◇もうおやすみ

“ねむれない”

その一言だけを白石にラインする。健康オタクのことだ、もしかしたらもう寝ているかもしれない。けれど予想に反してすぐにスマホが震えた。……電話だ。

『白石』
『どうしたん?なまえ』
『白石やぁ……』

優しい声が聞こえてきて、少しだけ泣きそうになった。

『なんかあったん?大丈夫か?』
『ごめん、あんな、辛くて』
『うん』

言葉につまって何も言えなくなる。理由を言ったって、白石を困らせるだけだ。

『ゆっくりでええで、なんでも聞くから』

それでもこの優しい声に甘えたくなるのは、相当弱気になっているからかもしれない。

『頭が、痛くて……』
『そうなん、熱は?』
『ちょっとだけ』

もうこんな時間だから、会いに来てもらうことが難しいだなんてわかってる。

『そばにおってくれたらいいのに』
『そうやな、どこでもドアでそっちに行けたらいいのに』

無茶だとわかっていても、言わずにはいられなかった。電話越しに声が聞けただけでも充分だから、となんとか自分に言い聞かせる。

『あんな、はよ寝てほしい』

わかってる。でも、眠れないの。そう思っていることが伝わっているかのように、白石は言葉を続ける。

『はよ寝て、はよ治そう。そしたら明日の朝一番に会えるから』
『朝?』
『そう。明日の朝、なまえの家の前まで迎えに行くな。そんで、頑張って治したご褒美によしよししたる』
『子どもじゃないねんから。……でも、ありがとう』
『うん。ええ子やから、ちゃんと寝てな。大丈夫、なまえが眠れるまで電話やけど付き合うから』

ありがとう、と白石に伝えるよりも早く瞼が落ちそうになった。だめ、伝えなきゃ、と自分を奮い立たせる。

『なんか、ほっとした。ありがと、もう』

眠れそう、という言葉は最後まで言えただろうか。

『なまえ?寝たん?……おやすみ』

大好きな人の甘い声。さっきまで耳元で聞こえていたはずなのに、今はもう遠い。