◇君を待つ

中学校生活、最後の三年生。

せっかく同じクラスになれたのに、席が離れていて班も違う。仲良さそうに喋っている丸井君と周りの人達。

最近は友人と話していても、楽しそうに笑う声が聞こえてくるとつい姿を探してしまう。私も話にまざりに行ったとして、きっと誰も嫌な顔なんてしない。それでもそうしなかったのは教室は同じだし、それなりに話すし、女子の中でも特に近い存在だと思っているから。


新学期になると先生が「心機一転」と手作りのくじを持ってきた。一番後ろではないが窓際の席を引き、いそいそと荷物を持って移動する。新しい席の座り心地を確認していると、隣に丸井君が座った。

「みょうじと隣は初めてだな、シクヨロ!」

「よ、よろしく!」

それからというもの、休み時間の度にと言ってもいいくらいよく話すようになった。今まで見ているだけだったやり取りが私とされている。授業の話、部活、テレビ番組…。今日は最近駅前にできたケーキ屋のことで盛り上がっていたら、「丸井君」と呼ばれて席を外した。

誰だろうと目をやれば、隣のクラスの女の子がいた。顔を赤くして笑っている姿から、告白の予約でも入れたんだろうか、なんて想像する。もしかしたら噂になっていないだけで、もう付き合っているかもしれない。

そう思うと胸が苦しく、仲がいいのは自分だけじゃないんだと寂しくなった。


はやく。はやく戻ってこい。


たまに見かける、お店の前で待たされている犬はこんな気持ちなのかもしれない。ふと、どうでもいいことを考えて少しおかしくなる。

私の思いとは裏腹に、会話がはずんでいるのか中々戻ってこない。

ぽかぽかと心地いい温度。起きていると嫌な考えしかできない、と机に体を預けて寝る体勢に入る。本格的に眠りに入りそうになった時、近づいてくる足音に顔を上げた。

「起こしたか?」

優しく声をかけてくる彼に、やっと戻ってきたんだと嬉しくなって「おかえり」と伝える。それを聞いて目を丸くさせ小さく笑った。

「おう、ただいま」

続けて少し意地悪そうな顔をして聞いてきた。

「寂しかった?」

「うん、だから、おかえり」

私の頭をそっと包むように手のひらが三往復くらいさせて席につく。撫でられたばかりの頭を確認するように手で押さえた。目を細めて微笑む彼に、なに、と首を傾げる。


「みょうじ、可愛すぎ」


その言葉に恥ずかしくなって「からかわないでよ」と肩を軽く押す。

「いつも俺のこと見てるよな、誰かと話してると混ざりたそうにしてるし」

何を言ってるんだと言いたいが、否定することができない。

「さっきも背中にすげえ視線感じた、戻ってきたら本当に嬉しそうにするしよ」

今度は頭に手を乗せてそのまま動かない。

「この辺に、耳、ありそう。ついてないはずの尻尾まで見えたぜ」

あれ、なんか違うよねと彼を睨みつける。
「ねえ、それって私が犬みたいって言ってる?」

「違う、好きだって言ってる」

「なにそれ…」

まるで遊ばれているようで喜べないのに、嘘でも好きという言葉が嬉しくて顔がにやける。



「ほら、そういうところ、可愛い」