“ねむれない”
その一言だけを白石にラインする。健康オタクのことだ、もしかしたらもう寝ているかもしれない。けれど予想に反してすぐにスマホが震えた。……電話だ。
『白石』
『どうしたん?なまえ』
『白石やぁ……』
優しい声が聞こえてきて、少しだけ泣きそうになった。
『なんかあったん?大丈夫か?』
『ごめん、あんな、辛くて』
『うん』
言葉につまって何も言えなくなる。理由を言ったって、白石を困らせるだけだ。
『ゆっくりでええで、なんでも聞くから』
それでもこの優しい声に甘えたくなるのは、相当弱気になっているからかもしれない。
『頭が、痛くて……』
『そうなん、熱は?』
『ちょっとだけ』
もうこんな時間だから、会いに来てもらうことが難しいだなんてわかってる。
『そばにおってくれたらいいのに』
『そうやな、どこでもドアでそっちに行けたらいいのに』
無茶だとわかっていても、言わずにはいられなかった。電話越しに声が聞けただけでも充分だから、となんとか自分に言い聞かせる。
『あんな、はよ寝てほしい』
わかってる。でも、眠れないの。そう思っていることが伝わっているかのように、白石は言葉を続ける。
『はよ寝て、はよ治そう。そしたら明日の朝一番に会えるから』
『朝?』
『そう。明日の朝、なまえの家の前まで迎えに行くな。そんで、頑張って治したご褒美によしよししたる』
『子どもじゃないねんから。……でも、ありがとう』
『うん。ええ子やから、ちゃんと寝てな。大丈夫、なまえが眠れるまで電話やけど付き合うから』
ありがとう、と白石に伝えるよりも早く瞼が落ちそうになった。だめ、伝えなきゃ、と自分を奮い立たせる。
『なんか、ほっとした。ありがと、もう』
眠れそう、という言葉は最後まで言えただろうか。
『なまえ?寝たん?……おやすみ』
大好きな人の甘い声。さっきまで耳元で聞こえていたはずなのに、今はもう遠い。