

(駄目だ!私ここで終わりだ!!!)

まだ何かしゃべっているが、返事どころではない私は岩のように固まった。
それを無理矢理振り向かせる力は、さすが魔物といったところか。

「聞いてる?」

「効いてるすっごく効いてる!パワーはんぱない!」

「は?パワー?」

少し間抜けな返答に顔を見る勇気が出て、見てびっくり。密かに好意を寄せる人だった。

「仁王…なに、それ、変身できるの?!」
(そっくりすぎるんだけど!!!変身じゃなくて仮装?!魔物も人間に仮装して人間に近づく…そういうことか!!!)
妙に納得してしまい、仁王にそっくりということもあって、まじまじと見てしまう。こんなにしっかり見たのは初めてだが、肌身離さず持ち歩いている写真の中の彼と本当に似ている。

「みょうじ、変身ってなんの話?」
三年に上がり同じクラスになってから、話をするようになり名前を覚えてもらった。みょうじさんからみょうじに変わったのは割りと早かった。でも、これは仁王じゃない。

「そっそれより手を離してください」

「ああ、悪い…」
離してくれるのかと思いほっとするのものの中々離れない。それどころかぐっと力がはいる。ああ、これが魔物じゃなかったらどんなに嬉しい状況か。

「なんで力いれるの?!」

「離したら逃げるじゃろ」

「ままままさかあ!!あはは!」

「たまたま見かけたから一緒に帰ろう思って」

「一緒に、帰る……?」
(それって魔界に、だよね)
こうやって帰る時間が重なって、そのまま一緒に帰ることは確かに何度もあった。

「おん、暗いしな。みょうじも一応女の子じゃけえ」

「何言ってんの!まだ明るいよ!帰るには早いよ!もっと楽しんで行こうよ!!!」

「不良娘か!どう見ても暗いわ!」

「いやいやいやいや!私、まだ遊びたいから!」
だから帰るなら先にどうぞ!

腕に食い込む手を離そうとするが、片手じゃ魔物に勝てるわけがなく。
「何をそんな必死なん」

「私!まだここにいたい!魔界なんて行きたくないよおおおおおおお」

ついに恐怖に堪えきれなくなり、大声で泣き出してしまった。

(もう駄目だ。人間ですって認めてるもんじゃん。変顔だって振り向き様しかできなかった。)

終わりだと悟ってしまえば、落ち着いて一人反省会なんかしちゃって。ぶわーっと出ていた涙もじんわりになってきて(これからどうなるんだろう)相手の出方を待っていると「ぶほおっ」我慢したけど無理でしたと言わんばかりの魔物。

「なに?」

「おまっ、魔界って!」

「人間のフリしたって騙されないんだから!」

「馬鹿言いなさんな。俺じゃ俺、仁王雅治」

「おれおれ詐欺だ!偽者だ!」
どうやっても信じない私を

「ああもう!」


捕まれていた腕が前にぐんと引っ張られ、倒れる勢いに踏ん張ることもできず、ぽすん、と胸に飛び込んでしまった。すると思いきり抱き寄せられる。

「ぎゃっ!」
殺されてたまるかと必死にもがいたが、抜け出せるわけもなく。力尽きて、されるがままでいると「落ち着いたか」ゆっくり頭を撫でられる。その心地よさに自然と目が閉じた。視界がなくなると他の機能が敏感になる。まず、ドクドクと脈打つ心臓の音がよく聞こえる。それから、ダイレクトに香るのは、すっきりとした香水と、ほんのり汗の匂いだ。教室ですれ違う時と同じ匂いに、そっか、本当に仁王なんだとわかった。

「魔物だなんだって信じる中学生なんてみょうじくらいぜよ」

ゆっくりとした口調が、私の頭を整理させる。
(いつもの仁王の声だ)

「友達の話しが怖すぎて混乱してたのかも」

「俺はみょうじの顔の方が怖かった」
なんのことを言っているのだろうと考え、すぐに思い当たった。
「あれは!仲間だと思ってもらうために変顔してたの!」
「それで仲間だと思われるみょうじって…」
その一言に(それもそうだ)何していたんだろう、急に恥ずかしくなった。

「来年も懲りずにハロウィン怖がってそうじゃな」

「うぅ、魔物はいないのかなって思う反面、いないって言いきれないよね?」

「おらん」
はっきりいないと言いきると、撫でるのを止め体も離れる。ぬくもりがなくなって肌寒い。
「でも」と渋ると、一つ深呼吸をして真剣な目を向けてきた。もしかして後ろにに何かいるんじゃないのか、不安に泣きそうになる。そしたら困った顔をして頬に手を重ねてきた。



「魔物はおらんよ。でも怖いって言うなら、今日も来年も。その先もずっと、俺が守ってやる」












魔物はいるかもしれない。
でも、もう怖くない。

よくよく考えたら今までも仮装なんてしたことなかったのに、何もなかったし、魔物が悪戯するだけで、かわいいものかもしれない。

なんて、強がってみたり。








「なまえ、帰るぜよ」

「うん!」


いま、あなたのうしろにいるの





企画もの