同じクラスのみょうじはよく笑う奴だ。なにが楽しいのかわからないが、とにかく毎日ケラケラと笑っている。気がつけば目で追うほどに。
朝練でヘトヘトな体を引きずって教室に入れば、今日も聞こえてくるみょうじの笑い声。つい見てしまうのも、みょうじが一際かわいく見えるのもキラキラと光って見えるのも、やっぱりたぶんきっとみょうじのことが好きなんだと思う。
キッカケってなにかあったかと記憶を振り返った時、小腹をすかせてる時に「丸井君お腹なってる、足しにはならないけどどうぞ」って笑顔で1口サイズのチョコをくれたことか。我ながら単純だ。でも恋に落ちるには自分にとって充分だったということだ。
「おはよう、なに笑ってんだ」
「丸井君、おはよ〜」
幸いにも隣の席になるという奇跡が今学期の席替えでおきた。好きだから話をしたいし、好かれたいから意識してほしくてささいなことでも声をかける。毎日、毎日。
「あのね、お餅が食べたくなってお味噌汁にいれたんだけど、なんと中にあんこが入ってたんだよ〜!びっくりしちゃった」
「それ食べたのか?おいしかった?」
「ちゃんと食べたよ〜味は……丸井君もやってみて?」
ちょっと意地悪な笑いを含めているのは、それが答えなんだろう。そんなことで朝から楽しそうにしてる姿がまたかわいいと思う。人生楽しいんだろうなって、微笑ましくすら思う。
そんなみょうじが切なさそうな顔をしてたから、つい声をかけてしまった。
「みょうじ、なにしてんの?」
放課後、忘れ物をして教室に戻ればみょうじが1人席に座っていた。窓の外を見ていたので、入ってきた俺には気がつかなかったようだ。
「あ、丸井君……部活は?」
「もう終わった」
「はやかったんだね」
「いや、いつも通りだけど」
もうそんな時間なのかと驚くみょうじに、もう一度どうしたのかと聞いた。
「丸井君はさ、好きな人、いる?」
この質問に一瞬バレてしまったのか、と心臓がドクリと鳴る。ちょうど今日の昼休みに呼び出されて知らない子に告白されたばかりで、その時に好きな人がいるのかと聞かれたから、素直に答えたことを思い出した。でも、今はなんと答えるのが正解か分からず、質問に質問で返ってきたのに更に質問で返す。
「なに、みょうじ好きな奴いんの?」
「……へへ、片想いなんだけどね」
口は笑ってるのに眉が下がっていて、こんなさみしそうな笑顔は初めて見る。そんな顔にさせる奴が誰なんだとかいつもの笑顔が見たいのにとか、ふつふつと感情があふれた。言葉と共に。
「そんな奴やめとけば」
「え?」
ハッとみょうじを見ると、さっきよりも悲しそうな顔をしてした。
「いや、なんか、辛そうだし……」
本音だけど言い訳に感じるのはなんでだろう。
「そりゃ、片想いだもん楽しいだけじゃないよ」
それはそうだ。だって、現に今好きな人に好きな人がいるとわかって辛いじゃないか。本当に嫌という程わかる気持ちに「まあな」としか言えなかった。それを聞いてやっぱりさみしそうに笑うから、後悔する言葉をすることになる。
「俺で良かったら相談のるけど」
ほら、男のことは男の方がわかるだろい?なんて、本当は誰か知りたくて、隙があれば自分にふりむかせようなんて必死なくせに。
「本当?」
「おう、なに悩んでるんだよ」
「その人、好きな人いるんだって」
だからどうにもならないんだよねって、また無理して笑顔をはりつけている。
「やっぱりやめればいいじゃん、そんなの」
なんて、自分だって好きなのをやめられないくせに酷いことを言うもんだ。
「そうできたら楽なんだろうけどね」
その人を考えているのか優しい顔にかわる。それが気にくわなかった。
「俺に、すれば?」
「……え?」
「だから、俺にすれば?」
なにを言っているのかわからない、という困惑した表情。なんか、今日1日だけで色んな顔を見た気がする。でもそんな風に困らせたいわけじゃない。
「なんて、冗談」
「なんだ、びっくりしたよ」
ホッとしたみょうじに、やっぱり自分じゃだめなのかとため息がでる。
「丸井君、好きな人いるんじゃないの?」
そういえばさっき同じことを聞かれたけど、答えてなかったなと思い出す。だから、それがみょうじなんだと言えたらいいのに。
「いるけど、なんで?」
なんで、なんて意味もない期待をほんの少しだけこめて聞いてみる。
「え、と、噂で聞いたから」
どんな噂だよと思わず眉間に皺を寄せてしまう。
「俺にすればなんて、好きな人にしか言っちゃダメだよ」
ああ、そういうことか。だからもう一度聞いてきたのか。こうなればもういい、真田の真っ向勝負だという台詞を頭に思い浮かべながら言葉を放つ。
「好きな奴にしか言わねーよ」
「うん……?」
いまいちわかってなさそうに首を傾げるからちゃんと伝える。
「俺、みょうじのことが好きだから」
目が飛びてるんじゃないかってくらいひどく驚く様子に、まあそうだろうなと妙に納得する。
「だから、やっぱり相談にのるのはやめる」
真剣な顔をしてそう言うとみょうじも緊張した様子になった。
「そいつより、俺の事で悩めよ」
ここにきて急に恥ずかしくなってきてしまい、何も言わないみょうじをいいことにその場を去ろうと背を向ける。
「ま、待って!!!」
はやくその場から帰ろうと思ったのに、手首をつかまれた。その手じゃまわりきらなかった指と手のひらを感じる。
「あのね、私の好きな人、丸井君なの」
真っ赤な顔をして小さな体から大きな声でそんなこと言うから、かわいくて手首をつかみ返すと自分の方へ抱き寄せた。