朝御飯も財布も忘れたと気がついた時に、真っ先に浮かんだのは白石と千歳。でも三年の教室はここからでは遠く売店に行く時間がなくなる。
クラスメイトでも友達はいるが部活同じ方が返しやすいと思った彼は、ここから近い二年の、財前光の教室へとダッシュした。
しかしあっさりと無いと言うものだから、隣にいた女の子に声をかける。彼女は咄嗟の事で驚いた顔をしていたがパンをくれた。
彼は、正直全く足りなかったがあのままではきっと昼までもたなかったであろう。もう一度お礼を言おうと思っていたが、休み時間ごとにいつも通り遊んでしまい結局言えることができなかった。
その日の放課後にフェンス越しに見ている彼女を見つけ、帰りに声をかけようと思っていたがすでにおらず。次の日の朝も見に来ていたのにやっぱり終わる頃にはいなくて、次第になんで声をかけようとしていたのかもわからなくなった。更にはもう彼女のことはすっかり頭の中から消えてしまっていた。
ある日の朝、テニスコートへ向かおうと走っていたら通りがかりの女の子に声をかけられる。
「お、おはよう!」
それは決して大きな声ではなかったがちゃんと彼の耳に届いた。彼は彼女の方へ振り替えると「おはよう!」と満面の笑顔で答える。そして「あ!パンの姉ちゃん!!!」と目を見開き近づいていく。
「あの時はほんに助かったねん!おおきにな!姉ちゃんもなんか困った事があったらワイに言うてや!」
どん、と拳一つ胸に当てると彼女はくすくすと笑い「ありがとう、金ちゃん」と名前を呼んだ。「ほなな!」あ、ワイも姉ちゃんの名前聞けば良かった、と思ったが光に聞けば良いとそのままコートへ向かっていった。
そしていつもと同じく楽しく部活をし、みんなでたこ焼きを食べて帰ろうとはしゃいでいると財前が「あ、みょうじさん」と一点を見ているので自然と皆の視線もそちらへいく。
一気に向かれた視線に気がつき、こちらを振り返った顔は焦っていたようにも見える。
彼はすぐにパンの姉ちゃんだと気がつき、声をかけようとしたが先に声をかけたのは財前だった。
「今帰りなん?」
「う、うん」
「今日は遅いねんな」
「ちょっと、わからない所があって、先生に教えてもらってたん……」
たどたどしく答える姿はまるで迷子の子どものようにも見えた。
「ふうん、遅いし送ったるわ」
「え、だ、大丈夫やで」
「家同じ方向やし俺も帰るとこやし」
「み、みんなで帰るんやないの?」
「たこ焼き行くねんて、俺腹減ってへんし」
そんな会話を聞いていたみんなが「光きゅんにもはるがきたのかしら」「え、財前の彼女なん?」「謙也先こされたな」「むぞらしか子やね」なんて話す内容になんとも言えないもやもや感がうまれ、気がつけば「姉ちゃん!この前のパンのお礼や!たこ焼き買うたる、一緒においでや!」と彼女の手をぐいっと引っ張り財前から引き離した。
「……金ちゃん、無意識なのかしら」
「まさか金ちゃんが、なあ?」
「せ、せやで!まさかやで!」
「金ちゃんに限ってなあ」
これはもしかしてやきもちではないか?とみんなが思うなか財前が「みょうじさん困ってるやん」と金ちゃんに離せと彼から握られている彼女の手をほどこうとする。
「光きゅんも無意識なのかしら」
「どうなんやろ」
「いや財前が無意識とかはないやろ」
「とりあえずたこ焼き、行かへん?」
財前と金ちゃんに挟まれた彼女は少しずつ変わっていけるのかも、しれない。
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