「trick yet treat」
お昼ご飯を食べ終え中庭でうとうとしていると聞こえてきた声。目を開けるとそこには仁王がいる。私と目が合うと横に座りなおし、手のひらをずいっと差し出してきた。
「眠いんだけど……」
いくら好きな人相手でも眠気には勝てない。これあげるから寝かせて、と個包装のチョコをいくつか渡した。
「なんじゃ、お菓子くれるんか」
「丸井対策だったんだけどね、もうどっか行って」
「言い方がひどい」
もう無視を決めようとひざ掛けを頭からかぶった。寝顔を見られるのは恥ずかしいし、これでゆっくり寝ることができる。そう思ったのに、唇に触れたかすかな感触に驚き体を仰け反ると壁に思い切り頭をぶつけた。
「いっ……た〜い!」
ゴンッと鈍い音が耳から離れない。後頭部を抱えて丸くなる私に大丈夫かと聞いてきた。
「全然大丈夫じゃない痛い無理なにが起きたの」
「頭は想定外じゃった、ごめん」
涙目で捲し立てるとしょんぼりした顔で頭を撫でながら謝ってくれたが、よくわからないので説明をしてほしい。
「なにしたの?」
「え?わからんかった?」
「わかりたくないというかなんというか」
「お菓子くれたからキスした」
「なんで?!お菓子あげたじゃん!」
なんとなく仁王のことだから指でしたって言うかもと、うっすら期待したのにどういうことだ。
「最初に言うたけど」
「trick or treatでしょ?だからお菓子あげたのに」
「違う、trick yet treatじゃ」
何が違うんだ、すぐに理解できずにゆっくり復唱すると微妙に違うことに気が付いた。
「え?yet?ってなに?初めて聞いたよ」
「まんまじゃ、お菓子くれイタズラするけどな!」
「えー?!そんなのあり?!」
ずるいずるいと騒ぐ私を笑いながら、大丈夫ひざ掛けかぶってたから誰からも見えとらんって慰めてきた。けど、そうじゃない。そうじゃないよ。いや、それもなんだけど付き合ってないのにキスってどうなの。そう反論するが次の一言で黙ることにした。
「あんま騒ぐならまた塞ぐなり、もちろんここで」
唇に人差し指を当てていたので意味がわかった。大きな声は出さずにとりあえず文句を一つ。
「私、初めてだったんだけど」
「嫌じゃなかったろ?」
「順番ってものがあってね」
「まあ、俺も初めてやったし」
嘘くさいな〜と睨むと試してみるかと聞かれたので信じると返した。それに対してどちらにせよ傷ついたって言うから、自爆しただけじゃんって笑った。
「ねえ、責任とってよ」
強がってそう言うと、優しく手をつないできた。
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