◇欲しいものは決まっていた

いきなりだが私の彼氏は格好いい。
雑誌に載ってるモデルでもおかしくないくらい格好いい。
恋は盲目?いやいや、本当に誰もが羨む彼氏だ。見た目が良いだけではなく、テニス部部長として勝利へ導いている。病気とも闘いぬいた。彼の努力と強さは尊敬する。

そんな彼と今、私の部屋にいるのだが先程から気になっていたことがある。昨日テレビを見ていたらオーラのない長髪タレントが出ていた。その彼が髪をくくった瞬間、劇的にかっこよくなったのだ。

だから、気になる。
精市が髪を束ねたらどうなるのか。


「なまえ、さっきから見つめてきてどうしたんだい?そろそろ穴が開きそう」


私はどうも気になるとガン見する癖があるらしい。ベッドに寄りかかっていた体を彼へと傾ける。

「ねえ髪くくってみせてよ」

私は手首につけていたヘアゴムを彼に差し出した。それを見た彼はきょとんとした後、「良いよ」とにっこり笑い、躊躇なく髪をすきながら束ねていく。

「どう?」

「綺麗!すごい綺麗!」

「そう、綺麗?」

束ねる仕草も、まとめられたその姿も、息が止まるかと思うくらい綺麗だった。まるで映画のワンシーンを見ているかのようで興奮した。興奮した勢いで奇麗だと連呼すると途端に彼の綺麗な顔つきがかわった。目を細めて口元は綺麗に弧を描く。若干流し目なこともあり神秘的な雰囲気になった。

その事に戸惑う私を見て彼は迫ってきた。
「俺は自慢のかっこいい彼氏じゃなかった?」

「ち、近いよ精市!」

後ろにベッドがあるためこれ以上は逃げられない。いつもと違う雰囲気、追い詰められた距離に慌てる私と、余裕の表情を見せる精市。両手で彼を押さえようとも力じゃ全然敵うわけがなくて簡単に抱き締められた。そのまま耳元でぽつりと呟く台詞に私は動揺した。

「今日、誕生日なんだよね」

「ごめん……知らなかった」

「うん、言わなかったからね」

「だからさ」

抱き締めていた腕がほどかれその両手は私の顔を包んだ。



「なまえのファーストキス、ちょうだい?」