◇ホワイトデーのお返し

同じクラスになって、よく喋るようになって、好きになって……。


せっかく用意したチョコ。柳の周りには女の子が次々押し寄せていて、いつ渡せばいいかわからずタイミングがつかめなかった。もう自分で食べようかなって諦めた時、声をかけられた。

「そういえばまだチョコを貰っていない」

「どれだけ貰えたら満足なの」

「違う、みょうじからだ」

柳ってそんなにチョコ好きだっけ、という疑問はあるが催促されたおかげで自然と渡すことができた。でも本命だからとは言えなかった。

「ホワイトデーちょうだいね」

「ちゃっかりしてるな」

もっと可愛く言いたかったけど「ありがとうな」って笑った顔を見て渡せただけでも良かったなと思えた。


それが一ヶ月前のこと。
今日は、三月十四日。


ちょうだいとは言ったが、貰えないだろうなと思っていた。教室に入ると柳がみんなにお返しをしているところだった。だから期待してしまうのは仕方がないと思う。

「おはよう」

「お、おはよ!」

目が合い挨拶をして、終わり。
私もあげたのに、ちょうだいって言ったのに、私だけ抜かしてお菓子を配る。もしかして自分からあげた子にしか返していないのかもしれない。

「え、私あげてないよ?」

「前に差し入れくれたからな」

「ありがとー」

そう思うとしたのに、そんな会話が聞こえてきて、あんな渡し方しなければ良かったと泣きそうになった。それはそれは悲しくて、気がつけば午前の授業も終わりお昼休み。みんなの「柳君、チョコ頂きまーす」のやり取りを聞いていたくなくて、お弁当を持って教室を出た。

屋上へ行くと寒いせいか誰もいなくて、やっとゆっくりできると安心して座った。するとすぐに扉の開いて、空気読めよなんて自分勝手な八つ当たり。

「やはりここにいたか」

聞こえてきた声に振り向くと小さな紙袋を渡された。

「みょうじ用だ、みんなとは違うから内緒だぞ」

「ありがとう……」

「返事はいつでもいい」

それだけ言うとすぐに出て行ってしまった。

返事、ということは手紙でも入っているのだろうか。こんな日にそんなことを言われると、どうしても期待してしまうではないか。ドキドキ高鳴る胸に急かされながら開けるが手紙は入っていなかった。中はチョロルチョコだけ。

ちょっとがっかり。いやいや、これは私だけって言ってたじゃないか。

まるで自分だけ特別というのが嬉しくて膝の上に広げた。裏返った物をひっくり返して気がつく。全部で九個、ひらがな一文字ずつ書かれている。もしかして文章になるのかもと、組み立てていくと出来上がった言葉。


違う、間違えた。
本当はなんて言葉になるはずだったの。


何度やり直しても同じ。そうであってほしい気持ちが、同じ言葉しか作れない。


「こら!廊下を走るな!」


先生の注意も聞かず教室へ急ぐ。
柳の前まで行くと来るのがわかっていたと言うように小さく微笑だ。

「思ったより早かったな」



「私も、で良いのかな」