「ねえ幸村はチョコとか食べるの?」
前もって聞くのはあげますと言っているようなもので聞けずに当日まできてしまった。同じクラスの隣の席の人に聞いてみた。というか知りたかった。所謂本命っていうものを彼にあげたいからだ。彼は考える素振りを見せてから答えた。
「なに?バレンタインでもくれるの?」
綺麗な顔で笑うその表情にどんな感情がのせられているのかわからない。
「まあ隣の席だし配ってもいいかなって」
どう返すのが彼の心を揺さぶれるのか分からなくて可愛げのないことを言ってしまう。しかしこう言ってしまえば例え本命をあげたとしても彼にとっては友チョコとして認識される。それでいい、自己満足なのだ。本命かどうかなんて私だけが知っていればいい。
「俺はね、本命しか受け取らないことにしたんだ」
「さぞかし大量でしょうね」
「気になるの?」
「ちーっとも!気にしてない!」
気にするに決まってるだろう。
そもそも義理で持ってくる人はいるのだろうか。ほぼ全部と言っても過言ではないだろう、本命しか渡しにこないと思う。それにしても配送しなければいけないだろうという量をもらうはずなのに本命しか受け取らないとはどういうことなのだろうか。逆ならわかる、義理だけしかもらわないなら理解できるのに。それなら私も実は本命だと伝えてしまえばもらってもらえるのだろうか。
「その人の彼氏になりたいと思ってるんだよね」
つまりそれはそういうことか。本命って、彼の好きな人からということか。なるほどそれなら納得だ。それにしても随分と余裕だな、彼氏になりたいって両想い前提ではないか。そういえばもうお昼になるというのに確かに彼の机にはチョコが一つもない。ロッカーに入れてると言われてしまえばそれまでだが。
「なんだ、幸村が本命の子ってことか」
「お互いに、だよ」
「自信あるんだ」
「まさか、今からアピールするところ」
当日にアピールしても用意してなかったらどうするのだろうか。なんて考えても私には関係のないことだ。私だって今日までなにもできなかったのだから似たようなものだ。渡す前に失恋して良かった、鞄の中に一つだけ包装の違うそれを帰ってからやけ食いでもするかとため息をついた。
「ねえ」
「なに」
「前に駅前にできたお店のクッキー食べたいって話してたでしょ?」
「うん!まだ買えてないんだよね」
落ち込んだ気分だったが興味のある話をふられて元気に返事をしてしまった。色気より食い気か、と自分に呆れてしまう。彼はちょっとしたことでも覚えてくれててどんなくだらない会話も楽しくしてくれる、そういうところも好きなのだ。
「あれ絶対に買うからさ」
「幸村も気になってたんだ」
「まさか、ホワイトデーに用意するからって意味」
「ああ」
なんだ、結局その話になるのか。わざわざ私に話さなくてもいいだろう。思わず投げやりな相槌をうつと彼はクスリと笑った。
「だから、ね?」
スッと差し出された手のひらをジッと見つめる。これは、なんだろうか。お手でもしたらついでに買ってきてやるよとでも言うのだろうか。なにを意味しているのかわからなくて困惑したまま彼の方を見ると変わらず笑顔だった。
「チョコ、俺にちょうだい」
やっぱり自信があるのではないか。私がなにも言えずにいるというのにもらう気で手を引こうとしない。いつからバレていたのだろうか、こんなに都合の良いことがあっていいのだろうか。頭の中がこんがらがる。鞄の隙間から覗いている一つだけ包装の違うチョコに手を伸ばした。